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38話 不安な帰還①

「色々とお世話になりました」


「おお!おお!また来るがよい!」


 私たちは人間界に帰るためにテンユちゃんが通ってきたという穴に案内された。

 まさか魔界を統べし者である魔王様が直々にお見送りをしてくれるとは……。


「テ、テンユー!本当に!本当に!行ってしまうのか?!この魔界で父たる我輩と一緒に暮らそうではないか!」


 父親が幼い娘に泣きつくというなんともあべこべ的な、あまり見かけることのない光景が眼前には広がっていた。

 テンユちゃんはシューツェン氏の手を振り払うと、


「いやだ」


 と女児に似つかわしくない蔑むような眼でそう言った。

 魔王様に女癖の悪さを暴露されたシューツェン氏はテンユちゃんに呆れられ、魔界から出て行くきっかけとなった。人間として育てたいという父親論を展開していたものの、やっぱり本音は魔界人として一緒に暮らしていたかったようですね。

 ソレをこんな行動で示すのではなく、口でちゃんと伝えればいいのに……。


「シューツェンの娘!確かにおぬしの父親は女癖が悪く、人間を孕ませてしまうようなどーしようもない男だが、魔界と人間界の往来を禁止したのはこの男1人の責任ではないのじゃ!そこんとこ勘違いするでないぞ!」


 魔王様はテンユちゃんにビシッと指を差してそう言った。やっぱり魔王、上司として部下のメンツもとい父親の尊厳について配慮してくれているんですね!

 私の会社の上司も2000年働き続ければこんな風になれるんですかね?見習ってほしいものですよ、ホントに。


「この男は溜まりに溜まっていく往来を禁止しなければならない都合という名のコップに入っている水を洪水でコップごと押し流してしまっただけなのだからな!」


 前言撤回。

 これじゃあ配慮するどころか泣きっ面に蜂的状況ですよ!


「……」


 シューツェン氏も魔王様の言葉には返す言葉もないらしい。


「じゃあいってくる、おとうさん」


「……これからは人間としてちゃんと人間界で生きていくということか?」


「もちろん」


 シューツェン氏は冷静さを取り戻すように一つ息をつくと、


「人間界で暮らす……ソレはお前の母親の願いでもあった。まあいつか旅立っていく日が来ることを避けられないとも思っていたが……まさか今日だなんて……お母さんによろしく頼むぞ」


「うん……」


「……お母様は逝去されたのでは?」


「墓がそちらの世界にあるのだ。やはり生まれた地で土に還りたいだろう」


 人間らしい考え……というか愛した人への最後の思いやりなのでしょうね。

 テンユちゃんはもうお前とは話すことはない、と言いたげな背中を見せると単身で穴の方へと先に向かっていった。

 その背中を見つめるシューツェン氏はやはり一子の父親らしく、成長を喜んでいるような、子の旅立ちに寂しんでいるような、そして人間界で上手くやっていけるのか心配するような眼をしていた。


「……ねえ。魔王さん?ボクへくれる物!何か決めてくれた?」


「くれる物……そういえば!黒フードの男よ!あの3犬への捧げ物をここに出すがよい」


「ああ!魔力をこめるというヤツか!是非お願いする!」


 するとシュウはポケットからジャーキーを取り出し、魔王様に手渡した。


「任せるがよい!これを……」


 魔王様はジャーキーを両手で挟むと脇を広げ、思いっきり潰してしまうように力を入れ、


「おりゃ!」


 その刹那、魔力がどんどん魔王様の手中に集っていくのが分かった。

 これは……マズいです!


「うわっ!あががががが!」


 案の定、私の発作もとい右手の振動が始まってしまった。まだ魔界に来てから起こっていなかったのに!


「おう?おう?ど、どうしちゃったのじゃ?!この隻眼娘、様子がおかしいぞ?!」


「どどどどうしてしまったのだ?!」


 初めて見る人が2人もいます!説明が少し面倒です!説明してもシューツェン氏はまだしも魔王様には理解されなさそうですし……というか──


「で、出ちゃいます!わあああああ!」


 私の疼きを発生させる魔力たちは厨二病的杖を通り、空へ発散されていった。

 なぜでしょうか……今日はぶっ放したいという衝動が抑えられませんでした……。

 咄嗟に杖を上に向けて良かった。もし魔王様に向いていたらと思うと……いや魔王様なので意外と余裕だったりしそうですね。まあそれはそれで自信なくしますが……。

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