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55話 終焉のない旅路③

 顔を前に向けたまま、ハランさんは御者席から話しかけてきた。


「そういえばなんでモルゲンに行きたいんだ?」


 高温で熱せられた鉄球が、水の中に入れられると急激に温度を下げるように、私たちは安息できる(いとま)を与えられた結果、疲れがどっと襲いかかってきたようであり、皆沈黙しきっていた。

 テンユちゃんはシュウの肩へと寄っかかって現実と夢とを彷徨っており、そのシュウはといえば全体重を馬車の縁へと預けていて、リンに関しては中央に身体を大きく広げて仰向けで寝転がり、誰よりも領地を占有していた。そんな3人を眺めている私は荷台の左片隅に居を構え、ぽつんと体育座りをして縮こまり、ぼんやりとしていた。

 馬車の音が響くだけというのは物寂しいと思ったのか、あるいは消沈している空気感を打破しようと思ったのか。はたまた何も会話がない空間に耐えられなくなったのかもしれない。


「まあ冒険者がモルゲンに行く理由なんて大体決まってるよな。装備の強化とかそんなとこか?」


 3人の視線が私へと集まる。返答せよ、ということなのでしょう。どうやらそんな気力もないらしい。

 モルゲンに行くことになったきっかけは国王様の発言ですが、結局行くと決めたのは私の都合です。まあ答える責務と理由は少なからずあるでしょう。


「私たち……いえ、私以外の3人には特に行かなければいけない理由はありません。私の目的のためについてきてくれているんです」


「おぉ、どんな目的だ?」


「私のスキルについて詳しく知りたいんです」


「ほぉー、なるほどなぁ。そんな複雑なスキルなのか?」


「えぇ、まあ。私のスキルはですね──」


 説明しようとした瞬間、死んでいると言われても納得できるくらいの態度であった3人は急に起き上がると、目を大きく開き、また雨上がりのような輝きを持たせ、いつもの流言蜚語を並べ立てやがった。


「お、おい……あなたたち……」


「なんかすげーな!竜が身体に入ってんのか!寝ぼけて出ていっちゃうこととかあるのか?」


 この人は何か勘違いしている。というかそもそも竜など身体に封印されているわけなどないと気づいてほしい。


「しかし大変なんだなぁ」


 まあこんな人たちに囲まれて大変なのは認めましょう。


「でもいい仲間を持ったみたいじゃないか」


「えっ」


「あれだけ興奮して人のことを話すってなかなかないぞ。3人はよほどヒューガのことを好いてるんだな!」


 当人たちは三者三様の照れを見せたのち、リンはハランさんの元へと這い寄っていくと、


「ボクの好きを他の2人と同じにしないでくれたまえよ!ボクのヒューガへの愛情はね、頭に"大"がつくほどだし、まったく種類も違うのだよ!この感情は恋!恋なのさ!」


 と会っていくらも経っていない人に自分の性癖を披露した。

 さて、ハランさんはどう返答するのでしょうか。


「ヒューガのこと好きなのか!でも女同士は子供産めないぞ」


「はぁ?!子供産むことが恋愛のゴールじゃないのだよ!ボクたちの進む道にゴールはないのさ!一緒に進むこと自体が目的なの!ボクたちはボクたちであってそれ以上でもそれ以下でもない。この仲に他の誰かが闖入すれば、ソレは単なるノイズでしかないのだよ!ボクたちは2人だからこそデュエットを奏でられる。違うかい、ヒューガ?」


 横にいるハランさんへ勝手に自己恋愛論を熱く語っていると思い、またどうせ戯言なのだと断定していたため、急転直下、流れるように私へ質問を投げかけられたことには一瞬気づかず、まるでお預けをされている子犬のようにじりじりとした視線により私が何か言うのを待っているのを分かった。


「はい?」


「違うかな?」


 私は最後に耳に入ってきた言葉を用いて返答を構成する。

 

「……いえ、私たちが奏でてるのは四重奏(カルテット)でしょう」


 私たちは4人で1パーティーなのです。これまでも、そしてこれからも変わることはない。

 リンは満更でもない顔をして、私たち3人をそれぞれに視線を送った。

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