71話 無自覚な行動①
「うん、まあ……案の定と言ったところだが……」
宿へ戻ると、デジャヴを感じるように最年長コンビがぐっすりと就寝していた。
そしてハランさんは私の言ったことを忘れずに実行してもらってしまっていた……なぜこうも助動詞が2つ連続している奇妙な言葉遣いになっているかというと──
「……仕方がない。2人で寝ることにしよう」
そう、私はハランさんにリンがいなくなったこと、1人部屋はいらなくなったということを伝えていた。不貞腐れていたのです。もうリンなんて戻ってこなくていい、どこへでも行ってしまえ、という心の底では思ってもいない、表面だけの一瞬の感情が発露してしまった。これも身から出た錆というヤツでしょう。
そして取っている部屋は現在2つ。その内の1つはハランさんとテンユちゃんが占拠している。つまり今夜、私はシュウと必然的にベッドを共有することになる。
昨日、添い寝の相手にリンではなくシュウを指名したということもあり、吐いた唾は吞めぬとはよく言ったものでシュウと寝るのに抵抗はない、というような言葉を放ってしまった以上、ここで動揺を見せると不審に思われてしまう……。確かにあの時、「私たちは既に一夜過ごした仲」などと言いました。そこには順接的に、一緒に寝ることに特段抵抗はないというニュアンスを含んでいました。しかしそれはあくまでリンかシュウ、いずれかと夜を過ごさなければいけないという二者択一の状況であったためで、今とは状況が全く違っている。また結局はどうせリンと一緒に寝ることになるのだろうと楽観していて、少しリンをからかってやろうという気持ちもあったのです。
あんなことがあった後で、まさか一緒に寝ることになってしまうとは……。
私は両手で頰に触れ、火照っていないかどうかを確かめる。
よし、大丈夫。夏を過ぎ、夜は少し肌寒い季節になっていたのも私に味方したのかもしれません。
「そ、そうですね。2人で……」
そうして私たちは部屋へと踏み入る。
ドアを開けると、喧嘩した時のそのままの姿がそこにはあった。といっても物証となるのは乱れたシーツと床に落ちかけている毛布ぐらいであり、第三者にこの部屋で何があったでしょうか、と聞いたとしても大抵、寝相が悪い人が寝ていたか、子供がはしゃいで暴れ回ったかのどちらかと答えることこの上ないだろう。
「……」
私はそそくさとシュウの前に出ていって、ベッドを整える。その行動の裏にはこんなところでシュウを寝させしまうのは申し訳ないという気持ちと自分でやってしまったことは自分で尻拭いをしなければいけいないという自己責任的精神があり、またシュウと寝る時間を少しでも短く、寝るまでの時間をできる限り引き伸ばしたいという思惑も含まれていた。
……いえ、シュウと一緒に寝たくないだとか、シュウが男だからとか、はたまたシュウのことが嫌いだとか、そういうわけでは決してありません。寧ろ逆と言ってもいい。つまり恥ずかしいのです。
なので現在、正当性のある行動を盾に私は時間稼ぎをしています。
「俺も手伝うぞ」
「い、いえ、大丈夫です。私がしでかしたことですし……。この件に関係ない人間に手を煩わせるのは気が引けるというか……」
「……そんなことはない!今朝も言ったがな、俺たちはパーティーメンバーなんだ。パーティー内の揉め事を無関係とするなんてそれは仲間なんかじゃない。俺は……俺はそんな甲斐性がなく、薄情な男に見えるだろうか……?」
「いえいえ、そんなことないです!ただこれは私とリンの問題で……」
後ろをちらりと見てみると、ドアの前に立っているシュウは少し寂しげな顔をしていた。
分かりません。私たちの喧嘩に混ざりたいということではないでしょうし、なぜ自分から面倒事に突っ込んでいくようなマネをするんでしょうか──というようなことは私の稚拙な考えだということを思い知ることになる。
「だからその考えをやめるんだ。1人で抱え込むな。頼ってくれ」
「頼る……?」
……ああ、そうか、私は今まで誰にも頼らず、1人で背負い込んできた。というかそうせざるを得ない環境に置かれていた。私が、私が働かないと家族は食べていけない。ずっとそうだった。
我を捨てることを美徳とし、家族のため、会社のため、社会のために生きてきた。だからそんなこときっぱり忘れていた。私の世界にそれは存在していなかった。
ここでは……他人に頼ってもいいんだ。
「そうだ。俺を頼れ。仲間なんだ。支え合ってこその仲間だ。逆に俺がもし困難に直面していたのなら、その時は助けてくれ。頼むぞ」
そう言ってシュウは私の頭に手を置いた。




