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44話 双頭の咎人②

「ヒューガ・チカ及びシュウ・シュボーカン両人はこの王都において──」


 処刑台の前で騎士らしき人物が何か読み上げ始めたが、全く頭に入ってこない。

 さっきまでやけに余裕があったものの、長時間生きるか死ぬかということが宙ぶらりんな状態かつ衆人環視の中に置かれたことで今更ながら現実感が襲ってきていた。

 隣を見ると、シュウも私と同じような感覚に陥ったのか流暢なおしゃべりはどこへやら、毒キノコでも食べたかのような青ざめた顔をしていた。

 ここから助かる方法を考えてみますが……何も思いつかない。というか頭が回らない。死への恐怖が頭の中を支配しているようです。

 強いモンスターと戦っている時とはまた違った、何者かにずっと首を締め上げられているかのような、そんな恐怖。私の持っている切り札的なスキルも意味をなさず、”なんとかなるだろう”というのが存在しない、目的地が死以外にない一方的な道筋。

 こんな時に限って憎たらしくもリンの楽しげな笑顔が思い出される。今思えばたった数日間の旅だったのに、とても濃い内容だった。

 リンに夜這いを仕掛けられたり、迷子のテンユちゃんを発見したり、巨大鹿と戦ったり、魔界に堕ちたり、魔王様に魔眼をもらったり……。

 というかほぼ全てのイベントにリンが絡んでいたりする。そもそも魔の森に行くことになったのはリンのせいであるし、巨大鹿と対峙したのも魔界に堕ちてしまったのもいずれも、こうして処刑台に置かれているのも全部リンの陽気なノリ、というか変なところで怖いもの知らずのせいだ。

 でも……そんな元凶の女を私はなぜだか嫌いにはなれなかった。変態的性癖を持っていたり、都合の悪い話は聞かなかったり、実は気弱な内面があったり、良いところより良くないところの方を見つける方が圧倒的に楽ではありますが、それでも……あの自由な立ち居振る舞いや純粋さ、そして自分の欲望に素直に忠実にできるというキャラクター。そんな彼女がやっぱり羨ましかった。

 家族や会社の様式に縛られてきた私。やりたいことも他のやるべきことのために諦めた私。そして社会ではこうしろ、と教えられ、型にはめられて個を失い、多くの社会人の1人として生きてきた私。

 そのどれもがリンを首肯していた。

 リンは私にとって目標とするべきところであったのだと思う。固定概念、常識を破壊し、自分の意思を埋め込んで再構築するという本質。私含む平凡な現代人は”謙虚さ”というのを美徳としてオリジナルを創造することを辞めてしまっている。だから停滞や作業的で退廃的な時間が発生するのだろう。

 もしも私にもそんな力が備わっていたなら……もっと息苦しいことなく生きられたのだろうか。

 騎士は文を読み終えたのか私たちを一瞥すると、大技の前のモーションのごとく深く息を吸い込んだ。


「よって処刑に──」

 

 そしてチェックメイトの言葉を言いかけた時、


「待ちなさい!」


 とどこからともなく清涼で透き通るような女の人の声が聞こえてきた。

 ソレを聞いた周りの貴族たちはどよめき始めている。私たちは一旦助かった、また1秒でも長くこの世にいられるということに安堵したのち、この窮地を救ってくれた存在について疑問を持ち、困惑した。

 私はともかくとして、王都に住んでいたというシュウの知り合いでしょうか……。

 言葉を発するでもなく、私の向けた視線を理解したシュウは首を傾げた。まあ助かったことには変わりありませんし、この際誰でもいいでしょう。

 しかしこの中でも特に困惑したのは令状を読み上げていた騎士であったらしい。ただし困惑しているというよりは(おび)えているといった感じで、手に持つ(ふみ)をわなわなと小刻みに揺らしてしわくちゃにしてしまっていた。

 そうして我に返った騎士はやけくそになったのか文を両手で押し潰し、周りをきょろきょろと見渡して声の主を見つけようとしていた。

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