67話 自責と憂鬱②
「リンと喧嘩したんだな」
「そんなこと……」
「ここにリンがいないのが何よりの証拠だ。お前たちが喧嘩をするとは微塵も想像がつかないが……」
それについては私も同感だった。リンは私のことが好きで、私の言ったことなら全て、いえ変態的言動をやめろ、ということ以外なら受け入れてくる。そう思っていた。
本心では対等な関係を望んでいたというのに、自分自身で片思いは残酷で忌むべきものだと理解していたのに、リンを恋愛上立場が下の存在であるということを無意識的に容認し、またそれに甘んじていた。だからこそ私はどんな強い言葉も使えたし、あらゆる拒否反応を起こせた。
ああ、私はなんてちぐはぐな人間なのだろう。考えてることとやってることが一致してないじゃないか。
「今日は固有スキルについて詳しい俺の知り合いのとこに行こうと思ってたんだけど……」
「ここに滞在する時間はまだまだたっぷりある。今日はリンを探そう。ちょっと感情が昂ってしまっただけだろう。もういつも通りに戻っているはずだ」
そうだ。リンはコミュニケーション能力は優秀でも箱入り娘であり、庶民生活に関しては疎いのだ。今頃、1人寂しく冷静さを失っていた自分を悔やみながら、見知らぬ街で心細くしていることだろう。初めて会った時のように裏路地でうずくまっているかもしれない。
謝ろう。全部私が悪かったのだ。今までリンに対する扱いは雑すぎた。私は恋心を知りながら弄んでいたのだ。私自身、リンにその気はないので真面目に取り合う必要はないにせよ、私たちは2人の友人という前にパーティーメンバーで仲間であり、その観点からすれば立場は対等です。恋心を受け入れる義務はなくともソレを完全に否定する権利はない。感情だけを伝えるということは自由なのです。ただしリンはその感情を言葉だけでなく、行動で発散させようとしているから困ります。
……しかし王都でも言ったようになぜだか心の底から嫌というわけではないのです。
その瞬間、嫌よ嫌よも好きのうち、という言葉が脳内を通過していった。追いかける側がこれを言うのは、どれだけ相手から嫌われようとも関係ない、と自己中心的な本性を曝け出し、また自分の悪逆的な行動を正当化し、免罪符としているようで気持ちが悪いですが、追いかけられる側になってみるとこうも響いてくるとは……。
「少し歩き回ってみれば石畳で泣き崩れているリンが見つかるだろう」
シュウの言葉を合図とし、その背中からひょっこりと顔を出すようにして、
「俺も手伝うぞ!」
「わたしも!」
と年長コンビが続いた。
「皆さん……ごめんなさい、私たちの事情で付き合わせてしまって……」
「安心しろ。お前らは2人とも俺のパーティーメンバーだ。パーティー内の諍いを収めるのもメンバーの責務だ」
「シュウ……」
「俺に心当たりがあるんだ」
するとシュウはハランさんの方へと近寄り、またテンユちゃんとごく自然に距離を置くようにして何やら話しかけた。
「あー!あるぞ。俺の行きつけのところがある。そこでいいか?」
「そこでいい」
「……どこへ行くつもりですか?」
「行ってみればわかるさ」
そしてシュウは黒フードのポケットから白い布を取り出し、私に差し出してきた。
「そんなひどい顔じゃ街には出れないからな。この穢れなき純白の天使の羽で拭うがいい……女子を泣かすクズ男だと勘違いされても困るしな」
素直に受け取り、顔を覆う。シュウのそのぶっきらぼうな言い方の一方、布から香ってくるサボンのほのかな匂いはまるで私の頭を優しく撫でて慰めてくれているようだった。




