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42話 追憶の面接③

「ええと、ピュートの素晴らしいところは……1つ目に豊かな自然が──」


「そんな街どこにでもある。最初にソレが出てくるということは、自然が豊かなところ以外素晴らしいところがない、つまり面白みが皆無なよほど辺鄙な街なのだろう。よく見たら貴様の服装も古めかしい」


 私の服装が古めかしいというのは事実らしいので目を瞑りますが……トウロさんやリロちゃんが生まれ育った街を小馬鹿にするとは遺憾です!失礼な人ですね……まあ次期国王がいなくなるという緊急事態ですし、落ち着かないのは理解できます。

 それに私が”素晴らしいところ”という回答について芳しくないことを言ってしまったのが悪いわけでもありますし……。

 もしもトウロさんやリロちゃんのようなちゃきちゃきの地元民が聞かれたのなら、なんて答えるのだろうか。

 ピュートに戻ったらもっと意識して街を見てみることにしましょう。


「それで他にはどうなんだ。よもや出身地を偽っているわけではあるまいな」


 質問者は私に考える隙を与えないように追撃をしてきた。こんなの圧迫面接じゃないですか?!

 ……もう正直に言ってしまおう。


「実は私……」


 おっと、まさか日本のことについて話すわけではありませんよ?すでに心証が悪くなっているのに加えて、次は狂人だと思われてしまうでしょうし。


「ピュートに住んでいたのは事実なのですが……素晴らしいところというのがよく思いつかなくて……」


「では身分を証明するモノを出せ」


 私は体中をまさぐってみるものの、やっぱりないモノはない。

 うぅ、ピュートに住んでいた証明になるモノ……私はあの街から持ってきたモノを頭に浮かべていく。

 この魔法使い的衣装にバッグパック、それからトウロさん、リロちゃん、キエンくんの似顔絵の描かれた石……全部どこでも手に入りそうなモノですし、ピュート特有というのは流石に──


「そ、そうです!杖がありました!どうでしょうか、杖!」


「杖か……持ってこい」


 私の後ろ、ドアのそばで先ほどの女性衛兵と並んで待機していた衛兵はその命令を聞くと、横の壁に立て掛けられていた杖を取り、「こちらです」と両手で丁寧に差し出した。

 杖を手に取った険しい顔の男はまるで「趣味が悪いな」とでも言いたげな顔を私に向けた後、矯めつ眇めつし始め、


「シン・コーキフ……」


 とまもなく杖の銘刻を見つけたらしかった。

 すると男は机の下から何やら分厚い本を取り出し、叩きつけるように机へと置いた。杖職人の登録者名簿でしょうか。

 そして「シン、シン」と小さく唱えながらページをめくり、お目当ての名前を見つけたようで、あるページのところで静止した。


「……確かにピュートの杖職人が作ったモノで間違いないようだな」


「ということは?!」


「認めざるを得まい」


 よかった!今までこの杖には……シンさんには失礼ですが、私の呪いであるかのように作用してきました。 

 トウロさんに新たな厨二病の要素だと勘違いされて引かれてしまったり、私がヤバい人などという風聞をピュートの魔法使いたちに確信させてしまう原因となったり、シュウによって私は竜をその身に封印している人柱だという流言を広められたり……。

 しかし今日に限っては感謝しかありません!まさかこんなところで役に立つとは……。

 杖を作ることを薦めてくれてありがとう、リロちゃん!そしてなにより杖を作ってくれてありがとう、シンさん!


「それでは……」


 私が危ないモノを持ってないことも分かったでしょうし、そろそろ──


「待て。質問はまだ終わっていない」


「は、はい!」


 王都に入れたとしても監視され続けるのは嫌なので質問には全部答え、後顧の憂いをなくしておきましょう。


「同行者とはどんな関係だ?」


「……ただの冒険仲間です」


「そうか。しかし前に来た男曰く、パーティーを結成したのは最近なのだろう?」


「そうですが……」


 私たちパーティーを結成したのは王女様の失踪した日。しかも年端もいかない子を連れているときた。疑われるのも仕方ない。

 もしかしたらリンの言う闇の盗賊団の一派とでも思われているのかもしれない。

 シュウはどう対応したのだろうか。


「どういう成り行きでパーティーを結成することになったのか、なぜわざわざ王都に来たのに一旦外に出たのか、教えてもらおう」


 それから私はここまでのあらすじを思い出せる範囲で細かく話した。

 シュウは割と丁寧に話していたらしく、たまに私の忘れていた部分についても質問者から突っ込まれたりすることがあった。

 またそのせいでシュウの話と齟齬がないようにするのは結構気を遣った。

 流石に魔界のことについては話しませんでした。シュウも話していないようでしたし……というか話したとて信じてもらえるはずがありませんから。

 私の話が終わると、3人の男たちは顔を向かい合わせ、なにやら会話をすると、


「門の通行及び王都での滞在を認める」


 どうやら合格のラインを超える程度の回答はできていたらしい。

 なんとか乗り切った……。


「最後に……王女様について知ってることなどはあるか?」


 シュウの言う通り、やっぱり王女様はまだ帰ってきていないらしい……といっても私は王都に来たばかりなことに加えて、ただの一般市民でしかないので王女様のことなど何も知りません。

 しかし王女様に対して祝砲を放ったという縁があり、少し身近に感じているため、心配ではあります。

 無事だといいのですが……。


「王女様に何かあったんですか?」


 私が軽く放ったその言葉により、空間内はより重苦しく緊張感が増し、部屋にある物体すべてから睨まれているような、そんな雰囲気に変わってしまった。


「貴様は知らなくていい」


 質問者はぶっきらぼうにそれだけ言うと、私をこの部屋から追い出せ、と目で合図を出した。

 いやいや王女の話題を出してきたのはそっちなのに、逆質問したら疎まれるなんておかしいですよ!小市民であっても知る権利くらいあるでしょう!

 そうして気が立った私は促されるでもなく、自分の意思で衛兵室の外へ出た。

 そういえば……眼鏡のことは聞かれませんでしたね。面接官たちも見たこともないでしょうし、ある地方特有のアクセサリーだと思われていてもおかしくなかったでしょうに。


「あ、ヒューガ!」


 リンは私が出てきたことに気づくと大きく手を振って出迎えた。

 一方、シュウは背中のテンユちゃんを支えていて両手が塞がっているため、少し頭を下に傾けるようにしてシグナルを出した。


「どうだった?」


「シュウの言った通りではありませんでしたよ……」


「というと?」


「2番目だったからなのか分かりませんがめちゃくちゃ詰め寄られました。私たちが怪しい輩だと踏んでボロを出させようって魂胆だったのでしょう」


「ふーん」


「そんな適当な……これからあなたもやられるんですよ?」


「ん、まあ大丈夫さ」


 そんな会話をしているとまもなく部屋から衛兵が出てきて、私の時と同じように「次の者!」と叫んだ。


「じゃあ、行ってくるのだよ」


 リンは何も心配事が無いように軽い足取りで衛兵室へと向かう。

 1番の心配のタネだというのに……。

 

「リン!」


 私の呼びかけに長い髪を空に揺蕩(たゆた)わせて振り向く。


「くれぐれもヘンなことは言わないように!」


「ボクがヘマするわけないだろう?」


 そう言ってリンはドアノブへと手をかけた。 

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