14話 王都の洗礼
弁が立つヒューガです。
お世話になった人たちへの挨拶もそこそこに……というのも二度と帰らないというわけではない、ということを分かって欲しかったためです。皆驚きはしていましたが、そもそもピュート出身ではないのだから、と受け容れてくれた。
私は宣言をしたその日のうちに全財産を握りしめ、馬車に飛び乗った。王都なだけあってピュートからでも直通便が通っていたのは幸いでした。
ただこの旅費のために、今までやってきたクエストの報酬の貯金のほとんどが吹き飛んでしまいました。3人からもらった餞別は大事に使いましょう……。
思い立ったら即行動してしまうという私の癖が裏目に出てしまった。もっと考えてからにすれば……いや、これで良かったんだ。考えると言って、ずるずるとそのままピュートに留まり続けてしまうかもしれません。楽しい方向に引っ張られるのは楽ですから。
修行の一環として徒歩で向かってもよかったのですが……私にそんな気力も体力もなかった。
そうして1週間ほど馬車に揺られることで目的地に到着した。
王都メルサ。ここは国の中央に位置し、東西南北を繋ぐ交通の要衝地であり、多種多様な人やモノが行き交う場所でもあります。
「大きい……」
私がこの世界に来て最初に見た街がピュートであったためか、より感動した。
ピュートも冒険者街としてそこそこ栄えていると思っていましたが、王都は異常なほどに都会的でした。
祝日でもないのに生誕祭の時のような人の数。食べ物ではだけでなくポーションや魔道具を売買している露店。青色のトンガリ帽を被ったような塔が何本か見える純白で巨大な王城。ピュートの2倍の大きさはあろうという大通り。そして大通りの奥に見える豪勢な門。
その全てが私の眼には輝いて映った。
「おう、姉ちゃん。新参者かい?」
話しかけてきたのは無精髭を生やしているのに関わらず、どこか清潔感のあるおじさんだった。
「どうして分かったんです?」
「そりゃ服装見れば分かるさ。1世代前のモノなんだから」
リロちゃんに選んでもらったこの魔法使い的衣装。それはこの街では遅れているモノらしい。
やっぱり都会は違いますね。
「何か困ったことはないかい?」
都会は色んなところから多くの人々が来ているだけあって互助の精神が根付いているのかもしれません。
困ったことですか……全く下調べもせず出てきてしまったのでメルサの地理的情報は全く分からない。とりあえずギルドがどこにあるか知っておくべきでしょう。
「ではキルドの位置を教えてもらえませんか」
「ギルドね。西区のギルドはこの大通りを突き当たって左の角さ」
「ご親切にありがとうございました」
そう言ってお辞儀をし、立ち去ろうとすると、おじさんはネギも一緒に煮込まれた鴨鍋を見るような顔で私を見た。
「お礼のつもりでさ、ウチでなんか買っていってよ。姉ちゃん冒険者だろう?きっとウチの商品は役に立つぜ」
いきなり話しかけてきて、なんなんだこのおじさんは、と最初は思いましたが……なるほど。商人でしたか。都会でもモノを売るチャンスは待つのではなく、迎えに行くというのが常套らしい。
まさに商人魂といったところでしょうか。
「そうですね。折角ですし、何か買っていきましょうか」
「おう!太っ腹だねぇ!そんな粋な姉ちゃんにはサービスするぜ!」
そうして私はおじさんの店に案内された。
「どうだ?すごいだろう?」
大通りから外れた小さな横道におじさんの店はひっそりと佇んでいた。
店の棚は色んな種類ポーションで埋め尽くされている。ポーションの色がグラデーションのように並べられていることからおじさんの几帳面さがうかがえます。
「俺はメルサを拠点とする貿易商でな。各地から面白いポーションを買い集めているんだ」
「私あまりポーションに造詣が深くないので、何かオススメなどあったりしますか?」
「そうだなぁ、これなんてどうだ?」
おじさんは棚からオレンジ色のポーションを取り出し、私に手渡した。
「冒険者といえば、魔法の威力を上げるポーションだろう!」
ラベルには〈爆発力こそ正義〉と書かれている。
服用してから1番最初に放つ魔法をその人の魔力総量に応じて数倍にまで跳ね上げる……ですか。私にぴったりだと思いますね。
「おお!いいですね。それは買います!」
「気に入ってもらってよかったよ。よし、じゃあサービスとしてもう1本選んでくれたらそのうちの1本無料にしてあげよう!」
「え、ありがとうございます!」
そうして私は棚中のポーションの吟味を開始した。
色や見た目だけでは分からないのでラベルもしっかり見て、効用を確認しましょう。
「いっぱいあって迷いますね……」
「ゆっくり決めてくれ」
魔法の威力倍増系のポーションを見たいと思い、さっきの〈爆発力こそ正義〉なるポーションが置いてあった近くの場所を見ると、
「これは……なんでしょう」
ポーションが置いてあった後ろにラベルの張られていないポーションがあった。
色は〈爆発力こそ正義〉に少し似ていますが、こちらの方が濃い色であり、燃え盛る炎のような色をしている。
またフタには変な模様が描かれている。お弁当に入っている葉っぱ状のシートのような手書き感満載なナニカだ。そしてその模様の彫りもこれまた雑な仕事である。削ったまんまでやすりがけはされておらずにざらざらで、細かい削りカスが残ってしまっている。
とてもお店に置いていい商品のようには思えない。
「どれだ?」
おじさんはその謎のポーションを手に取り、前後させてみたり、上下に振ってみたり、他のポーションと照合してみたものの……。
「分からん。この変な模様のフタも見たことないし……威力倍増系のポーションだとは思うが……こんなモノ、俺が仕入れるはずがないんだが……」
「そんなの置かれてていいのですか?」
「ダメだな。法律上売れない」
その時、私に悪魔的閃きが起こった。
「じゃあそれにします」
「だから売れないんだって」
「おじさんは”もう1本選んでくれたらそのうちの1本を無料”と言いました」
「ほう」
「なので私はこのラベルなしポーションを選びます。そしてソレは法律上売ることが出来ないのでお金を払うことはできません。ということは〈爆発力こそ正義〉は無料になるでしょう?」
おじさんは、まるで鴨だと思って食べたのがワニであったかのようにあっけらかんとしている。
我ながらなんて屁理屈なんだ、と思います。
数秒、間が空いた後おじさんは頭をぽりぽりと掻いて少し笑い、
「面白い。俺が儲けるつもりが姉ちゃんにやられちまったな」
おじさんは2つのポーションを手渡してくれた。
「これからもこの街で頑張ってくれよ。餞別……ってワケでもないが」
「ありがとうございます」
私はそれだけ言って早々と店を出ようとすると、
「姉ちゃん!名前は?」
私はドアの前に立ち止まり、杖を前に突き出して名乗りを上げた。
「ヒューガ・チカ……親子紅瞳竜のヒューガ・チカです!」




