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35話 気まぐれな幼児体型④

 立派な角を空へ差し、今まで腕を組んでじっくりと話を聞いていた魔王様は口を開き、


「まあ良いではないか、シューツェン。ちと落ち着け」


「……すみません。取り乱しました。なにせアレを倒せる者など……」


「それでヤツを仕留めたのは誰なのじゃ?」


 3人は何も言わず私に指を差した。


「俺たちは止めたんだけどなぁ……」


「あんなの絶対に入っちゃダメって言ってるようなものなのだよ……」


「おねえちゃんが1人でに……」


「あ、あなたたち……っ!」


 さっきまで私についてきてくれたことにすごく感動していたのに!いざという時は仲間を売るんですか!

 というか3人の方がノリノリだったでしょうが!


「そこのカッコいい杖を持っているおぬしか!(ちこ)う寄れ!」


「……は、はい」


 私は3人をそれぞれ睨みつけながら玉座の方へと向かった。全員目を背けましたが。

 巨大鹿を倒してしまって私は何かオシオキをされてしまうんでしょうか……。

 できるだけ腰を低くしつつ移動し、魔王様の前で片膝をつくと、


「ほぅ……おぬしなかなか面白そうじゃな」


「ええと……どうも?」


 どうやら怒っているわけじゃないようですが……。


「おっと、自己紹介がまだじゃった。わしの名前はエル・ケーニヒ!この魔界を統べる者であり、皆からはエル王或いは魔王と呼ばれておる。最強の魔界人じゃ!」


「私はヒューガ・チカと言いまして──」


親子(ファミリー)紅瞳竜殺し(ドラゴンスレイヤー)と呼ばれている凄腕の魔法使いだ」


「すごいほのおの魔法をつかうの!」


「そしてボクのフィアンセなのだよ!」


「遠くからだからって好き勝手言うのはやめてください!」


 無事に戻ったら絶対に痛めつけてやりましょう。


親子(ファミリー)紅瞳竜殺し(ドラゴンスレイヤー)とな……もしかしてその杖は……」


「そう、その杖と右腕には竜の半身がそれぞれ封印されている……」


「違いますから!この杖は紅瞳竜を倒した素材で作ってもらっただけの杖です!」


「紅瞳竜……はて、どこかで……」


 魔王は顎をさすりながら記憶を探るように上を向く。


「おお!おお!思い出した思い出した!アレ造ったのわしじゃ!」


「……はい?」


「いや、造ったといっても少々語弊があるな。実際には()()()()()()()という方が正しい」


「え?」


 何を言っているんだ、この幼児体型さんは。紅瞳竜が造られた?魔界の超技術だとそんなことができてしまったりするんでしょうか……。

 にわかに信じられません。


「まだあの巨岩がなく、わしが気まぐれに人間界に降り立った時、魔の森から出て……どこじゃったかのう、あそこは……。まあよいか。それで周遊している最中にある地で凡庸な竜を見つけた。3秒もすれば顔も形もすっと忘れてしまうようななーんの取り柄もない竜じゃった。だから戯れにわしの魔眼を授けたんじゃ!」


「ま、魔眼(まがん)?!」


「そうじゃ、”魔眼を与える”ソレはわしの能力の1つじゃ」


「その魔眼にはどんな能力が……?」


「能力?何もないぞ」


「はい?」


「わしと会った、という印じゃ。魔眼を与えられたからといって魔力が強くなるわけでもないし、身体がでかくなるわけでもない」


「……それはおかしいですよ。だって紅瞳竜は凄い魔力量を持っているんですよ?魔王様曰く、紅瞳竜は元々平凡な竜だったのでしょう?ソレがあれほどになるのは何かが作用したとしか……」


「あぁ……多分紅い瞳を与えられて、気取っている、というか強くなったと思い込んでいるだけじゃろ。本当は何の能力もないのに……ぷぷぷ!」


 魔王様はイタズラ娘がドッキリを告白するように茶目っ気たっぷりに言ってのけた。こう見ていると普通のロリっ娘にしか見えません。

 というか紅瞳竜はただ勘違いしているだけの竜ですと?!いやいやそんなわけ……。

 プラシーボ効果みたいな感じなのだろうか。まあ魔王様から魔眼を与えられたら誰だって勘違いするでしょう。

 いや、実は何の能力もないのが分かっていながらも、魔眼というモノに見合うように陰で努力をしていたりとか……。


「……その魔眼を与えるって固有スキルなんですか?」


「ちがうぞ。魔王特有の能力じゃ。そうじゃな……肉体強化魔法というのは基礎魔法やら応用魔法やらと独立したモノじゃろう?ソレと同じで魔界にもそういった独立して確立されている魔法が存在するというわけじゃ」


「……なるほど?」


「それでじゃ、さっきシューツェンの娘はおぬしが凄い炎の魔法を使ったと言っておったが……おぬしの属性は風じゃろう。それなのに凄い炎の魔法を使うとはどういうことじゃ?魔法総量も別に多くないようじゃが……」


「えっ?!私の本当の属性が分かるんですか?!でも……」


「おぬしが言わんとしていることは分かるぞ。おぬしは色んな属性の魔力が奇妙に混ざっておる……何かスキルのせいだとは思うが……それでも生来より保有しているのは風じゃ」


「ど、どうして分かるんですか?!」


「何年生きてると思っておるのじゃ!そもそも我ら魔界人は魔力感知に優れておるのだ。それくらいのこと容易いわ!」


 そりゃリロちゃんと比べてはいけませんよね。魔法歴が全く違うわけですし……。

 というか私は風の属性を持っていたんですか……これからはもっと風属性の魔法を勉強することにしましょう。


「それでどうなのじゃ?」


「凄い炎の魔法のことですか?アレは……ポーションの効用で出ただけです」


「なんと!わしの知らない間に魔力総量が少ない者でも凄い魔法を出せるポーションが発明されていたとは!」


「あ、いえ……私の固有スキルは魔力を吸収し、ソレを放出するというモノでして、ポーションの効用が多分……魔力を炎属性に変換するというモノであったので……その2つが合わさり、凄い炎の魔法ができてしまったという……」


「なるほどじゃ。巨岩を破壊したのも守護者を(たお)したのもその固有スキルのおかげというわけか。すごいモノを持っているようじゃな……しておぬし"隠しスキル"も持っているようじゃが……」


 その言葉を聞くと、私はすぐに魔王様に這い寄っていき、


「諸事情により仲間たちにそのことは隠していますので……」


 と耳元で囁いた。


「う、うむ。分かったのじゃ」


 魔王様は不思議そうな顔をしてぎこちなく頷いた。


「ヒューガ、あんな近くで何を話してるんだろう……」


「さてな」


 そんな声が後ろから聞こえた。

 あなたたちは知らなくていいんです!


「しかし……まさかわしの造った竜と対峙した者がここに来るとは……これも何かの縁じゃな」


「確かに凄い偶然ですね……」


「ヒューガと言ったか?その耳からかけているアクセサリーを外し、ここに顔を持ってくるがよい」


 魔王様は自分の胸から直線上の少し離れた空中に指で丸い円を描いた。


「は、はい」


 魔王様の命令は絶対……というか断って何が起こるか分からないので素直に従い、眼鏡を外して顔を持っていくと、


「ほい」


 無抵抗のままに私の右目は魔王様の鋭く尖った爪によって貫かれた。

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