72話 無自覚な行動②
……このベッドはこんなに広かっただろうか。うん、広かった。私が小さくなったわけでもベッドが広がったわけでもなく元々広かったのだ。昨夜はリンが異常に密着してきていたからあんなに狭く感じたのだろう。王城では、それはそれは豪勢なベッドで眠るのだろうし、そのせいで自分のテリトリーの大きさを見誤ったのだろう。いや、元来から持つわがまま的精神、または貴族特有の「ベッドがこんなに小さいわけないだろう」というバイアスが作用したのかもしれない。
私とシュウはそれぞれ外側を向いて、個人個人の毛布に包まり、マットレスに身を預けていた。
2人で寝るといってもシュウと私の距離は遠くて、ベッドを共有しているという事実があるだけで1人で寝ているのとあまり変わらない。
ベッドに入って数分。シュウはもう寝てしまっているのか何も動きを見せない。リンとは大違いですね。
さて、リンは今も一体どこで寝ているんでしょうか。宿が見つかっているとよいのですが……。
そうして目を瞑り、思索の海へ漕ぎ出そうとすると、
「おい」
と小さく声が聞こえてきて、油断していたというのもあり、布団を跳ね飛ばしそうになった。
「な、なんでしょう……?」
「昨日何があったか聞いてもいいか?」
疑問形ではあるものの、シュウの「頼ってくれ」という先ほどの言説が脳内で木霊し、答えざるを得ない気がして、またテンユちゃんやハランさんにこういったことを聞かれるのはあまり好ましくないと思い、この2人きりの状況で話してしまうことにした。
「リンが……私とはどういう関係なのかって聞いてきたんです。それで私は友人だと答えました。続いて私が逆質問的に聞いたところ、いつも言っている通りなどという返事が返ってきて……そこで私はリンの思っている感情は勘違いなのではないかと言ったところ、まあその後色々問答があって……そうしてなぜだかリンが出て行ってしまったんです」
「なるほどな」
「なるほどなって……分かるんですか?というかあなたはどっちの味方なんです?」
「まあどちらかというとリンだな」
「どうして!」
と振り向いてみてもやはりと言うべきかシュウは外側を向いたままだった。
こうして突発的に何かを求めるようにシュウの方を向いてしまったのには自分でも少し不思議に思える。リンに対して悪いことをしたと自覚しているのにも関わらず、シュウが私の味方ではないということを知って……なぜだか複雑な感情が沸き上がってきたのです。
「俺も月並みに人間と接した程度だがな。ある程度リンの心情を推し量ることができる」
私たちの他に友達がいたとは意外や意外。
いえ、そういえば王都の宿でシュウと親し気に話している冒険者がいましたね。あの時は──
「まず、リンがチカに自分とはどんな関係か聞いたところでチカは友人だと答えた。しかしその時のリンはまだ平常だったのだろう?」
「は、はい」
「ということはチカの感情はリンにとって何も関係ないということだ」
「……というと?」
「つまりな、リンは自分の感情さえ表現できれば満足で返答がなくても平気なのだろう。しかしチカに表現する自由まで否定された。あくまで好意的な反応を求めているわけではないのに、ただ受動的な側が文句言うのはおかしい、とこう思って怒ってしまったんじゃないか?自分がやりたいことをやりたいようにやる、自分はヒューガのことが好き、この2つがリンの行動原理なのだろう」
「……」
それから数秒間の沈黙。シュウの続く言葉はなく、また私も頭の中を整理するために時間を要した。




