20話 厨二病たちの協奏曲④
12話とリンクします。
多数決……というか必然的に私は少数派であり、魔の森へ行くことが確定した。ただそこへは王都からだと2日ほどかかるらしく、どこかで野営をすることになるという。
そこまでして行く必要あるんでしょうか、いや、ない。
"魔"というのは厨二病を惹きつけるワードなのです。
「それで魔の森っていうのはだね──」
曰く、魔の森はリンちゃんの”アナザースカイ”とシュウが言っていた通り、そこには昔から魔界と繋がる門があるという言い伝えがあるらしい。
まあ大方、迷子になったり、危ないのに入って行ってしまう子供たちへの戒めだとは思いますが。
「ところでキミたちってどこ出身?ちなみにボクは……王都さ!」
リンちゃんがそう聞いてきた。出身……ですか。
どう答えればいいのだろう。流石に日本だとは言えないし、正確に出身を答えるなら最初に降り立った何もない平原になる。
まあこの世界で1番長く滞在したという意味でピュートでいいのか。
「俺は……ずっと王都だな」
シュウは一瞬迷うような仕草をしてから答えた。
どうせ「俺の出身は地獄の深淵たる暗黒……誰も踏み入ることのできない禁域だ」などと言おうと思ったのだろう。シュウと厨二病仲間であるリンちゃんですが、今回はいつもとは少しトーンの下がった真面目な会話を試みていた。
シュウは意外と空気が読める男だったりするのだろうか。
「私は……一応ピュートという街で……」
リンちゃんの足が止まる。
「どうし──」
「ピュートって言った?!」
私の言葉に被せるように食い気味に聞き返してきた。
「え、ええ」
リンちゃんは両手をきゅっと握り締め、太ももに当てると、
「あの篝火の……」
「そうですが……」
リンちゃんの様子が何かおかしい。いやまあ、他の人と比べたらいつも様子はおかしいのですが……。
そんな記憶を噛みしめるように俯いてしまうほど、ピュートの篝火を気に入ってくれていたのでしょうか。
まあ王女様の誕生日にだけ見ることのできる、遠くで揺れている炎というのは、特別な日だという補正もかかって幻想的に見えるのかもしれませんが……。
「毎回夜が明けるまで……」
「そうなんですよー!私も篝火を燃やし続けるためにずっと魔力を送り続けてましたよ!……大変でしたけど王女様が喜んでくれるなら、と頑張りました!」
「ヒューガもやってたの?!」
「まあ私は今回初参加だったんですけどね!」
「初参加?……もしかしてだけど、ピンク色のアレって……」
「ふふふ、すごかったでしょう?アレは”花火”と言うモノで、私が考案したんですよ!」
花火を提案したのはパーティーメンバー全員で参加するため、という下心もあったのですが……もちろん王女様が喜んでくれることが1番でした!
「じゃあその後のアレは……」
その後のアレというと……もしや、私の隠しスキルのことで……。
「俺も見ていたが、アレも美しかったな。一瞬にして空中に浮かび上がったソレがまるで鳥籠のように広がっていった光景は世界の終焉かと思うほどだった」
「アレももしかしてヒューガが……?」
私というイレギュラーが加わったことで新たな伝統が増えた生誕祭……。
隠してもバレてしまうでしょう。というか隠す必要もないか。
「実はアレ、私の固有スキルによる魔力の放出なんです!王女様に喜んでもらいたくて!」
私の右手の疼きが限界で、思わず空に放ってしまったとは言えない。
まだリンちゃんには私の疼きを見られていないし、することすらも知らない。もし知られてしまえば、「やっぱりキミも”こっち側”だったんだね」と言われ、仲間認定されてしまう。
疼きそうになったら木陰にでも隠れることにしましょう。
「おや、チカのスキルは魔力の吸収では?」
「その吸収したモノを放出もできるのですよ」
シュウは大仰にも両掌を私に見せ、驚くような動きを見せた。
「そんなのチートだろう!戦う前に多くの魔力を吸収しておけば一撃じゃないか!」
やっぱり考えることは皆、同じですね。
「……それって面白味がないですよ」
シュウは膝から地面に崩れ落ちた。
「くそっ!この俺としたことがなんてロマンのないことを!」
分かってくれるならいいんです。確かにこのいつ死ぬか分からない世界では、クエストの前準備が非常に重要なのでしょう。なぜなら少しのミスで命取りになる可能性があるからです。
そうなれば私の右手に魔力を溜めておくのも悪くない戦法ですが……私に頼りすぎるという癖がついてはいけない。
ただでさえ私の超火力的魔力放出は弱くなっているのだから……不発なんてこともあり得るかもしれません。
そうなると本格的に足手まといじゃないですか!
