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後編

こんにちは。雨井浅草と申します。後編まで読んでくださり、ありがとうございます。拙い文章ですが、最後まで読んでいただければ嬉しいです。

チェーホフの銃の法則にそぐわない箇所があったので改稿しました。

誤字を修正しました。

加筆修正しました。

 紅瞳竜の卵の回収に向かう道中。


「そういえば、ヒューガのその耳からかけてるアクセサリー個性的だよな」


 キエンくんが言った言葉に、トウロさんとリロちゃんは、びくっと肩を(すぼ)めた。

 耳にかけてる?アクセサリー?私はおしゃれというものには全く縁がない人生を歩んできているので、アクセサリーなどつけたことがないのですが……。

 異世界に来た途端、気付かぬ間につけられていたのでしょうか。


「あ、ああ、俺も気になってたんだ。なかなかオシャレだよな、ソレ」


「そ、そうですね、丸い縁がお目目を囲ってていい感じです」


 2人がフォローするように言葉を続けた。なんで言ってはいけないことを言ってしまったような雰囲気になっているのでしょうか……。

 アクセサリーというのは眼鏡のことだろうか。

 ……もしかしてこの世界には眼鏡というものが存在しない?!私は幼稚園児時代から生粋の眼鏡っ娘で、眼鏡なしでは生きていけないという人生を送ってきました。

 この世界の人はみんな目がいいのでしょうか。


「これのことですか?」


 私は眼鏡を外して、3人に見せる。

 キエンくんは目を輝かせ、興味津々といった感じですが、トウロさんとリロちゃんはなぜか怖がっている様子だった。


「これは"眼鏡"といって視力を高めるものなんですよ」


「目がよくなる魔道具か。見たことなかったからてっきり……」


 てっきりどう思ったのだろうか。教えていただきたい。

 トウロさんとリロちゃんはふぅ、と息をついた。

 忌々しいスキルのせいで眼鏡があっちの世界で言うところの眼帯のような厨二病的アクセサリーの一種だと思われていたとか……でしょうか。

 

「俺につけさせてくれ」


「俺も!俺にも!」


「私もつけてみたいです!」


 ただの眼鏡でこんなに盛り上がるとは思わなかった。

 彼らは眼鏡をつけあって、これはどこかに魔力を流し込まないと発動しないだの、特定の人にしか使用することができないだの、的外れなことを言っていた。


「これは目が悪い人の視力を矯正するもので、目がいい人が使っても意味ないんですよ」


 3人とも驚きの顔を見せた。驚く要素があっただろうか。


「ヒューガ、目が悪いのか?」


「悪いですね、すごく」


 3人はさらに驚いた顔を見せた。


「レーシック魔法を受けることをおすすめするぞ」


 曰く、この世界にはレーシック魔法なる高度な視力矯正の技術を使える者が一定数いるらしく、そのため目の悪い者というのは極端に少ないという。

 だからこそ私の眼鏡をヘンテコなアクセサリーだと思ったのだろう。


「レーシック魔法を知らないなんてド田舎出身なんだな、ヒューガ」


「キエン、ド田舎だなんて失礼です」


 ギルドの受付嬢も言っていた通り、魔法に疎いということは、魔法の普及していない地域出身だと示すことであり、ド田舎から上京する場合、ある程度魔法について学んでから、というのが一般的らしい。


「そういえば、ヒューガの固有スキルがどんなものか聞いてなかったな」


「ふふ、時が満ちたらお教えしましょう」


 スーツの代わりに着た魔法使い的衣装のマントを翻してそう言った。

 ソレはリロちゃんに選んでもらったモノです。白いYシャツに鼠色のネクタイ。膝下まで伸びたマント。ベルトで止められ、クリースラインが綺麗に引かれたすらっとしたパンツ。

 マントだけは異世界的ですが、ソレ以外はまさにスーツのようでこの世界でも社畜をしろ、と言われているのかと思うものでした……。

 少し厨二病っぽいセリフだっただろうか。しかし私が厨二病に思われているなら辻褄が合うし、好都合です。

 右腕が振動するだけのスキルなんて恥ずかしくて言えません!


