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75話 出奔娘の捜索①

 かくして翌朝のこと。

 昨日の宣言の通りに早く起きた私たちは部屋を交互に使って身支度を整え、先に終えた私とシュウが入れ替わるのとタッチの差で隣の部屋から出てきたハランさんと出くわした。


「おう、おはよう。昨夜は2人で寝てたのか」


「え、ええ。私たちが帰ってきた時にはもうお2人ともぐっすりでしたので……」


 鈍さの感じられないその動きを見るに、ハランさんはどうやら寝起きというわけではないらしい。


「あの子は見つかったか?」


「見つかるどころか進展もありませんでした」


「そうだったか……早く見つかるといいけどなぁ」


「……ということで今日は治安維持隊に駆け込むことにしました」


「なんだか治安維持隊にお世話になってばっかだな、俺たち」


 お世話になった件、全てが私の関連するところという……。

 この人の性格的に皮肉などではなさそうですし、苦笑で返しておきましょう。


「はは……」


「俺たちはどうしようか」


「あー、今回は別に健全なところですしついてきていただいてもいいのですが……何か用事が?」


「夜にちょっとなー」


 絶対シュチさんの店に行くつもりです、この人。長くモルゲンから離れていたようですし、また一昨日も昨日もテンユちゃんのお守りをしてもらっていたので溜まるものも溜まっているのでしょう。

 常連のようですしね、付き合いというのもあるのかもしれません。


「分かりました。まあそんなに時間はかからないと思います。出奔娘の問い合わせをするだけですし」


「ならよかった」


「あと全然関係ないんですが、この街ってなんだか遍在している魔力が少なくないですか?」


「おお、よく分かったな。そうなんだよ、モルゲンは他の街と比べて、あらゆるモノからの魔力の垂れ流しが極端に少ないんだ」


「どうしてです?」


「馬車の中でも言ったけどモルゲンは昔、モンスターからの襲撃が多かったんだ。街をモンスターがこぞって襲う理由ってなんだと思う?」


「うーん、人間がいっぱいいるから、とかでしょうか」


「近いな。正解は街に魔力が溢れているから。ほら、モンスターは大きい魔力に引き寄せられるって習性あるだろ?」


「あー、そうなんですか?初耳です」


「商人の俺でも知ってることなんだけどな……もしかしてヒューガ、ド田舎出身か?なーんて」


 どこかで聞いたことのある台詞。


「とはいっても1番の原因は辺鄙な場所にあるせいで周りに巣を作られやすいってのもあるんだけどな。都会の方だと駆除隊とか設置されることもよくあるからさ、モンスターは人間が少ないところに逃げてくるんだよ……。それで魔力の垂れ流しが少ない理由はそう、モンスターの襲撃を減らすため。革新都市って呼ばれるだけあってそういう技術はすぐできちゃったんだな。もっとも戦闘のための魔法技術もあったわけで別に襲撃されてもすぐ鎮圧できたんだけど。まあ安全な都市っていうことで売り出すための念入りだ」


「な、なるほど……」


 だからあの忌まわしき疼きが発動しにくくなっていたのですか。納得です。私にとっては天国みたいな街かもしれません。

 とりあえず()()()()()で発動するのは控えてもらいたいものです。今までどれだけ多くの人に勘違いされてきたか……そういったことが少なくなるなら本望です。

 そうこうしているうちに、


「待たせた」


 と身支度が整え終わったらしいシュウの声が後ろから聞こえてきた。

 何か気の利いた言葉をかけようと思ったものの、特に思いつかず、


「よし、それでは準備もできたことですし、参りましょう、隊長さんの元へ」


 私のすぐ横まで来ていたシュウの胸元を見ながらそう言った。


「……?」


 いつもは顔を見ることができるのですが、今日はそこまで顔が上がらなかった……というのは詭弁でしかありませんね。シュウも私の不自然な目の動きに困惑しているようです。

 昨夜、別にナニカがあったわけでもないのに、なぜか気まずい。私だけが一方的に、勝手に思っているだけでしょうが。

 性の空間に侵入し、続いてシュウの無自覚たる篤実的振る舞い、そしてベッドの共有。立て続けにそんなことがあればおかしくなってしまうというものです。そう、昨日の私は──ああっ!思い出しただけで体が熱くなる!なんであの時の私はあんなにも積極的だったんでしょうか!よくもまああんなことができてしまいましたね。身体を押し当て、密着し、気恥ずかしい言葉もかけて……なんてふしだらな……。

 というかもし疼きがなかったらどうなっていたか……。胸元に視線を当てるどころか、シュウ自体見ることは叶わなかったでしょう。そう考えると救われたと言えるんでしょうか……。

 忌々しき存在に危機一髪助けられてしまったというのは実にもどかしい気持ちです。


「よし、じゃあテンユを起こしてくるぞ」


 待って!2人きりにしないで!


「あーっと、お願いします」


 脊髄反射のようにそんな言葉が出てしまった。

 ハランさんは振り返り、部屋のドアノブに手をかけ、そして当たり前ですが、私の事情などお構いなしに入っていく。


「ああ、いってしまった……」


「どうかしたか?」


「い、いえ、なんでもないです……」


 言えるわけないでしょう、特にあなたには。

 というかなんなんですか。なんでこの男はずっと平常なんですか。私がくっついた時には全く見当違いなことをほざいていましたし……天然で鈍いんですか?

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