感覚的に篝火の時は紅瞳竜を倒したほどの威力が出ていた。何が違うんだろうか。
「王女のためにそのスキルも使ってくれたの?」
「20回という節目でしたのでね!」
いかにも真意100%というような笑顔で言ってのける。
と、その刹那──
「あがっ、ががが」
私の意思に反抗するように右手が疼き始めた。
頑張って抑えてみようとしたものの、電池切れのロボットのようになってしまっている。
シュウはなぜか頷き、リンちゃんは通常時の陽気な様子に戻り、右腕を抑えている私を見てにやりと笑い、
「やっぱりキミも”こっち側”だったんだね」
……ほらね。
その夜。
これ以上暗い道を行くのは危険であるし、夜行性モンスターが出るかもしれない、ということである小さな木立の中で野営をすることとなった。
交代で見張りをし、休憩を取る。当然のごとく、毛布や枕などといった贅沢なモノはないのでそのまま地べたに寝転がるしかない。
固くてよく眠れないだろうと思っていましたが、大地の恵みと言うべきか、地面はほんのりと暖かく、そんなに心地は悪くありません。しかし──
「んぅ……」
やはり慣れない場所だからなのか目が覚めてしまった。
ただ今は少しでも休息を取った方がいいと思い、自分の見張りの番になるまで目を瞑って横になっていることにした。
そう思って寝返りをした時、私の肩を何かが撫でた。地面と擦れる音。規則的だが荒い息遣い。怖い!生物であることは分かりますが……もしかしたらモンスター?!いや、でも見張りがいるのに……見張りのシュウかリンちゃんが殺されてしまった可能性も……。
ソイツと目が合ったら殺されてしまうかもしれない、そう思ってできるだけ息を殺し、死んだフリでやり過ごす。殺されるなら寝ている間にスパっといってほしかったのですけど……。
ただ敵の姿くらいは知っておいた方がいいので薄目を開けるとそこには──
リンちゃんがまるで獣のごとく四つん這いで私に覆いかぶさっていた。
「あぁ、ヒューガ、ヒューガ!」
リンちゃんは小声で私を呼びかけている。その声はどこかなまめかしい。
私は恐怖を感じて思わず目を全開にしてしまい、視線がぶつかる。
「あの……何を……」
リンちゃんは少し驚いていたものの、その体勢のままで、
「愛しいよ、ヒューガ!」
「はぁ?」
「一目見た時からさ、すらっとしててお人形さんみたいな顔をしてて素敵だと思っていたのだよ!」
本当に言っている意味が分かりません!
「優しくするから──」
そう言うとリンちゃんは身体を密着させてきた。
ここまで近づくと、アレの大きさが鮮明に分かり、凹んでしまいます!というか私のモノはリンちゃんのモノの弾力には勝てず、押しつぶされた状態になっている。
頑張れ!押し返せ!
「ちょっとどこ触ってんですか!」
リンちゃんは私のズボンの方に指を滑り込ませてきた。
抵抗しようにも身体で押さえつけられていて上手くできない。
「ソレはヤバいです!ヤバいですって!」
「なにがー?」
私の声などお構いなしにリンちゃんの指はどんどん深層へと進軍していく。
せめて声だけでも抵抗しようとするものの……。
「私!男の人ともまだなんです!」
「ボクもだよ。処女同士、対戦よろしくなのだよ!」
これは夢!夢なんですーっ!夢であれーっ!
と、その時、この状況では救世主とも思える声が聞こえた。
「……何をしている」
シュウは見張りの交代を伝えに来たらしかった。その空間には沈黙が流れ、耳に入ってくるのは木の葉の触れ合う音のみとなった。
まさかこんな厨二病男に絶大な感謝をする日が来るなんて……。
リンちゃんは少し身体を上げ、シュウの方へぎこちない動きで振り向くと、
「ナニって……禁断の果実を求め合う闇夜の舞踏会……さ」