「わ、わかった」


 トウロさんは少し引いてしまったのか後ずさった。

 他2人もイタい娘を見るように視線を送った。



 ある森の中に1箇所木々が薙ぎ倒されていたところがあり、その中心には卵が置いてあった。


「大きい……」


 思ったより大きかった。竜の卵といっても両手で持てるくらいだと思っていましたが、私の身の丈の4倍以上ありました。

 殻には緑と赤の曲線が交わったり交わらなかったりする奇妙で不気味な柄が刻まれている。


「よし、とっとと運んじまおう」


 キエンくんが後ろに背負っていたものを降ろした。

 それは折りたたんであったようでやり方を知らない私は傍観していましたが、3人は手際よく組み立てを始めた。


「これで完成です」


 卵回収装置のそれは、スーパーに置いてあるカートが子供に見えるくらいの大きさのカートだった。


「リロ、たのむ」


 運ぶのはリロちゃんの魔法頼りだったらしい。


「はーい」


 杖で呪文を唱えると卵はサイコキネシス的に宙に浮かび上がり、カートの中に収められた。


「帰りましょうか」


 リロちゃんの言葉を合図としてカートの前にちょろんと垂れた2本の縄をトウロさんとキエンくんは引っ張り始めた。

 なんて原始的な……。

 というか今回も私何もしてません。私がカートを引っ張ってもいいのですが、男の人の方が力があるでしょうし、非合理的です。



 ”竜の卵の回収”という大層なクエストでしたが、またも容易に終わってしまいました。

 まだこの世界のクエストで苦労したことがないがこんなものでいいのだろうか……。


ぱきき


 それは今までの出来事がフラグであったかのように思える音だった。


「なんか卵の頂点のところが割れてないか?」


 気づいたのは街までの道のりの半ばくらいの場所で、よく見ているとひびがどんどん広がっているのが分かる。


「孵るなんてことないよな……」


 キエンくんのそのセリフは特撮の「やったか」という言葉と同じくらいのフラグだったのです。



 マーフィーの法則というのをご存知だろうか。それは失敗する可能性のあるものは失敗するという経験則的なジョークのことです。

 つまりまさかないだろうな、と思うとそのまさかで起きてしまうということです。

 そう、今の状況のような。


「ヤバい、マジヤバい」


 卵が孵ってしまった。なぜと思案に耽る余裕はない。今は卵が確認されてから2日しか経ってないなどとデタラメを言った人を恨む他ない。


「『龍爆焔(ドラゴニック・バーン)』!!」


 今まで敵が弱かったため見ることがなかった固有スキルがここで初めてお出しされた。それは私の持っているスキルとは桁違いの派手なモノだった。

 う、羨ましい……!なんて思ってる場合じゃないですよね!

 キエンくんの両手から出た炎は龍の形を成して赤ちゃんドラゴンに襲いかかりる。


「ぎぎゃあああああ」


 産声のごときその叫びとともに赤ちゃんドラゴンの口から炎が放出され、キエンくんの炎と激しくぶつかった。

 赤ちゃんとはいえ紅瞳竜なだけあって威力は凄まじい。けれども2つの炎は拮抗している。

 一方、私といえば、


「あががががが、右腕ががががが」


 こんな時に私の謎スキルが発動してしまっていた。

 ソレは今までの電気マッサージ器ほどの振動とは比べものにならないものでした。

 3人は、こんな時にそんなことやるな、と言いたげな顔で私を見ている。私もそう思う。こんな時に発動しないでほしい。


「俺も手伝う。『段々と強くなる(クレッシェンド)斬撃(・スラッシュ)』!!」


 飛ぶ斬撃が赤ちゃんドラゴンの外殻に当たりますが、ちゃきんと儚げな音を立てて消え去った。


「ヤバい、これキツい」


 やはり人間と竜では魔力量が違いすぎるのか、体格差の問題か、それとも気合の問題なのか、キエンくんのスキルは赤ちゃんドラゴンに押されつつあった。 

 キエンくんは魔力をなんとか絞り出しながら踏ん張っているようで、まるでその炎のように顔が赤くなってしまっていた。

 リロちゃんも何かしようとしていましたが、固有スキルが戦闘向けではないらしく、ただ杖を握りしめ、内股になり、あたふたしていました。基礎魔法や応用魔法で横槍を入れても、攻撃対象が変わるだけですし、より怒ってしまうかもしれないので無暗に攻撃しない方が得策です。

 冷静に解説している私はというと──


「キエンくんんんんん、がががががんばってくださささささいいいいい」


 右腕の振動のせいで扇風機の前で喋っているみたいになってしまっていました。


「限界だ」

 

 ドラゴンの炎は私たちを包み込んだ……あれ?生きてる……。

 ゲームであれば"GAME OVER”と画面に表示されるのでしょうが、どうやらリロちゃんが咄嗟に固有スキルを使ってくれたようだった。

 本来なら全員丸焦げだったはずですが、地に伏せているだけで助かりました。

 炎が当たったという感覚はあるのですが、熱いと感じる瞬間は存在しなかった。


「私の固有スキル『整然とした道徳(タイディ・モラル)』は私が指定したモノ、空間を傷つけられる前の状態に戻すというものです。しかし何度も何度もアレを喰らったら戻すのが間に合わなくなるかもしれません……」


