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62話 闇に生きる者④

 隊長さんは女湯の暖簾をぺろりとめくり、今度は2足歩行で、とことことこちらへ戻ってくると、


「これは魔法犯罪で間違いなさそうなのです。個人が固有スキルを使った痕跡を確認いたしました」


「おお!そんなことまで分かるんですね!それで犯人の特定の方は……?」


「それがですね……ここら辺にいる犯罪者さんや危険人物さんではないようなのです」


「残念です……」


 つまり手がかりなしというわけですか……。


「こうなったら……監視カメを確認してみましょうか」


「ラが抜けてますよ?」


「いいえ。合っています。ほら、この施設には至る所にカメさんの入った水槽があるでしょう?」


「ほう?」


「あのカメさんたちは監視カメという生き物でして、ある方法を使うとその見ていた景色をマルティアたちも確認することができるのです」


 ここの主人の趣味だと思い、特に気にしてなかったカメの入った水槽。防犯対策のために置かれていることなど誰がわかるのだろう。


「ふふ、面白いでしょう?初めて見られた方は皆驚かれます。モルゲンにはこういうモノもあり、犯罪率が低いのです」


 まだまだこの世界は知らないことばかりのようです。手紙を届けてくれるというクルッポーさんもそうですが、身近なところにも意外と不思議な生物がいて、共存したりしているんですね。

 そうして私たちはここの施設を管理している人に掛け合い、マルティアさんの治安維持隊としての権限にも協力を得て、監視カメなる生物を確認することとなった。

 ちなみにこの件にあまり関係のないハランさんには、お風呂上がりでおねむなテンユちゃんを預かってもらい、フロントで待っていてもらうことなった。

 該当するカメさんを水槽から取り出し、その頭に何本ものコードが接続されたヘルメットのようなモノを乗せる。これからデジタルパーマをされそうとも思えますし、宇宙人に実験されている最中にも見えます。

 隊長さんはカメさんの頭のコードの先に繋がれた近未来的な機械のボタンを押すと、壁に鮮明な風景が映写された。

 一体どういう仕組みなんですか……。

 こればっかりは流石”革新都市”と称賛を送らざるを得ませんね。


「あっ、これ!」


 リンは映し出されている中の、施設内を落ち着きなくウロウロとしている黒ずくめを自分の手柄だとばかりに指を差し、隊長さんは「むむむぅ」と悩むような声を出し、ソレを睨みつけた。


「お、俺じゃないからな!」


 黒フードが正装のシュウは疑われるのを予防するように一言。


「どんな人物か全く分かりません……。しかし新参者か観光客であると思いますが……この街の人間は犯罪をしてもすぐバレることが分かっていますし……」


 そして私たちはその犯行の一部始終を目撃することとなる。

 黒ずくめは男湯と女湯を分ける壁にもたれかかると──


「なんと!」


 周りの人がまばらになり、誰からも女湯に視線を向けられなくなったその瞬間。好機だとばかりにソイツは女湯の暖簾を華麗に潜り抜け、そして数秒という内に抜け出し、私の厨二病的杖を持ち、何食わぬ顔でゆっくりと歩き、外へと出ていってしまった。

 その杖を持って平常な顔をするのは無理があるでしょう。

 しかしその迷いのない動きを見るに、女湯へ入るのは単なる過程であり、元々私の杖を盗むことを目標としていたらしい。街を歩いている時にはもう目をつけられていたのでしょう。


「何が起こったのだよ?!」


「早業なのです……」


「鮮やかな手口だな……」


「感心している場合ですか!」


 まさか犯人は女湯に侵入していたとは……。

 というかなんてアナログな手口なんでしょうか。

 もしも水泳大会をしていなかったら早く出てしまっていたでしょうし、鉢合わせする可能性だってあった。そうなっていたら全裸のまま戦闘になっていたりしたかもしれないので色々と危ないところでした。

 水泳大会の主催者たるテンユちゃんには感謝しなければなりませんね。

 そして驚くような顔を見せていたリンは急にはっとしたような顔に変わり、視線を上にし、思い出すような仕草を見せたのち、


「……待って!この真っ黒な格好、鮮やかな手口……もしかして?!」 


(あたり)がついてるんですか?!」


「……闇の盗賊団〈漆黒の翼〉かも」


 それは私たちに馴染みがあるものの、遠い昔に聞いた言葉であり、忘れかけていた名前だった。

 闇の盗賊団〈漆黒の翼〉。このデコボコパーティー勃興期からリンが言っていた、命の雫(ラヴ・ティア)なる宝石を狙っているとされていた組織。まさか本当に存在するとは……てっきりリンの厨二病上での設定かと思っていました。

 というか名前をつけた人は何を考えているんでしょうか。黒ずくめの犯罪者なんてどこにでもいるでしょうに。


「もしかして追われてるのは本当なんですか?!」


「ごめん、それは嘘。良質な嘘には多少の真実が混ざっているものなのだよ」


 そもそも存在することすら知らなかったのでリンの何が嘘で何が真実なのか分からなくなってきました。

 というかシュウにバレていたのに良質な嘘とは一体……。


「すまん、俺はソレをよく知らん」


「ごめんなさい、マルティアも知らないのです」


 常識人的な3名が全会一致で知らず、変人で放言癖のあるリンだけが知っているというその情報。私とシュウから疑いの目を向けられるのは当然だった。


「い、いやいや嘘をついてるわけじゃないのだよ?王都の上流階級の内だと割と有名な義賊で……」


「義賊?なんで義の賊なのに私なんかの杖を?それに王都にいるはずなのになぜモルゲンで現れたんです?」


「さあ……もしかしたら王都の時から狙ってたとか?」


 闇の盗賊団〈漆黒の翼〉が本当に実在するのかどうかは一旦置いておくとしても、犯人はこの黒ずくめで間違いないようです。

 私たちが思考に耽り、沈黙を作り出していると、


「今日はもう遅いですね。帰りましょう。マルティアの方から調査しておきますので本日はお休みになってください。また何か分かりましたらご報告いたします」


 そう言って隊長さんは両手を前で合わせてぺこりと一礼した。

 やっとの思いで到着したこの街、そして王都とは違って今度こそゆっくりできると思い、その足掛かりとして温泉に来てみたものの、事件に巻き込まれてしまうなんて……。

 一旦、頭の中で色々整理する時間が必要です。

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