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73話 無自覚な行動③

 感情さえ表現できれば満足?好意的な反応を求めていない?シュウはなぜ私の話を少し聞いただけでそんなことが分かってしまうのでしょうか。

 私は当事者であるのに全く気づくことができませんでした。いえ、シュウの推測が全て正しいとは思いませんし、鵜吞みにする気もありませんが、近くで見続けていた第三者の言葉というのには、交友の経験が多くない私にとっても価値があります。

 しかし仮にシュウの言っていたことが合っていたとして、表ではあんなに好意を振り撒いてくるのに、なぜリンはそんな方針に行きついたのか、それがよく分かりません。なんだか矛盾している気がするのですが。

 シュウも無言の中、どうやら私と同じように頭を巡らせていたらしく、ようやく沈黙を破って口を開いた。


「ここからは俺自身の考察になるが、リンはチカのことを偶像的崇拝の対象として捉えていたのかもしれない」


「崇拝……ですか?」


「ああ、リンはもともとチカのことを”遠くにいる素敵な人”として思いを馳せていた。これは目に見えぬ幻に輪郭を作り、神格性を付与したということ。そう、これはまさに偶像的崇拝の始まりの過程と言える。それが思いも寄らぬことに現実世界、もとい自分の目の前に現れた。当時のリンは相当混乱したことだろう。しかしてついには現実を完全に落とし込むことができなかったと見える」


「……いや、それはおかしいですよ。私に神格性を見出していたのなら畏れ多くて触れること、夜這いなんて無礼なことできるはずがないでしょう」


「そうだな。これは俺の説明が悪かった。簡単に言えば……神格性を持つ存在から”アイドル”的存在に成り下がったとも言える」


「アイドル?」


 突拍子もない単語が出てきましたね。


「ああ、多くの人間はアイドルとは交際できないことを知っている。またアイドルはファン全員に平等に愛を振り撒くのが仕事で基本的に誰かを贔屓することはない。つまりファンは好意的な反応を求めようがないということだ。そしてファンの目的は交際などではなくアイドルを推すこと、もといアイドルへの愛情を表現することだ。この現象とリンの心情は一致するのではないだろうか。ただ本当にそのアイドルが触れるほど目の前にいるわけだから、あわよくばとは思っていたのかもしれないが」


 リンは私のことを神だとかアイドルだとか自分とは遠い存在だと考えていた?私も大概じゃありませんが、リンが私のことをそう考えていたというのは、それはそれで距離があるようで寂しい。

 しかしこのことについて、なんだか理解できる気がする。リンはやんごとなき出生で次期国王。現実的に考えた時に、私との交際というのは難しい。そうやって諦観し、またソレを正当化するために神格性を持たせて偶像に仕立て上げた、というところでしょうか。

 表ではあんなに空気も読めず、自己中心的な人間であるのを演じているのに、その内側にはある程度の理知が潜んでいるというのが何か私の知らないリンというのがあって、また本来であればリンは遠い存在であるということを突き付けられているようでむかむかしてきます。

 リンはあの迷惑とも言える正直さをずっと周りに振り撒いていればいいんです。トートロジー的ですが、それこそリンであり、リンなのです。

 シュウがリン寄りに同情を抱く気持ちも分かった。例えると要はこういうことでしょう。

 ある者は自分の信仰している神に対して色々尽くしているが、何か恵みが返ってくるというようなことはなく、なんなら災いが降りかかってきたり、無視なんてのもざらにあった。しかしその者はそんな形態でも別に構わないと尽くすことを続けていた。ところがある時、その神が「お前の私に対する信仰は信仰ではない」などと言ってきた。神は恵みも与えず、ただ信仰を受けるだけであるのにも関わらず、その者の敬虔なる信仰を傲慢にも否定したのである、と。

 ……第三者的に考えてみればリンの怒りももっともですね。邪神にもほどがありますね。


「それにな、パーティーメンバーだから、仲間だから、そうだとしても恋愛をする権利はあると俺は思う。実際、パーティー内で結婚するなんて話は珍しくもないしな」


「そう……なんですか」


 この世界のそういった話、私が知るわけありません。しかし……そうなると私の思考回路は変化を強いられることになりますね。

 いや、違う。そんなこと別に分かっていた、というのは言い過ぎですが、なんとなく、無意識下で理解していた。職場恋愛があるのにパーティー内恋愛というのがないというのは不自然だ。職場より密接で四六時中一緒にいて、共に困難に立ち向かい、時には死線を超え、時には踊り明かす、そんな関係。恋愛しないはずがない。

 そう、私は恐れていたのだ。関係性が破壊されてしまうかもしれないということ、そして恋愛という未知の世界に踏み込んでしまうのを。

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