 絶望的な状態です。逃げるしかないありませんが、このドラゴンは私たちを易々と逃がしてくれないでしょう。

 赤ちゃんであるドラゴンにとって私たちはおもちゃのようなモノなのですから。


 その時、ずっと振動していた腕に魔力が集っているのを感じた。

 魔力感知はリロちゃんに基礎魔法を習った時についでに教わった技術です。

 衝動……というのでしょうか。何かが出てしまう!そしてぶっぱなしたい!そんな気持ちが脳内を駆け巡り、


「ヤヤヤヤヤバいです!なんかでででででちゃいます!!」


 私がジンジンと張り詰めた右手をドラゴンにかざすと、高密度の魔力の塊が放たれた。

 その衝撃によって私は目が開けられなかった。



 次に目を開けた時には──


 上半身が吹き飛んだドラゴンの死骸がそこにはありました。


「なにが……起きたんだ?」


 私が聞きたい。


「あの紅瞳竜が一撃で倒されました……」


「すごいな……」


 私含め皆放心状態で30分くらいは地に伏したままだったと思います。

 しかしドラゴンだとしても産まれたての子を吹き飛ばしたのは、あまりいい気持ちではありませんでした。ただ私にもこんな能力が隠されていたのだと興奮はしました。

 やはり神様は私を見放してはいなかったんだ!



 噂が出回るのは早いものでギルドに帰ってくると、


「あれが紅瞳竜を倒したっていう竜殺し(ドラゴンスレイヤー)のヒューガか……」


 私は竜殺し(ドラゴンスレイヤー)の称号を手に入れたのでした。

 よく分からないまま竜に遭遇し、よく分からないまま戦闘し、よく分からないまま吹き飛ばしたので、あまり納得はいっていません。

 そしてなぜか入り口からギルドの職員らしき人たちで花道が形成されており、そのまま進んでいくと、


「こちら紅瞳竜討伐の賞金と感謝状です!」


 いつかの受付嬢からよく分からないまま賞金と感謝状までも貰ってしまった。


「よし、飲みに行こうぜ!」


 キエンくんは相変わらずです。


 受付嬢に状況を説明したところ、私の発動していないのに突然に起きる右腕の現象は、固有スキルではなく私の持つ隠しスキルの副作用だということを教えてもらった。

 まさか隠しスキルなどと言う選ばれし者しか保有していないようなものがこんな私に……。信じられません。あっちの世界で頑張ったご褒美というわけですか、神様!

 私の隠しスキル、ソレは魔力を感じ取った時、自然と右腕に吸収され、その吸収したものを放出するといった能力であるようです。

 そのため、強い魔力の吸収に耐えられない私の右腕が振動していたようです。筋トレ後に筋肉がプルプルするようなものでしょうか。

 ただパーティーメンバーには隠しスキルが固有スキルということにしました。腕が振動するだけの固有スキルなど冗談だと思われてしまうでしょうし……。


「いやー、ヒューガすごかったな」


「驚きました」


「ああ、あんな固有スキルを持っていたとは。というか本当にいざという時に発動するなんて。てっきり大口叩いてるだけだと思ったぞ」


「ははは……」


 ここで本当の固有スキルは右腕が振動するだけだと言っても信じてもらえないだろう。

 まったくなんて紛らわしいスキルたちなんでしょうか。


「実は俺、ヒューガのこと、ただのイタい娘だと思ってたんだ」


「その……私も」


 なんとなく分かっていた。というか私の言動からおかしいヤツではないと断ずる方がおかしいと思う。

 一方、キエンくんは頭にハテナマークを浮かべながら、枝豆のようなおつまみを手にお酒を楽しんでいる。


「いきなり右腕が疼くとか言うし……」


「いやあれは……」

 

 その刹那、居酒屋の入り口から聞き覚えのある声が聞こえた。


「冒険者の皆さん!ピュートの街上空に紅瞳竜が現れました!どうか緊急クエストとしてこの街を守ってください!賞金は弾みます!」


 受付嬢は走ってきたのか大声を出した後、ぜえぜえと息を切らしていた。

 現れた紅瞳竜は多分あの赤ちゃんドラゴンの親だと思います。野生的な本能によって我が子が殺されたこと、殺した犯人(私)がここにいることがわかるのでしょう。

 やはり成長した個体なだけあって私レベルの初心者的魔力感知でもビンビン感じる。常に体から魔力を放ち続けているのだろうか。


「ヒューガのおかげでお金には困ってないが、街を守るためにやってやろう!」


「ヒューガがいれば安心です!」


「俺もできるだけ頑張る!」


 私もやってやりますよ!と言おうとした瞬間、やはりと言うべきかアレが始まった。


「あががががが」


 またか、と言いたげな顔で私を見る。しかし今回は、いつもより柔らかさを感じた。


「スキルのせいで厨二病だと思われるのは心外です!」

最後までお読みいただきありがとうございました。

もし気に入っていただいたら評価やブクマなど痕跡を残していただけると嬉しいです!

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