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57話 束の間の休養②

「じゃーん!」


「この施設はなんですか?」


「ずばり……温泉だ!」


「お、温泉ですか?!」


「ただの温泉じゃないぞ!モルゲンの技術の粋を集めたモノで、疲労回復、無病息災、家庭円満、魔力上昇、色んな効能があるんだ!」


「てんこもりですね……」


 温泉なんていつぶりだろうか。

 立ち込める湯気、鼻をつく洗剤の匂い、家のお風呂では味わえないあの非日常感……わくわくしてきました!


「えー、温泉ー?」


「コラ!リン!折角案内してくれたのになんてこと言うんですか!」


「温泉なんて自分の家にあるじゃないか」


 ここにきてリンとの身分の差が露呈することになるとは……。


「普通はありませんから!」


「温泉が家に……?」


 私はハランさんが怪訝そうにしている様子を視認してリンの耳元に近づき、


「いいですか、リン。あなたは仮にも王女なのですからそういう一般的な感性からズレた発言は慎んでください。あと、さっきのハランさんに渡したお金、あれはあげすぎですから!」


「喜んでたからいいじゃないか。ボクも気持ちよく渡せたし」


「……これからあなたに庶民の生活を教えていきます。庶民の気持ちが分かればきっとあなたであってもいい王様になれるはずです!」


「教える……それは手取り足取り腰取り、あーんなことやこんなことまで教えてくれるってことかな?」


 私はリンの戯言を無視し、


「さあ!参りましょう!温泉!すっごく楽しみです!」


 私たちはぞろぞろとその施設へ入っていった。


 

「……あっ!」


「どうしたの、ヒューガ」


 男女が分かれる直前、私は1つ重大なことを思い出してしまった。

 温泉とは、当たり前ですが皆がすっぽんぽんになる場所です。普通の友達となら別になんの問題もありません。そう、普通の友達ならば。

 しかし私の横にいるのは好色でお馴染みのリンなのです。


「あの……」

 

 私は今にも男湯に入っていきそうなシュウの服の裾を掴んで静止させた。


「ん?なんだ?」


「リンも男湯に入れてあげてくれませんか?」


「なぜ?!」


 裸を見られるのも嫌ですし、興奮して襲ってきそうですし……温泉側に何か迷惑をかけてしまいそうで……。

 そんな私のわがままは、当たり前ですが通ることはなく、泣く泣くリンと入浴することになってしまった。


「ふわー!気持ちいいのだよー!」


「あったかーい!」


「どうしたの、ヒューガ?」


「あ、いえ、なんでも……」


 予想に反して、いや別に期待していたわけではなく、リンは不自然にも大人しくしていた。偽者なのかと疑ってしまいます。


「もしかしてさ!ボクがお風呂場でなんかやらかすと思ってたんでしょ!」


「当たり前です!」


「あ、当たり前……?」


「いつもだったら、というかこの状況はあなたにとって絶好のシチュエーションでしょう!」


「いやまあそうだけど……なに、襲ってほしかったの?」


「んなわけないでしょう!沈めますよ!」


 私たちの不思議な会話にテンユちゃんはずっと困惑した表情で律儀に、話している側を右、左と目で追っていた。


「あのね、お風呂場では静かにしなきゃいけないのだよ」


「は、はぁ……」


 リンに正論をぶつけられ、なぜか私がおかしなことを言っているような感覚になります。いや言ってましたね、すみません。

 というか王女なだけあってそういうマナー的なところはしっかり躾けられているんですね。


「てっきりお風呂でばしゃばしゃと泳いじゃうタイプだと思っていましたよ」


「んな!するわけないじゃないか、まったく!ボクをなんだと思っているのか、甚だ疑問だね!お風呂場は身体を清める神聖なところなのだよ。だからそんなはしたないことしてはいけないのさ」


「そ、そうなんだ……」

 

 テンユちゃんはそう寂しげに言うと顎が触れるくらいまでお湯の中へと沈んでいった。


「えーっと……どうかしましたか、テンユちゃん?」


「……あのね、おとうさんとお風呂入るときはいっしょに泳いで競争してたから……そのぅ、それはいけないことだったんだなって……」


 リンはテンユちゃんを見つめたまま動かない。


「まあその……よそはよそ、うちはうちという言葉が……」


 しかしシューツェン氏、あんなクールな感じなのに、自分の子供となら一緒にはっちゃけられちゃうタイプなんですね。素敵です。ギャップ萌えです。

 リンはどう返答するのかと顔を覗いてみると、そこにはいつもの陽気な面が張り付けられており、


「よーし!一緒に泳ごう!」


「え、いいの……?」


「いいさ!実はボクも泳ぎ回りたくてうずうずしてたのだよ!今は執事たちもいないし!」


 そうして手本を見せるようにリンは大きな水しぶきをあげて背泳ぎで泳ぎ始めた。


「わ、わたしも!」


 テンユちゃんもあひるの子供のような一生懸命さと可愛らしさが合わさった平泳ぎでソレに続いていった。


「ヒューガもおいでよ!」


「……仕方ないですね!」


 授業でしか水泳をやったことのない私はなんとも無様な、まるで湖に落ちてしまった哀れな子犬のするような犬かきを披露した。観客がいないのは幸いでしたね。

 しかし……リンのこういった、自分の中のルールに縛られることなく柔軟に、そして何に対しても思いっきり取り組めるというところは見習いたいものです。

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