39話 不安な帰還②
「い、今のが守護者を斃したというスキルか?!……というかさっきの発作はなんじゃ?スキルを発動させるための予備動作か?」
「ククク……魔王殿、アレはチカの右腕に宿りし竜が、我を解放せよと咆えているのだ。だからソレを抑えるために腕に包帯を──」
「デタラメ言うのはやめてもらおうか!」
包帯はもう外してしまいましょう、眼帯もあることですし。
見かけだけですが私はそろそろ本格的に厨二病になりかけてしまっている。
今の私をピュートの3人が見たらどう思うのでしょうか……うん、意外と普段通りな気がします。
「ちなみにさっきの魔力放出はヒューガの固有スキル『神のみぞ知る』によるものなのだよ!」
リンのその言葉に魔界人の2名がまるで波がどっと押し寄せるように私の方へと詰めかけてきた。
「ま、まさか!テンユと同じ神を冠するスキルだと?!」
「アレがそうであったか!実は無駄に2000年近く生きているわしも神を冠するスキルはシューツェンの娘でしか見たことがなかった……というか凄い魔力量であったぞ!守護者を斃したことも納得じゃ。ただ……魔力を吸収するという能力にせよ、あれほどのモノをその身体のどこに溜めておるのか不思議じゃ……」
「そう……なんですか?」
「そうじゃ!ヒューガ、ちとこっちへ来い」
魔王様は私を手招きし、隅っこへと招集させた。
「やっぱりおぬし面白い人間のようじゃな。やはり我が魔眼にふさわしいぞ!」
「あ、ありがとうございます?」
「それでじゃが……おぬしのスキル何か変じゃぞ?」
「……変とは?」
自分でも理解していますよ、この右腕を疼かせるというヘンテコなスキルについて。
「おぬし程度の魔力総量の人間が身体にあれほどの魔力を溜められるというのはおかしい。喩えるなら……そうじゃな、1つのコップに2杯以上の量の液体が入っているというような感じかのぅ……」
「よく分からないんですが……」
「もしかしたら自分の思っているスキルと本来のスキルは違っているのではないか?」
魔王様のその言葉で今までスキルが発生した瞬間たちが頭の中で駆け巡っていった。
私のヘンテコスキルには実は他に素晴らしい能力があるのではないかという希望的観測。ソレがもしかしたら希望的ではないかもしれないという、私に齎された希望。
そうですよ!元々は私のスキルについて調べるために王都まで来たのでした!頭のおかしい人間2人のせいでこんな状況になっているのですが……。
しかしこんなところで私のスキルについての新情報が舞い込むとは……まさに瓢箪から駒という感じでしょうか。
私は声に喜びを滲ませつつ、
「ほ、本当ですか?!」
「うむ、明らかに変であるからな。魔力生成器官から作り出され、魔法を媒介して使われるまで身体に溜められる魔力は総量に応じて常に一定じゃ」
「魔力生成器官……?」
「なに。そんなことも知らんのか!」
魔王様は指を代わりに自分の角を私に向け、上目遣いで私を睨んだ。
「す、すいませんっ!」
大きな声を出され、反射で謝罪をしてしまった。
リロちゃんの属性の時の話もそうでしたが……私はまだまだこの世界で知らないことが多すぎますね。
まあ日本でも知らないことばかりでしたけど。
「この魔王たるわしがその程度のこと説明するのはなんとも馬鹿馬鹿しい……あちらの世界へ帰ってから誰かに聞くとよい。まあ誰に聞いても嘲笑されるとは思うぞ!」
「……すいません」
私が無知すぎることを魔王様に叱られていると後ろから、
「そろそろ行くぞ、チカ」
「もうテンユが魔門をくぐってしまいそうなのだよ!」
と言いつつ、2人が早くこっちに来い、と言いたげに手を振っていた。
「……すいません、仲間が呼んでいますので失礼させていただきます」
「うむ!また遊びに来るがよい!次は色々もてなしを用意しておくぞ!」
「ありがとうございます……でもまたあの門は塞いじゃうんですよね?」
「まあな、しかしその魔眼さえあればわしの魔力を施した巨岩も通り抜けることができるぞ!」
「え!これって魔界へのパスポートだったんですか?!」
こんな形でパスポートは渡さないでほしい。
「という機能もあるということじゃ」
「何の能力もなくないじゃないですか!」
「わしにとってはないのと同義であるからのぅ……」
この気まぐれな魔王様のことですから他にも色んな機能が搭載されていそうですね。オッドアイなのは気になりますが、まあ悪くないモノなのかもしれません。
「ところで……あの巨岩というのはいつから設置されたのですか?」
「もうずーっと時間など数えていないからのぅ……でも結構最近じゃろう」
「さ、最近?!」
この種族の最近がどの程度か分からないのでなんとも言えませんが──
「ほら!もういくよ、ヒューガ!」
私が頭を巡らせていたところ、気づけば痺れを切らしたリンに腕を引っ張られ、穴の方へと連行されていた。
素直に従っているのも相まってリンのパワーにより私はどんどんと魔界人2人と遠ざかっていく。
「また来ますからー!あとシューツェン氏!テンユちゃんのことは私たちにお任せください!」
「そうなのだよ!ボクたちがついていたら大丈夫なのさ!安心するのだよ!」
「ククク……我が究極の奥義・邪神拳の神髄をテンユに叩き込み──」
「シューツェン氏を心配させてしまうようなこと言うのはやめなさい!」
シューツェン氏は私たちのそれぞれ違った励ましに微笑を浮かべていた。
そして──
「あっ!」
単身穴に向かい、先に進んでいたテンユちゃんが踵を返し、シューツェン氏の元へと駆け寄った。
……絶縁宣言でもするんでしょうか。
「おとうさん!」
「なんだ」
シューツェン氏は一瞬でも戻ってきてくれて嬉しいものの、なぜ戻ってきたか理解していないような複雑な表情で応答した。
「いままでありがとう」
テンユちゃんがそう言うと、シューツェン氏の足を抱きしめた。
その瞬間、やはり感情が抑えられなくなったのかシューツェン氏はテンユちゃんを抱え上げ、深く抱きしめた。やっぱり81歳だとしても子供は子供ですね。
私たちは示し合わせたわけではありませんが、親子同士の空間に水を差すのは野暮だと全員思ったらしく、そのまま穴へと入っていった。
そしてその穴の中にて。
「あー!結局魔王様からなんかもらうの忘れてた!もらってくる!」
私たち2人はそんなことをほざき始めた、なぜあそこで空気を読めたのかさっぱり分からない女を前へ前へと引っ張り、出口を目指していた。
そんな中、私はさっき中断した思考を再開していた。
魔王様から巨岩事情を聞いてやっぱり……現世から人間が落ちてくることはあるはずがないのに(私たちのことは目を瞑ってください)、シューツェン氏にその穴の門番という何の意味もない職を与えたこと。これは生まれたばかりのテンユちゃんと一緒にいろ、育児に専念しろ、というような育児休暇的な措置ではないだろうか。最近というのが80年くらいであってもあの種族のことですから別に驚きはしませんし……。
魔王様なりの不器用な優しさだったのかもしれませんね。




