43話 双頭の咎人①
リンが衛兵室に入って5分も経たない頃、急に叫び声が聞こえてきたかと思うと、続いて焦った様子で衛兵2人だけが部屋から出てきた。
「何かあったみたいですよ」
私はシュウに耳打ちした。
案の定というか期待を裏切らないというか……つくづく呆れる女ですよ。
「やらかしたな、アイツ」
シュウはそう言いつつ、背中でいまだに眠っているテンユちゃんをそばの壁にもたれかけさせた。
臨戦体制ということなんだろうか。
「どうします?リンを置いて逃げますか?」
「それもどうなんだ……」
かつかつと規則的に石畳を踏み鳴らす音が徐々に大きくなる。
衛兵の顔を見ると、冷静さを保とうとしつつも感情が抑えられない、といった感じであり、ソレを示すように口は一の字に結び、眉は逆さにした八の字のように吊り上がっている。
「マズいですって!」
私はシュウの腰辺りを両手で掴んで左右に揺らし、危険であることを知らせるものの、
「まあ話せば解ってくれるだろう」
などと呑気な様子である。
「いや無理そうですって!あの顔見てくださいよ!」
シュウは衛兵の顔を見ても依然、平然としていた。
何か秘策があるんだろうか、と思ったのも束の間、会話を試みようと何も警戒せずに迎え撃ったシュウは、隠し事などないと表すように広げた両手をそのまま後ろに回させられ、地面に押し伏せられた。
ソレを見た私は驚きが先行してしまい、あたふたしているだけで何もできず、気づいたら女性衛兵にシュウと同じような体勢にさせられていた。
この時、私はどこか楽観的に考えていた。リンの言葉足らずと狂言について弁明すれば解放してくれるだろう、と。
しかしこれから私たちはリンを置いて逃げればよかったと後悔することとなるのです。
「チカ、大丈夫か?」
「……大丈夫なわけないでしょう。というか自分の心配した方をいいですよ」
王城の中の広場、そこで豪勢な召し物を身に纏う人々もとい貴族のような集団に囲まれ、その中心で私たちは穴の開いた木の板に頭と両手を固定されて身動きのできない状態にさせられていた。こんな形で初めて王城に入ることになるとは思いもよらなかった。
そして首をひねり、頑張って空を見上げてみると──大蛇の舌なめずりのごとく、不安を煽るようにぎらりと銀色に光る大きな刃。
つまるところ、私たちは処刑台に置かれていた。それもフランス革命を思い起こさせるようなギロチンである。あっちの世界と同じような処刑法が確立されていることに少し感動を覚えつつ、生殺与奪の権が刃を持ち上げているあんな紐切れごときに握られているということに全身から冷たい汗が噴き出た。
「そ、そもそもですよ?あなたが会話で納得させようとか言ったのに、押し伏せされ、手枷をはめられそうになった瞬間に武力行使に切り替えて固有スキルを使い始めたのが悪いんですからね?」
「話が通じそうになかったからな」
「しかも!あの3犬は私たちがパーティーを結成した日、あなたたちが王都で軽い暴動を起こしたことで顔が知られていた!ソレがリンの失言と合わさって罪が加算され、こんな状況になっているんですからね!」
「必死だったんだ、すまない」
「すまないじゃすみませんよ!」
ちなみに3犬は全く役に立つことはなかった。ご主人様を守ろうと必死になっていたものの、やはり飼い犬であるが故に人間に攻撃するのには抵抗があるのか、もしくはシュウの躾がしっかりしているのか、特にポンちゃんは巨大鹿の時のような雄々しい姿は面影もなく、元魔界のモンスターの彼らはうるさく吠えるただの3匹の子犬に成り下がっていた。
そしてシュウが魔力の流れを鈍くする手枷をはめられてしまったことで抵抗も虚しく、自動的に魔界へと帰っていってしまったのでした。
まだ3犬が出てこなければ弁明の余地があったかもしれないのに、この男は……。
「そういえばリンはどうなったんだろうか」
「暴動の首謀者として尋問が続いているか、もう既に殺されたんじゃないですか?」
「そんな薄情な……」
あぁ、こんなことなら王都に来るんじゃありませんでした……。
処刑台なんて世界史の教科書でどこかの画家が描いた絵ぐらいでしか見たことがなく、実際これからの人生で見ることもないだろうと思っていたのに……。




