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65話 悩ましい選択③

「次はボクから質問するのだよ。王都でヒューガの本音を聞いちゃったわけだけどさ……本当にさ、キミにとってボクはどんな存在?」


 王都ではリンについてなんと言っていただろうか……。引っ付かれるのが別に嫌じゃなかった、とかあの頃の錯乱していた私が口走っていた記憶が薄明ながら瞬く。

 ソレについてちゃんと説明せよ、というわけですか。

 知り合い?パーティーメンバー?どれもしっくりこない。パーティーメンバーと片付けるのが1番無難ですが、それはリンが求めている答えではない気がする。

 ものの数週間で、ここまでの仲になっておいて単なるパーティーメンバー?死線も一緒に潜り抜けた。助けたし、助けられた。そして離別の際はあんなに悲しいと思ってしまったのに。


「そうですね……」


 適当な言葉で間を繋ぐ。

 考えている時間が自分で思っているより長かったらしく、リンは不安げなニュアンスの顔を浮かべていた。


「友人……でしょうか」


 何の捻りもない。しかし今までの場面を思い浮かべればその言葉が1番適切です。


「友人……友人かぁ……」


 それまでの顔にむず痒さを示すような朱が添えられた。

 そして私はここで聞かなくてもいいことを口に出してしまう。社交辞令というヤツでしょう。


「逆にあなたはどうなんです?」


「ボクはいつも言っている通りなのだよ」


 いつも言っている通り、つまり婚約者というわけですか。

 ……この際だから言ってしまおう。


「私思ったんです。リンって恋愛経験ないですよね?」


「もちろん」


 リンは私を嘲笑するように、まるでなんてことのない足し算の解を求められた数学者のように言ってのけた。

 私はすかさず人差し指を立て、論理的な顔をして、


「だからですよ、リンは友愛を恋愛だと勘違いしてるんです」


「ボクが……勘違い?こんなにヒューガのことを好きなのに……?」


「ええ。きっとそうなんです。だから目覚めてください。あなたと私は単なる友人。そして私に対するその気持ちは恋愛とは程遠い、友愛なんです。女の子が女の子を好きになるのは……別に悪いことだとは思いませんが、一般的ではありませんし、そんな特殊な属性をよりにもよってやんごとなきあなたが持っているはずないんです。だから勘違いなんです」


「勘違い……?この気持ちが勘違い……?」


 前髪がリンの顔を翳らせる。


「そうです。私もそれなりにあなたに対して友愛の気持ちを持っているつもりです。でもそれは恋愛感情ではないんです。私たちは友人同士なんです」


「ボクのこの気持ちが……友愛?違う!そんなはずない!この気持ちは絶対に恋愛感情なのだよ!」


「だから!あなたは恋愛というものを知らないだけなんです。本当の恋愛を知ればあなたも──」


「友人友人って!キミにとってはそうかもしれないけど!ボクにとっては……大切な、大切な初恋の人なんだよ……。キミがどう思おうとソレはキミの勝手だ。でもね、ボクのこの気持ちは絶対に!嘘じゃないんだ!勘違いなわけがない!」


 リンはかけられていた毛布を薙ぎ払い、ベッドに膝立ちになり、私を見下ろす態勢になった。その目尻をささやかな月明かりが照り返し、膝元の白いシーツが徐々に暗さを帯びていく。

 しかし私の口は止まることを知らなかった。

 本当に、心の底から健全な関係を求めていた結果かもしれません。


「いーや勘違いなんです!絶対的に!なぜ今まで友達も恋人もいなかったのにそうでないと言い切れるんですか!あなた、おかしいですよ!」


 数秒の沈黙。果たしてリンは何も言い返してくることはなかった。

 そして膝立ちしていたのをやめて立ち上がり、ベッドから無作法に飛び降りた。


「……何を?」


 そのまま足はドアの方へと向かっていた。

 呼びかけにも無言。様子がおかしい。私も咄嗟にベッドから飛び降り、どこを持てば歩みを止めるかと悩んだ挙句、手首を捉えた。


「一体どこへ行こうというんですか!」


「キミには関係ないだろう!ボクがいつどんな時にどこへ行こうとそんなの勝手だ!」


「こんな夜中に知らない街でどこに行く宛があるというんですか!」


 リンは私の腕を振り払い、


「うるさいのだよ!ボクはただの勘違い野郎なのだろう?だから頭を冷やしてくるのだよ!」


 些細な事象ですが、この私が触れたというのに、かの変態的性癖を持つリンがソレをまるで無頼漢にでも絡まれたかのように拒絶してきたのには少々面を食らった。


「そんな……そこまでは言ってませんよ!ただ──」


「慰めるような言葉ならいらないよ」


「何をいじけてるんですか!何度フラれてもめげないというのがあなたの唯一といってもいい長所だったはずです!」


 リンは下を向く。そしてその目線を一瞬私の方へと飛ばして、


「……じゃあね」

 

 それだけ言うと外へと駆けていってしまった。

 一方の私はといえば引き留めるための秀逸な言葉を思いつくこともできず、もう一度リンの手首を掴もうともしなかった。

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