16話 命運に誘われし邂逅②
「……時にチカ」
「えっ」
初めてこの世界で下の名前呼びをされたことに驚いた。皆"ヒューガ"という苗字呼びなので……。
「なんだ?」
「いえ、なんでもないです」
「その右腕には何が宿っているんだ?」
「はい?」
「基本だろう?その杖では封印しきれない竜の半身か、それとも……」
シュウは私の杖を指差しながら言った。
やはりこの男は……厨二病だ!本物の厨二病だ!異世界にもこの種の人間がちゃんと実在するのだと驚きと感心の感情が交差した。
しかし……全て自分の世界に当てはめて考えるのはやめていただきたい!
「この右腕は犬にやられたんです!」
「な、なに。まさかプードル系の黒いヤツじゃ……」
「なんで分かったんです?現場にいたわけでもなさそうですが……」
シュウは顔を真っ青にするといきなり手を地につけるように屈み込み──
「いやいや、なんで土下座しようとしてるんですか!」
側から見たらどうにかまだ付き合ってくれ、と頼み込むクズ男とその彼女のように見えるかもしれず、周りの人の目線が痛いので、私が必死に土下座を止めると、
「その犬は俺の固有スキルなんだ……すまない!」
「……あの犬が?というかなぜ固有スキルを?」
犬を操る固有スキル……いいなぁ、ペット。自分たちの生活もままならないのにペットフードやらペットの医療費への余裕はなく……そもそも家は狭くてペットを飼うスペースなどなかったので羨ましい。
「ああ、日課のブラッシングをしようと召喚したんだが、アンが急に走っていってしまったんだ。それで他2匹に追いかけさせたんだが、見失ってな……結局、スキルを解除したんだ」
なるほど。それで犬がいきなり消えたのか。
「しかし……クク……ククク……これは運命だな」
「はぁ」
「アンが噛み付いたお前を俺がたまたま話しかけた……こんなことあるか?」
「アンというのはあの犬の名前でしょうが、なぜアンちゃんは私に噛み付いたので?」
「……分からん、アンは魔力感知に優れているのは確かだが」
シュウは顎に手を当て、考える仕草をした。リロちゃんによると、私の魔力の性質は隠しスキルのせいで少々変わっているらしい。もしかしたらそのせいかも?と一瞬思った。
「アンは、より強い魔力を持つヤツに挑むという性質があるが、モンスターの魔力にしか反応しないし……」
モンスターの魔力……やっぱり……。
「……多分私のスキルが関係してそうですね」
「そうなのか。チカの固有スキルはどんなものなのだ?」
「ええとですね……まあ、右腕に魔力を吸収し、放出するという……」
シュウは納得したように手をぽんと叩いた。
「それでチカにはモンスターの魔力が混じっていたということか……」
「まあそうでしょうね」
「固有スキルの名は?」
固有スキルの名前を聞くというのはこの世界だと誕生日を聞くような自然な会話だったりするのでしょうか。
「……『神のみぞ知る』です」
まあ嘘なんですが。
「なんだと?!知神の祝福を受けたスキルじゃないか!まさかこんなところにいるなんて……クク、ますます気に入ったぞ……」
「はぁ、どうも……」
嘘をつくのは心苦しいですが、『振動する右腕』だなんて言えません!
というかピュートの3人にそう言ってしまっている以上毒を食らわば皿まで、というモノです。
「アンに狙われたこと、そして神を冠するスキル持ち、どうやらお前は凄腕の魔法使いらしい」
「自分で名乗り上げるのはちょっと……」
私はまだまだ駆け出しということを自負しているつもりです。
「もしかして二つ名とかあるのか?」
「一応、親子紅瞳竜殺しと……」
シュウはまるでヒーローモノの映画を見る少年のように目をキラキラさせて私を見た。
……厨二病のくせに意外と素直なとこもあるんですね。
「こ、こほん。というかチカ、お前身なりからして王都の人間ではなさそうだが、今日の宿は決まっているのか?」
「ええ、これから探そうと……」
「じゃあケガをさせてしまったお詫びに俺の宿に泊まるといい」
俺の宿?この人が経営している宿に泊まることを許可するという意味なんでしょうか。
私があまり理解していないような顔を浮かべていると、
「俺が”泊まってる”宿。2人用の部屋だったからちょうどいい……ククク、これは本当に運命としか言いようがないな。似た魂を持つ者は惹かれ合うと言ったところか」
「……って私までも厨二病だと断定するような言い草はやめてもらおうか!というかなんであんたなんかと一緒に……」
「チカ、今お金はどのくらい持っている?」
あまり私の個人的な財政事情は見せたくありませんが断るためにはやむを得ません。日本にいた時のものであれば絶対に見せることはできませんが。
3人からもらった餞別の箱を開けると──
「これは……」
そこには私の拳4つ分ほどの1つの大きめな石が置かれ、表には〈ヒューガへ〉と書いてあった。
裏を見てみると、いきなり私が出ると宣言したために3人が突貫で描いたであろうことが分かるパーティー全員の似顔絵。みんなそれぞれ個性のある絵柄で、愛嬌があってとても可愛らしい。これを見ればどこにいても寂しくないですね……。
泣きそうです。もちろんトウロさん、キエンくん、リロちゃんの暖かい心遣いに……それと私が現在、無一文という事実に。
旅の餞別にはお金……というのは私の偏見だったようです。まあ、裕福なパーティーではなかったので仕方ないと言えば仕方ないですし……そもそも仲間から直接的にお金を受け取るというのもおかしいですもんね!
確かに箱の中からごとんごとんという金属とはかけ離れた鈍い音はしていましたし、お金にしては変な重さだなぁ、と思ってましたが!
「……」
私は涙をこらえて、ただシュウを見つめることしかできなかった。




