45話 やんごとなきお転婆娘①
私たちから見て正面、その奥でファスナーのように群衆たちが二手に別れていっているのが分かった。引き手たるソレは人の海を掻き分け、どんどんこちらに向かってくる。
「ん?あれは──」
その女は処刑台のある開けた中心部に到着すると、私たちに背を向け、騎士に立ち塞がるようにして、
「この処刑は即刻中止!彼らを解放するのです!」
まっすぐと下ろした、自分の踵で踏んでしまいそうなほどに長いピンクの派手髪。日の光を照り返すほどの艶やかさはよく手入れされているのが分かる。
透明感のあるフリルが幾重にも重なるパールホワイトのドレスは、華やかだが嫌味を感じることはなく、純粋に美しいと思えた。
「し、しかしそやつらは王女様を拉致した犯罪者!なおかつ王都で暴動を起こし──」
「だから!わたくしもその中にいたと何度も何度も言っているでしょう!」
ギロチンに置かれている私たちは顔を見合わせた。
そう、私たちはこの女をよく知っています。いつもと様子が違っていますが。
「えっと……リンですよね?」
私の言葉にリンは騎士から目を離してこちらに振り返った。
前部から見てみると、ドレスという点以外にも通常と異なる点があることに気づく。毎度ノーメイクなのに今日はほんのりと化粧をしていたり、耳に何かアクセサリーをつけていたり、そしてなにより……いつも服の中にしまっている、リンにとっては大事なモノであるはずの命の雫なる宝石を見せびらかすように外へ出していた。
どういう風の吹き回しなんでしょうか。
「そうさ!ボクだよ!助けに来たのだよ!いやー聴取が長引いちゃってー!」
「てっきり殺されたのだとばかり……」
「ボクがそんなヘマするわけないだろう?」
リンは先ほどのフザけているような敬語的口調からうってかわっていつもの調子に戻ると、こちらに近づいてきて動けないのをいいことに両手で私の頬を挟んだ。
「うにゅっ?!」
そうしておちょぼ口になってしまった私の唇にリンは自身の唇を近づけてきた。
やめろ!と言いたいのですが、私の口を開く力よりもリンの腕力の方が強いらしく、抵抗らしい抵抗ができない。男の人ともまだなのにまさかこんな女とだなんてまっぴら御免ですよ!
というかこんな公衆の面前で……リンの羞恥の概念はどうなってるんですか?!
「……」
唇が近くなるにつれて周囲のざわめきがなぜか大きくなった。リンもソレに気づいたらしく、
「まあこんな形でヒューガの初めてを奪うのも面白くないかな」
と顔を遠ざけた。まだある程度の常識は残っているようで少し安心しました……。
「……というか!その格好はなんなんだ?まるでお姫様みたいだが」
「そうですよ!なんでそんなメルヘンな格好してるんですか?メルヘンなのは頭の中だけにしてください!」
リンは私たちの連続の言葉に苦笑いで返した。それはどこか儚げで寂しげで辛そうで……どこか切なさを感じた。
いずれもまったくもってリンに似つかわしくない情緒ですが。
「実は──」
「王女様!危険ですのでそやつらから離れてください!また何を唆されるか分かったものではありません!」
「……王女様?誰が?」
「……うん、黙っててごめん!ボクさ、この国の王女なのだよ」
「「はぁ?!」」
デタラメばかり言ってきたこの女の言葉はいまいち信用できない。
が、いつもと違っておめかしをした格好、騎士と話すときの敬語的口調、処刑を一時停止させることができるほどの権限。今回に限っては信じざるを得なくなるような要素が多すぎます……。
一緒に冒険をしてきた女がまさか王女だなんて……となるとピュートでの花火はこのリンのために打ち上げたというわけで……なんか変な感覚です。
困惑している私に対してシュウは、
「やっぱりか」
と呆れた顔でそう告げた。
「や、やっぱり?!気づいていたんですか?!なぜ教えてくれなかったんですか!」
「言ってもどうせ信じてくれなかっただろう!」
確かに……言われたとて厨二病の戯言として軽くスルーしているのが容易に想像できる。
「話はまた落ち着いたらするのだよ……さあ早くこの2人の拘束を解いてあげなさい!」
「しかし……」
「しかしも何もありません!これはわたくしの恣意などではなく、勅令ですよ!」
「ちょ、勅令?!国王様がその犯罪者たるその2人を解放しろとおっしゃられたのですか?!」
「だーかーら!彼らは犯罪者じゃありません!勅令に従わないというのなら逆に貴方が反逆罪でこのギロチンに置かれることになりますよ!」
「そ、それは嫌です!」
そうして私たちの拘束具は外され、リンによって王城の中へと案内されることとなった。




