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4話 甘美なる砕氷②

 宿にて私たちがのんびりとしているとドアがノックされ、ボール遊びをしていたら崖の下にボールを落としてしまった時の子犬のように慌てた様子のキエンくんが入ってきた。

 それぞれのベッドに座っていた私たちは思わず振り向く。


「どうかしました、キエン?」


 いつもはドアをノックした後、私たちの返答を待ってから入ってきていたので行動からも慌てているのが分かります。


「トウロが……帰ってこない……」


 私たちがいつも泊まっている宿では、トウロさんとキエンくんの男子部屋とリロちゃんと私の女子部屋は隣同士となっています。なので物音がしていないことから言われずともトウロさんが帰ってきていないのだろうと分かっていました。

 ただリロちゃんが全く心配するような様子を見せないので、よくあることなのか、はたまたトウロさんを信頼している証なのか、と平然としていました。

 しかし前者の考えはキエンくんがここに現れたことで消えることになりました。

 現在、外は夜行性モンスターが元気に動き回るような真っ暗な闇に包まれている。

 遭難などしていないとよいのですが……。


「1人でクエストを受けるのだから、それはもう簡単な短期でできるモノを選んだでしょう。トウロが自分の実力を見誤るほどのバカだと私は思えません」


 やっぱりリロちゃんはトウロさんを信頼しているのでした。

 私もトウロさんが無鉄砲で無計画な人だとは思えません。それにトウロさんはこのパーティーのリーダーですから!


「明日の朝までには帰ってきますよ。大方、飲み歩いてるに違いありません」


「リロちゃんの言う通りですよ、キエンくん!心配せずともトウロさんは帰ってきますよ!」


「ちょっとは心配してあげろよ……」


 キエンくんは私たちの反応が思ったものと違ったのか壁にもたれかかり、溜息をついた。


「もしかして……1人で寝るのが寂しいんですか?」


 リロちゃんが私の言葉に続けてにやにやと、


「なんなら一緒に寝ますか、キエン?昔はよく一緒に寝ていたでしょう?」


「ひ、1人で寝れるし!おやすみ!」


 キエンくんは弱火の『龍爆焔(ドラゴニック・バーン)』のような色の顔をし、ドアをばたんと強めに閉めて自分の部屋に戻っていった。

 可愛いです、キエンくん。

 リロちゃんは上品にも手を口に当てて、ふふふ、と吐息のような可愛らしい笑い方をすると、


「軽口も叩けるようになって、随分仲良くなりましたね」


「無意識でしたが言われてみれば……」

 

 気軽に軽口を叩ける関係……キエンくんに気をあまり使わなくなったということでしょうか。

 仲良くなっているのは嬉しいことです。

 上司には軽口ではなく悪口が散々っぱら叩かれていました。



 翌日。


「まだ帰ってきてない!」


 キエンくんがノックをし、間を空けずに入ってきた。

 私たちは眠い目をこすりつつ、ぼんやりとした頭で、考えを巡らせた。


「酔い潰れてそこら辺で寝てますよ……」


 リロちゃんは、ふわーあ、と雲のようなあくびをした。


「そんなこと今までなかっただろ!」


「昨日は機嫌が悪そうでしたし、トウロさんはそれを忘れるためにいつも以上にお酒を飲んだとか……じゃないですかねぇ」


「ゲッカ姐との待ち合わせ時間にはまだありますし……もう少しだけ寝させてくだ……」


 そう言うとリロちゃんはまた布団の中に潜り込んでいった。



「少し早く着きすぎましたね」


「まあゲッカ姐を待たせては悪いですし、早いに越したことはないですよ」


「……」


 私たちがギルドの適当な席に座り、のんびりしていると、いつかの耳馴染みのある声が聞こえてきた。


「あのぅ……」


「あ、金髪の受付嬢の……どうかしました?」


「私はこのギルドの受付を務めております、セーレン・ケッパークと申します……トウロ・ノオーノさんってあなた方のパーティーメンバーですよね?」


 リロちゃんとキエンくんは一斉にセーレンの方を振り向く。


「トウロがどうかしたんですか?!」


 リロちゃんの凄みの利かせた声に受付嬢は首を(すく)める。

 トウロさんのことなど何も心配していなさそうでしたが、やはり心の中ではしっかり心配していたリロちゃんでした。


「そのぅ……討伐完了の手続きにまだ来てなくて……」


 ここでトウロさんが今、どんな状況なのか5つの予測が立てられます。

 1つ、トウロさんはクエストが終わって討伐完了の手続きもせず、酒場に入り、どこかで酔い潰れている。

 2つ、ゲッカさんのことを話に出されて、相当怒ってしまい、家出ならぬ街出をした。

 3つ、道中で遭難してしまった。

 4つ、そもそも難易度の高い長期のクエストに手を出した。

 そして5つ……これはあまり考えたくありませんが、クエスト中に思いもよらないモンスターが現れて逃げ惑っている、あるいは……。


「トウロが受けたクエストは?!」


「これです……」


 受付嬢はクエストの紙を見せてきた。

 〈聖霊の森の間伐作業〉と書いてある。斬撃を飛ばせる魔法を使うトウロさんにはもってこいのクエストです。


「難しいクエストではないですが……」


「聖霊の森か……そこまで強いモンスターはいなくないか?」


「そうですね……聖霊を除けば……」


「慎重なトウロが聖霊の怒りを買うようなことしないと思うけどなぁ……」


 そうやって私たちが考えあぐねていると、どこからかひょうきんな声が聞こえてきた。


「ほいさー、来たよー。リロたち早いわね……ってなんでそんな皆真剣な顔してるんだい?」


「実は、トウロが行方不明でして」


「は?!なんで?!」


「それが……ゲッカ姐のところに行くとなった時、トウロが行かないと言い出して、1人で勝手に〈聖霊の森の間伐作業〉というクエストを受けてしまい……」


「トウロも子供だねぇ。あたしも一緒に探すよ。かきごおり?ってやつはその後だね」


 こうして私たちはトウロさんがゲッカさんに変わった臨時パーティーを結成した。トウロさんという司令塔がいなくなり、プライベートジェット、旅客機、爆撃機、グライダーというようなバラバラな種類の航空機は、無事着陸できるのでしょうか……いえ、そもそも離陸できるのか……。

 そして実戦経験のないゲッカさんを連れて行ってしまってもいいのか不安は残りますが、いざとなればこの右腕で全て破壊するので大丈夫でしょう!多分!

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