41話 追憶の面接②
「あ、帰ってきた」
リンが推測した時間から約5分ほど早くシュウは衛兵室から出てきた。
私は何も宣言していなかったので賭けは成立しないのですが……3分とでも適当に宣言しておけばよかったですね。そうしていればリンをなんやかんやすることできましたし。
「どうでした?」
私は衛兵に聞こえないくらいの声でシュウに尋ねる。
「どうでした、と言われても……別に普通だ。自白の強要もされなかったし、暴力もなかった」
「そりゃあまあ王家に臣従する役人たちですからね……」
シュウに遅れて先ほどの衛兵が出てくると、「次の者!」と叫んだので私は前に仁王立ちしていた衛兵に一礼し、そそくさと部屋に入っていった。
中に入ると、奥側に置かれた1つの長いテーブルに3人の中年男性たちが怖い顔をして座っていた。特に真ん中の人は実に偉そうに手を組んで、私を鋭い視線で突き刺していた。
この感じ……面接の時を思い出してしまう……。
「まずは身体検査から始める」
そう言うとドアのそばに立っていた女性衛兵が目の前にやってきたので私はほっとし、抵抗することなく、畑の中の案山子のように身体をTの字にした。
もしかしたら男の人に身体検査をされてしまうのかも、と少しドキドキしていていたのです。
「失礼します」
女性衛兵は、まるで木に傷んでいるところがないかどうか探しているかのように淡々に、かつ作業的に私の身体を隅々まで触り続けた。
「問題なし」
どうだったら問題があるのだろう、という疑問は置いておこう。
リンだったらあの大きなたわわのせいで何かを隠し持ってると疑われそうですね。
「では質疑に入ります」
さっき私を呼び込んだ衛兵がこちらを一瞥した後、長テーブルの3人組に目礼をした。
「まずは名前を教えてください」
1番右に座っている、この中では割と優しそうな、無理して強面を作っているような男性がそう聞いてきた。
「ヒューガ・チカと言います」
私が返答すると、1番左にいるエリートサラリーマン的風貌をした人が筆記を始めた。
こういう人が眼鏡をかけていないのがどこか違和感を感じる。まあレーシック魔法なるモノがあるので仕方ないですが……。
今度私もやってみようかなぁ。右目が魔眼になってしまったことですし。
それから職業や出身地、王都に来た目的など簡単な一問一答が1通りなされた。
質問者はまるで私の答えには興味がないように、間を置かず、次々と質問を繰り出すので、その度に1番左の人が必死にペンを動かしているのが視界の端に映り、不憫に思えた。
というか今更ですが、眼帯をしているので見えづらい。うまく距離感がつかめません。外してしまおうか……いや、やめておこう。普通の人間でこんな眼を持っている人はいないし、またヤバい人だと勘違いされるのは御免です。
そして一段落ついたかと思うのも束の間、真ん中に座って険しい顔をしている男性がついに口を開いた。
「冒険者は何年ほど続けている?」
その重低音からなる質問は私を戦慄させた。
……あの忌々しい会社での面接時を思い起させたからです。
高校の先生とバイトの時間を削って毎日のように面接練習をし、想定質問とソレに対する回答もきちんと用意した。これ以上ないというくらい準備をした。しかし……本番当日、強面の面接官に睨まれ続けたことで頭が真っ白になり、結局練習は水の泡となった。もう何を言ったか覚えていないし、回答もしどろもどろで文章の体を成していなかったと思う。なのに受かった。その時点でブラックであると判断できればどれほどよかったか……。
隠していることなどないと示すように笑顔で対応しようと思ったものの、そんな悪夢のような過去が頭の中を巡り、ひきつったような笑顔になってしまった。
緊張しているのだと勝手に解釈してくれればいいのですが……。
「ええと……半年くらいでしょうか」
「じゃあそれまでは何を?」
何をしていたか、と聞かれると困ってしまう。もちろんオフィスワークをしていたのですが、そんなことこの世界で通じるわけがない。
となると……伝家の宝刀を使うしかないようですね。
「家業手伝いを少々……」
「家業とは?」
適当に流してほしかったのに!家業手伝いは空白期間を誤魔化す常套でしょう!
まあこの世界でそんな暗黙の了解が通じるわけありませんよね。そもそも日本でも通じることは少なそうです、家業手伝いとかいうふわふわとしたモノなど一般的な面接官なら嘘であるとすぐに見抜くでしょう。
年齢と『神のみぞ知る』然り、私は嘘で塗り固められた人間になってしまうのでしょうか……。
「あー、えっとぉ……」
もうこんなしどろもどろな受け答えの時点で嘘はバレバレである。
もっと詳細を詰めてから発言すればよかった!こんなことをしていたら心証がどんどん悪くなってしまう……。
「言いにくいことか?」
「ええまあ……言っても理解されなさそうというか……」
男は嘲るように「フッ」と息を吐き、
「まあいい。じゃあピュートとかいう街の素晴らしいところを3つあげてみろ」
私は出身地をリンの時と同様、ピュートと答えていました。よもやそこについてツッコまれるとは……。
その質問を聞いて最初は何の意味があるんだ?と思ったのち、これはピュートの街でちゃんと暮らしていたのかということを確認するための探りであることを瞬間的に理解した。
この世界では身分証明書というようなモノが存在しない。身分の証明といえば、その人の身につけているアクセサリーや服装、武器などから判断される。
それぞれの社会階級特有のモノ、ある地方の伝統のモノ、その人が帰属する組織を示すモノであったり、色々な形で存在している。リンの持っていた命の雫なるモノも多分、ソレらの一種なのでしょう。
大抵の冒険者というのは荒くれ者か素性の知れない貧者であって、そういった身分を証明できるモノを持たない。私もその中の1人と思われたのでしょうね。つまりナメられているというわけです。
まあ実際何も持っていないんですが。
しかし……ピュートの素晴らしいところですか。ピュートは私にとって最初に降り立った街、そして素敵な仲間と出会った始まりの運命的な地。この世界に来てから当たり前のようにそこで暮らしていたこともあって、というか他の街の特色を全く知らないので比べようがない。
どうしたものか……。




