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61話 闇に生きる者③

「えーっと……すいません、あの方は一体何を?」


「魔力感知だろう」


「そうには見えないのですが……」


 私たちが施設の中へと入っていくと、隊長さんはすかさず両手を腰に回し、顔を突き出すようにくんくんと周囲を匂いを嗅ぎ始めた。


「温泉の匂いが大好きな方ってことでは……?」


「違うな。魔族は各々、特殊な感覚器があるということを聞いたことがある。隊長殿はそれが鼻にあったということだろう」


「鼻で魔力を嗅ぎ分けてるってことですか?」


「多分な」


 周りの人々は隊長さんのそういった行動には慣れてしまっているのか意に介さず、それどころか「お仕事お疲れ様」と労いの言葉までもかけていた。

 地域に根差して好かれている立派な公務員のようですね。


「うーん!やっぱりお風呂のこの匂い最高です!」


 違うじゃないですか!


「あ、失礼しました。そろそろちゃんとお仕事いたしますね」


 すると隊長さんは一息つき、眉宇(びう)を引き締めて──そのまま身体を前に倒して四つん這いの体勢となった。


「ちょちょ!何をしてるんですか?!」


「お仕事です。マルティアは鼻腔に特殊な感覚器がありまして、こういう体勢になるとですね、とってもとーっても集中できるのです」


 ……まあ本人のルーティーンなら否定するまい。


「か、可愛いのだよ!こんなちっちゃい子が四つん這いになって鼻をひくつかせてるの!」


 ずっと黙っていたリンが両頬に手を当てて感嘆するように言った。

 この女……同性なら誰でも愛せるって言うんですか?


「初対面の人にそういった偏った性的嗜好を披露するのはやめなさい!」


 リンの良いところでもあり悪いところでもある素直さ。心の中に封じ込めておけばいいものをなぜこうも堂々と口に出せるんでしょうか。

 まあこの女の羞恥心が狂っているということは今に始まった話ではないですが……。


「はっ……ごめんなのだよ……」


「分かればいいんです」


「ボクにはヒューガという婚約者がいるというのに……」


「そういうことを言ってるんじゃありませんよ!隊長さんを困らせてはいけないということです!それと私まで頭のおかしなパーティーの一員だと思われるのはまっぴら御免ですから!」


「そんなこと言ってさー。本当はヤキモチ妬いちゃったんだろう?」


「そ、そんなわけあるはずがないでしょう!」


 私はそれだけ言うと、両手を広げて前を指し示し、隊長さんに続きを促した。

 その状態のままだと、角も相まってどこか子犬のように見えます。それもお上品な家で育てられたパピヨンのような……。

 さらに「わん」とでも言ってしまえば、可愛さだけでもう本物の子犬に見えてくることこの上ないでしょう。


「ではではー」


 隊長さんはほんわかと捜査の狼煙を上げた。

 施設の玄関から丁寧な4足歩行で女湯まで向かっていく姿を私たちは後ろから眺める。


「おねえちゃんの大事なモノなんだもんね。みつかるといいけど……私もすぐれた魔力感知をもってたらなぁ……」


「あの人は優秀そうだ。きっと見つかるさ。それにテンユ、優れた魔力感知を持っていなくても他に恵まれたモノを持っているだろう?そう卑下することはない」


「おにいちゃん……」


 なんかこの男、自分が厨二病だということを忘れていませんか?いや普通の人になるのはとても良いことですが……。

 テンユちゃんと長く触れ合ってきたからなのかもう普通の好青年にしか見えなくなってきました。


「見つからなくていいけどね」


「あなたはなんてことを……!まだあの杖を男の人から貰ったということに執着してんですか!」


「だって……その男から貰ってずっと大事にしてるモノなんだろう?思い入れがあるってことだろう?なんか……悔しいのだよ」


「じゃああなたも私に何かくださいよ」


「大事にしてくれるの……?」


「ええ。常識的なモノならある程度は」


「なんでボクはこんな簡単なこと思いつかなかったんだろう……。プレゼントとして渡して、その渡したモノをまた自分で買えば否応なくお揃いになるっていうのに……」


「……あなたのその柔軟さは見習うべきかもしれませんね」


 私としては冗談で言ったつもりだったんですが、もし本当に何かよこしてきたらどうしましょう……。

 そのまま貢ぐというのが常態化して、私はリンのヒモのようになり、挙げ句の果てに共依存の関係になってしまったり……。

 リンはお金をたくさん持っていますし、ダメ人間になってしまいます?!

 そんなくだらない心配をしている私に対して、真面目に仕事を遂行している隊長さんは遂に女湯の内部へと入っていった。

 そしてその数秒後──


「わん!」


 言っちゃったよ……。

 何かを見つけたという合図なのかそんな声が響いてきた。

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