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32話 気まぐれな幼児体型①

「少し中を見たらすぐ帰りますからね……」


「分かっているのだよ!」


「ククク……いざ闇の深淵へ……」


 一晩明けて私たちは穴の中の探索を始めることとなった。


「テンユ!ボクの手をしっかり握ってるのだよ!」


「うん!」


 あんなことがあったのにこの子は怖いもの知らずですね……。

 中に入ると、壁はでこぼこであるのが見え、人工的に削られたのだろうということが分かる。

 そしてその空間はどこか全身を舐められているかのように不気味に生暖かく、腕にはナニカが絡みつけられ、後ろに引っ張られるような──


「って何怖がってんですか!あんたがここ入りたいって言ったんでしょう?!」


 リンは右手をテンユちゃんと繋ぎ、左手では私の右腕を編み込むようにがっしりとしがみついていた。


「フフフ……怖いということにしておいてくれたまえよ。こういう時くらいしか合法的にヒューガに触れないからね!恐怖というのは身体的接触の免罪符さ!じっくりとじーっくりと堪能させてもらおう!」


 私は振り子のように腕を思いっきり前に流し、勢いをつけてから後ろへ振りぬいた。


「ひどいのだよ!」


 引き剥がされたリンは、まるで私が加害者であるような口ぶりでほざく。


「本当に怖いのなら男のシュウの方にしがみついといてください!」


「ヒューガのことが好きだから近づきたいだけなのだよ!」


「はぁ……」


 返す言葉も特にないので私は前に向き直し、そのまま歩き続けた。

 そしてそれから数十分……といっても全く景色が変わらないせいで時間の感覚が鈍っていそうですが、腹時計ではそのくらいだと示しています。


「なーんにもないのだよ……」


「人工的に塞がれているだけあって何かが眠っていると思っていたのですが……」


「逆に不気味だな……」


 これだけ歩き続けて何もない。先に光も見えない。この穴は一体何のために作られたんだろうか。


「もう帰りません?この先も何もないですよ、きっと」


「えー、折角ここまで来たのにもったいないよ。ねえ、シュウ?」


「……そうだな、魔門を通ってきたからには隠された世界の真実くらい見つかると思ったんだが……」


 世界の真実は言いすぎですが、何か隠されていそうな風体ではありましたが……。


「テンユちゃんもそろそろ帰りたいでしょう?お母さんが恋しいでしょう?」


「私、実はおかあさんいないの……おとうさんだけ」


「あ……え、ごめんなさい、知らなくて……」


 私含め3人の足を進める速度が遅くなった。

 2人を見るものの、ふいと顔をそむけた。気まずい……。


「ううん、私が言ってなかったのもわるいの。それに……しぬのは自然の摂理だから……」


 キエンくん然り、この世界の子供は逞しいです。それにしてもこんな歳で母親と死別なんてあんまりですね……。

 よくここまでやさぐれずに育ってくれたものです。


「ごめんなさい……ええと、テンユちゃんはどうしたいですか?」


「もうちょっと先にいってみたい」


「……分かりました。テンユちゃんが言うなら仕方ありませんね。もう少し行ったら一緒にお父さんを探しましょう」


「うん、ありがとう、おねえちゃん」


 はうっ!その健気な笑顔……反則的です!なんでも買ってあげたくなっちゃいます!

 あ、でも私無一文でした!


「それでは先に向かいま──」


 そうして足を踏み出した途端、


「ん?」


 そこには足場がなく、まるで重力が急に無くなったかのようにがくっと身体が前のめりになった。


「わあああああ」


 気づけなかった!真っ暗闇のせいで穴が地面と同化していた!そもそも光源も持たないでこんなところに入るのがダメだったんです!


「チカ!」


「ヒューガ!」


「おねえちゃん!」


 吸い込まれるように下へ下へと落ちていく中、そんな声が頭上から穴の中で響き渡る。

 まだまだ着地する気配はない……。落とし穴のせいで死んでしまうなんて情けなすぎる!折角さきほど巨大鹿も倒したというのに……。

 せめて死ぬ前に私が厨二病であるという人々の誤解を解きたかった……。

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