48話 国を統べし者①
リンによって扉が開かれると、中から何やら楽しげな声が聞こえてきた。
「まーた負けちゃった。いやぁテンユちゃんはすごいねぇ!」
「えへへ」
そこにはテンユちゃんと、リンの顔をそのままにかもめをデフォルメしたような立派な口髭を付け足しただけの中年男性が床に座り込んで仲睦まじくボードゲームをしている姿があった。
「……あれがボクのお父様でこの国の王様なのだよ」
「これが……忙しい?」
リンはお父さんの威厳のない姿を見られたことに動揺して焦ったように両手を身体の前で左右に揺らし、
「ち、違くて!今日はたまたま仕事が少ないみたいで!」
王様専用のような服を着ているためにかろうじて国王様ということが分かりますが、着ていなければただの子供好きのおじさんにしか見えない。
「ちょ、ちょっと!お父様ぁー!」
「ん?ああ……あ!お、お客さんが来てるなら先に言いなさい!」
「ご、ごめんなさい……」
すると国王様は手に持っていたボードゲームの駒をその場に置いて立ち上がった。
「ちょーっと待っててね」
「はぁい」
テンユちゃんとそんな掛け合いをすると、少しでも威厳を取り戻すためか着崩していたのをやめ、子供向けの優しそうな笑顔から仕事用の真面目な顔に張り替えた。
「その人たちが……」
「はい!」
「君たちのことは娘から聞いている。色々世話になったね」
そう言うと、王様は私たちの方へ近づいてきて頭を下げてきた。
「い、いえ!大したことではありません!どうか私みたいな人間に頭を下げるのはおやめください!」
「君は確か……親子紅瞳竜殺しのヒューガくん……」
「ええまあ……一応そういった二つ名でやらせてもらっていますが……」
「それで我が娘の婚約者、と……」
その言葉を聞いて私はリンを睨みつけた。
するとリンは私の視線から目を背けるようにして明後日の方向を向いた。
「はっはっは、しかし私は同性婚など認めた覚えはないぞ」
「い、いえ、婚約者など娘さんが勝手に仰っていることでして、私は何の関与もしておらず……」
「まあよい。それほど娘があなたを信頼しているということなのだろう」
偏った性的嗜好をお父さんに曝け出せるなんてどういう頭をしているんでしょうか、リンは。
「……そして君はモンスターを操るスキルを持つシュウくんだね?」
「お初にお目にかかる」
何気に礼儀正しいシュウ。意外と常識的な面があるようですしね。流石に王様の前ではいつもの厨二病的ポーズも憚られるというものです。
「シュウくんは王都出身らしいが……ヒューガくん、なぜ君は王都へ?」
「遊学のためです。王都には最先端のモノが多くあると聞きましたので」
「そうだな……しかしもっと最先端のモノがあるところがあるぞ」
「王都よりも?!」
「まず君は何を学びたいのか」
「あ、えーっと……」
正直に言うことはできない。私が知りたいのは隠しスキルのことと謎の疼きのことについてです。リンやシュウには隠しスキルの能力が私のスキルということになっていますし、疼きのことを王様に話したらヤバいやつ扱いをされてしまう。この国のトップたる人にそんな目で見られるのは──
「もしかして右手が疼くことについてかな?」
私はまたもやリンを睨みつける。
しかしリンは知らん顔で遠くを見つめている。あなたに弁解してもらわないと困るんですが!
「あ、いや、その……」
「娘から話を聞いたところ、君は真面目だし、とても保守的な性格だと感じた。だからその疼きというのも自分の意思ではなく、何かの影響で引き起こされていると考えているのだろう?」
やはり国のトップなだけあって王様はすごい。少しの情報だけで私の性格を把握することができ、その上悩み事まで見抜いてしまうとは……。
「ええ、実は……」
「ククク……そうだ!チカの右腕には竜の魂が宿っているのだ!」
「あ、え、そうなの?」
「ち、違います!右腕は私の意思と反して勝手に疼くんです!この男の戯言は耳に入れないでください!」
「ふふっ、おっと失敬。君たちは仲が良いみたいだな」
「流石国王様分かっていらっしゃる!俺たちは似た魂を持つ同志!仲が良くなるのも当然だ!」
「あなたみたいな厨二病と一緒しないでもらおうか!」
「……まるで夫婦みたいだな」
「な、なにを仰るんですか、国王様!冗談でもそんなことは──」
「そうだよ、お父様!ヒューガと結婚するのはこのボクなんだからね!間違ってもそんなこと言っちゃダメなのだよ!」
「あなたは少し黙っていなさい!」
「……そうか、たった数日でこれほどまでの仲の友達ができたとは」
王様はそうしみじみとした感じで言うとリンの頭を撫でた。
「や、やめてよ!皆がいるところで……」
リンは照れ隠しで頭に乗った王様の手を引き剥がそうと身体を揺り動かしている。
……私にはこの女の羞恥の境界がよく分からない。




