58話 束の間の休養③
「ふー!やっぱり温泉はいいものなのだよ!」
私は脱衣所にて、身体を拭いているリンを見る。
「どうかした?」
無意識のうちに視線は胸に固定されてしまっていたらしい。
「いえ、なんでもないです」
「……ようやくボクのセクシーダイナマイトボディに興味を持ち始めたみたいだね!」
「ち、違いますよ!」
リンのソレは生で見ると、本当に強烈なモノをお持ちなのだと再確認させられる。
それに比べて──
「ヒューガのは……その、なんか可愛らしいね。いい意味で」
「やっ!見ないでください!というかいい意味だとかは蛇足ですよ!」
「キミもボクのをじろじろ見てただろう?」
「うっ、羨ましいと思って……」
「羨ましいのか、これ。ボクにとっては邪魔でしかないけどね。言ってしまえば呪いみたいなものなのだよ。走れば走るほど付け根がもげそうなくらい痛いし、足元は見えにくいし……」
「贅沢な悩みですね……」
一方、テンユちゃんは自分のソレを触ってみては「はぁ」とため息を吐いて、リンに憧れを抱くような眼差しを向けていた。
あなたはまだ悩む必要はありませんよ、と声をかけてあげようとしたものの、テンユちゃんの実年齢は81歳であることを思い出した。魔界人は何歳から成長期に突入するんでしょう。お母さんは人間らしいですし、もうそろそろ始まってもおかしくない。
というか魔王様もあんな感じですし、魔界人の女性は永遠に幼児体型である宿命があるのかもしれません。それかまだまだ長い年月が必要なのか……。
「さあ早く着替えてシュウたちと合流するのだよ!」
そうして、幼児らしく服を着るのに戸惑っているテンユちゃんを2人でフォローしたり、王城にいる時リンは侍女たちに身体を拭いてもらっていたことが判明したり、サウナは逆に身体に悪そうという意見がリンと一致したりしたのち、
「あ、あれ……?」
「どうかした、ヒューガ?」
「えーっと……私どこに杖置いてましたっけ」
「おねえちゃんの杖、この棚にたてかけてあったのを見たよ」
「ですよね?!」
「ということはもしかして……」
「盗まれてしまいました?!」
なんということでしょう!シンさんに特注で作ってもらった厨二病的杖が……。あんなもの盗まれるなんて思いもよりませんでした!きっとリンやシュウと同じ性質を持った盗人さんの琴線に触れたんでしょう。
しかし……盗まれたとなれば紹介してくれたリロちゃんに合わせる顔がありません!
「何を考えているのだよ、盗人は!」
リン……私のために怒ってくれるなんて……。
「折角盗むなら下着にすればいいのに!」
期待して損した。
私は呆れた顔をリンに向けると、冗談だと示すように笑いかけてみせた。
「杖がないと困るの?」
「困りはしませんが……」
「困らないんだ。絵本とかの魔法使いって皆杖持ってたから、ないと何もできないのかと思ってたよ」
「ああ……リンは魔法が使えないんでしたね。それに箱入り娘ですし、知らないのも当然ですね」
「そうなのだよ!杖って何の意味があるの?」
私はリロちゃんからの受け売りで説明をした。
「ほへー、じゃあやっぱりヒューガもかっこいいから持ってたんだ」
「何を聞いてたんですか!全然違いますよ!というかあれは貰い物なんですから!……今更ですがリンは魔力すらも持っていないということなんですか?」
「うん、王族に生まれた宿命なのだよ」
どうやら魔界人設定は本物の魔界人を確認したことで忘れてしまったらしい。
「あっ!違う!間違えた!それは世を忍ぶ仮の理由で本当は──」
「はいはい、分かりましたから」
また聞いたことある文章が流れてくると思い、リンの言葉を遮った。
なるほど。王族は生来より魔力も固有スキルもないんですね。それで魔の森の時にはそんな特質がバレないようにずっと隠していたのか……。
王城でもシュウはリンが普通の人間ではないことをピュートの花火の件で思い始めたと言っていた。つまりその後も王都に住んでいたシュウから見ると違和感を感じることがあったということなのだろう。その1つがこれだったのかもしれない。
「ね、ねえ……」
テンユちゃんは女湯から共有フロアの方へ、ひょこりと顔を出しては引っ込めて、
「2人がまってるからとりあえず……」
思いのほか話が盛り上がってしまっていて忘れていた。
特に共通点のない、話す話題がなくて気まずいかもしれないあの2人をこれ以上ずっと同じ空間にいさせるのもそろそろ申し訳ない。




