50話 永別の刻印①
「じゃあ私が権限で裏門へ向かうまでの警備を手薄にしよう。裏門では商業用の馬車が多くあるからどうにかして乗せてもらうといい」
「了解いたしました!何から何までありがとうございます!」
「いやいや、娘の命の恩人だからね。これくらいはさせてほしいというものさ」
「じゃあボク、いつもの服に着替えてくる!」
リンはそう言うと、足早に部屋の外へと駆けて行った。それに呼応するようにジョー氏も私たちの旅費を用意するために退出してしまった。
……私とシュウと王様の3人の空間、気まずいです。
「……娘から君たちのことや冒険のことについてはよーく聞いていたのだが、娘自身のことはあんまり聞いていないんだ。そ、その……君たちから見てあの子がどんな様子だったのか教えてくれるかい?」
私たちからは話しかけづらいだろう、という配慮からか王様は沈黙を破ってそう質問してきた。
「えーっと……とても我の強い人で怖いもの知らずという感じですね。何かあるごとにいつも先頭に立って進んでいって……あ、でもでも意外と気弱なところもあってそのギャップが面白いかったり……?」
「そうだな。巨大鹿の住処を突っ切ろうと言った時は流石の俺も驚いた。それから泣きながらもナイフ1本で巨大鹿に立ち向かっていったりとか……とにかく胆力には感心するところがあった」
「意外と気弱な部分があるというのはよく知らなかった」
王様は何かを想うような遠い目をして、
「あの子は男手1つで育ててきた。あんなはっちゃけた子になってしまって……王女が失踪なんて前代未聞だ。少し甘やかしすぎたかなぁ……というか自由に育てすぎたと思っている」
なんだ。分かってるじゃないですか。
「年相応の態度ではあったが、それでも私の前では気弱な姿など見せなかった。忙しい私のことを思ってくれていたのかもしれない。あの子もそろそろ本格的に政務に関わる頃だ。だからこそ心配させないように振る舞っていたのだろうなぁ……」
確かに処刑台に来た時もリンは一瞬誰だか分からないほどの引き締まった女性に見えていた。彼女なりに次期国王としての自覚があるのでしょう。
「国王様。旅費の用意ができました」
「おお。ありがとう、ジョー」
「うわ!びっくりした!」
またもやジョー氏が前触れもなく現れた。
「いきなり現れるのってジョー氏の固有スキルですか?」
「あ、ええ。そうですよ」
ジョー氏は爽やかな笑みで返してきた。本当にこの人はモテそうだなぁ……。
そうしてジョー氏との談笑もそこそこに、王の部屋のドアが大きな音を立てて開けられると、
「おまたせ!」
いつもの服装のリンがそこには立っていた。
「あ、そういえば、私の杖……」
「ここに」
さっきまで旅費の入った袋しか持っていなかったのに、ジョー氏は急に私の杖を持っていた。ソレを両手で丁寧に、まるで私が出陣する前の武将かのように膝をついて差し出してきた。
「あ、ありがとうございます」
受け取ろうとすると、私とジョー氏の間にリンが割り込んできて、浜辺のトンビのごとく瞬時に杖を奪い去っていった。
「ちょ、何するんですか!」
「はい、これ」
と思ったら奪い取った杖をそのまま私に手渡した。何のマネでしょうか、この女は。
私は何か裏があるのではないかと恐る恐る手に取るものの、何も起こらない。
リンは杖を手放すと、ジョー氏を睨みつけ、
「あのね、ヒューガはボクだけのモノなの。いくら同郷であっても、過剰な干渉……その女の子を惚れさせちゃうような笑顔を振りまくのはダメ!もしものことがあったらいくらキミが有能であってもクビにしちゃうのだよ、いい?」
「申し訳ありません、王女様。以後気をつけます」
ジョー氏はリンの頭の上から私に視線を向け、やれやれと言いたげな顔を向けてくる。その自然のようでどこか作為的な仕草はなぜ王女から怒られたのか分からないというような戸惑いを表しているのだろう。
実際、私もなぜリンがいきなりあんなんことを言い始めたか分からない。リンの眼に私はどう映っていたんだろうか。もしかして私、イケメンさんを前ににやけてましたか?!
「それではこの2人を送ってまいります、お父様」
「ああ、気をつけて……ということもないか。慣れた道だもんね」
「ええ、2人が衛兵に見つかってしまわないようにだけ注意します」
「それでは、国王様。お世話に──」
そう言いかけた途端、例のアレが始まってしまった。このまま行けば、王様に披露することなどないと思っていたのですが!
「うっ……右手がっ!」
「ほう、これが言っていた例のヤツか……本当に急に始まるのだな……」
感心している場合ですか。
「お父様、もう1度説明します。右腕と杖には竜の半身ずつが封印され、そして眼帯をしている右目!そこには魔王から与えられし闇の力が眠っているんです!すっごくかっこいいです!」
「……そうか」
デタラメな説明をするのはやめてもらおうか!国王様が引いてしまっているではないですか!
しかし隻眼のことは事実であるのでなんとも言えません……。




