30話 深淵の守護者⑥
「もう……終わりです……」
「危ないっ!」
リンは私を地面から引き上げて、攻撃から助けてくれた。
巨大鹿は小賢しくも大きく溜まっている魔力を小出しかつ連続で放出し始めていた。
「死ぬ気?!」
「もう勝ち目が……」
リンに手を引かれながら走る。私には全然力が入っていないのでリンだけが動力源です。
……こうしていると王都で初めて会った時を思い出す……ってこれは走馬灯?!
「最後まで戦うのだよ!」
「戦うっていっても……万策尽きたじゃないですか!物理系の魔法もあの壁で防がれる、私の渾身の魔力放出は吸収される、どう倒せばいいってんですか!」
「ボクに聞かれても分からないのだよ!」
じゃあもう死を待つしかないじゃないですか!
ああ、知見を広げるために、勉強しに、王都にまではるばるやってきたのに……まさか鹿に殺されてしまうなんて思ってもみなかった!こんなことならもっとピュートの街でトウロさんたちとクエストを受けたり、遊びに行ったり、ウィンドーショッピングをしたり、愉快な生活を送っていたかった!
私が死んだらピュートの3人は悲しんでくれるのだろうか……。
「魔力の吸収?だっけ?すごいモンスターだね……ヒューガのスキルと似てたり?」
私のスキルと……確かに似ていますが……。
もしかして魔力の吸収には限界があるのでは?!私の右腕は魔力が溜まりに溜まることで勝手に疼きます。それと同じようにヤツも魔力が限界に達した時何か隙ができるかもしれません……希望的観測ですが、今はこれしかないと思います!限界がなかった場合、私たちはジ・エンドなわけで、これは一か八かの賭けとなります。しかし当たった時のリターンは大きい!
私と巨大鹿では魔力を溜める器の大きさは全然違うでしょうからもっと魔力量が必要なのですが……。
「そういえば!」
「ヒューガ、何か言い案を思いついた?!」
無料でもらったポーションのうちの1つ、ラベルなしポーションのことを思い出した。威力倍増系のモノだろうとおじさんは言っていました。
「これ持っていてください!」
持っていた杖をリンに押し付け、私はすぐさま後ろのカバンに手を伸ばす。
「ヒューガ……それは?」
「多分さっき私が飲んでいたモノと似ている魔力倍増系のポーションです。これでもう1度渾身の魔力放出をします。私のようにヤツにも魔力吸収には限界があるはずなので達した時に何かしら隙が生まれるはずです。そうすれば逃げるなりなんなりできるでしょう」
「で、でももしその推測が間違っていたら、アイツに魔力がより溜まっちゃってピンチになるんじゃ……」
「他に策が思いつくんですか!」
「思いつかないけど……」
「じゃあやってみるしかないでしょう!最後まで戦うんでしょう?」
「う、うん」
するとリンは「ぐへへ」という気味の悪い笑い声をして、
「……今日のヒューガは少々強引だね……そんなヒューガも良い!ボクが責め立てられる側っていうシチュエーションもなかなか燃えるね!」
「おかしなこと言うのはやめてください!」
私は手に持つポーションをぐーっと呷った。これは……メロンソーダの味です!懐かしい……まだお母さんやお父さんが仕事で忙しくなかった時、3人で喫茶店へ行ってメロンソーダフロートを買ってもらったことがありました。特に強く残っている家族との思い出です。
……その時お母さんとお父さんはお腹いっぱいだから、と何も注文していませんでした。
子供だったので両親の言葉をそのまま信じてしまっていましたが、その頃から貧乏の片鱗が現れていたのでしょうね。大人になってから気づく親からの愛っていうのはあるんですよね……。もう会えないのかな。
「泣いてる、ヒューガ?そのポーション美味しくない?」
「すいません、今ちょっと感慨深いモノを感じてしまって……」
不思議そうな顔をしているリンを横目に私は袖で涙を拭いつつ、
「もう1度渾身の魔力を放出しますので私の右腕に溜まるまでもう少し耐えてくださーい!」
私は離れた場所にいるシュウにも聞こえるように大声で言った。
「了解だ!」
シュウはテンユちゃんを背中におんぶしながら全速力で走っていた。これが終わった後、労ってあげないといけませんね。
テンユちゃんは何も見えなくなるようにシュウの背中に顔を埋め、恐怖からかがっしりと首の裾を掴んでいた。
そうしてヤツの角の間の球体上の魔力の塊が一回りほど小さくなった頃、
「っ!そろそろです!」
「もうしんどいと思っていたのだよ!」
元々体力のないリンは顔には疲れが見えるものの、危機的状況にあるためか動かしてる足は元気であった。
私はリンから手を放してもらい、杖を返してもらった。
「やっとか!」
シュウはテンユちゃんを背負って走っていたため攻撃をぎりぎり避けれているものの、ヘロヘロです。
その刹那──
「あががががが!」
右腕が疼き始めた。これほど嬉しい疼きは今までない。厨二病と思われるため忌々しいスキルですが、溜まった魔力を放出するというシンプルながら強力な能力、そしてどんな敵にも勝ち得るという切り札的な可能性を私は認めています。
私は杖を鹿に向け、
「これでおわりだあああああ!」
杖の先端に魔力が集っている。いつも通りだ。しかし生死を分けるという若干の緊張感があった。ゴリラ的聖霊の時は魔力放出を外したとしてもリロちゃんがいましたし、それまではほぼほぼ1回撃ったら勝ちという状況であったし……。
私は心の中で推測が当たっていることを願った。
ここでこの巨大鹿と出会ったのも運命だったのかもしれない。私と似た能力と戦う経験というのはそうそうあることではないでしょうから。
そして──杖から放出された大爆炎は鹿を包み込んだ。




