【サブストーリー】 包帯は外してしまいましょう
「えー!それ外しちゃうの?!」
私にとっての呪い……いえ、この人たちと巡り合うこととなった運命の楔たる包帯を解いていたところ、急に横にいたリンが騒ぎだした。
「もうアンちゃんに噛まれたところは治ったようですしね」
「どれどれ、アンの専門家である俺が見てやろう」
そう言ってシュウは不躾にも私の腕をぺたぺたと触り始めた。
「何をするんですか!変態ですか!」
「何って……触診に決まっているだろう」
「シュウだけずるい!ボクもボクも!」
「じゃあ私も……」
シュウに続いて2人も私の腕を触り始め、まるでバーゲンセールのワゴンの気分になった。
「2人もやめてくださいってば!」
そんな私の哀願は無視。
「これは……マズい!」
とシュウはいかにも重大なことを発見したかのような口ぶりでそう言ってきた。
「意味ありげなことを言うのはやめてください。どうもなってないでしょう?つるつる綺麗な前と同じ腕ですよ。目ぇついてないんですか?」
「クク……チカには見えないのか」
「はぁ?」
シュウは私の腕を人差し指でするりとなぞりながら、
「ここからここにかけて魔法傷ができている」
「魔法傷?なんです、それ」
「それは目に見えない魔法によってできた傷だ。外気に触れると悪化するぞ」
「なんで目に見えないのにあなたには見えるのかってツッコミ待ちですか?」
「魔法の傷は少し特殊で体質によって視認できる人とできない人がいる。そして視認できると触れることもできる」
「……」
シュウの言っていることを全て厨二病の戯言だと断定して、手首に残って巻かれていた包帯を外し去ろうとすると、
「いやいや、巻き直した方がいいのだよ!魔法傷があるなら!」
「リンまで……」
「ボクは見れないんだけどね、聞いたことがあるのだよ、魔法傷のウワサ」
「ウワサ?」
「うん、魔法傷があるのを知らなくて放置してた冒険者の身体が急にその傷の部分から真っ二つに割れたりとか、知らぬ間に傷の部分から小さい精霊が身体の中に入っていっちゃって、気づいたら内部が聖霊たちの棲家になっていったりとか……」
やけに具体的な話ですね。
もしかして本当のことなんでしょうか……?
「それは知らなかった。魔法傷は冒険者の間で"沈黙の破壊者"と呼ばれて恐れられているとは聞いたことがあったが……」
「そ、そうやって無知人間な私を脅かすのはやめてくださいよ……」
別に面白くもない冗談に苦笑いで返していると、無意識的ながら左手で抱えていた右腕をテンユちゃんは背伸びするようにして覗き、
「ほんとうにある」
端的にそれだけ告げて、私の目を真っ直ぐに見つめてきた。
いやいや皆して私をからかってるだけですよね?そんなのあるわけ……。
私の楽観的な考えに対して、3人は本当に心配しているような顔を向けてくる。
「タチが悪いですよ?早く冗談でした、と告白してもらえませんか?」
3人は黙ったまま顔を見合わせた。
そしてリンだけがこちらへ近づいてくると、私の両手を包み込むように合わせて、
「あのね、ヒューガ。確かに包帯をつけているのは恥ずかしいかもしれないけどね、命に関わるのだよ。ボクはキミともっとずっと一緒にいたいと思ってる。だから……お願いできないかな」
いつもの陽気な顔から一転、リンは神妙な表情を見せてきた。
2人もそれを後ろから見守っている。
「えぇ……」
とても嘘をついているようには見えなくなってきた、というかこの人たちにそんな上手い演技ができると思いませんし……。
「分かりましたよ!つけますよ!」
私がそう言うと3人は「ほっ」と息を吐いて安堵したようだった。
この世界で私は知らないことばかりなのですもんね。ここは素直に先住民に従っておきましょう。これからも厨二病たらしめる1つの要素となってしまうのは不服ですが……。
そうして私は、もう一度この包帯が彼らとの楔となってくれるように、今までの思い出を綴じ込むように祈りを込めつつ、右腕に巻き直した。




