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12話 魔法使いたちの夜宴⑤

とりあえずこれで第1章は終わります。ここまで読んでくださった方、ありがとうございました。

 生誕祭の夜。


「ぐ、ぐぇぇ」


「思ったより距離があったな」


「初めての登山でしたが、これは……」


 3人は何百年も生きた仙人のように前のめりに、腰を折り曲げてしまっていた。

 高さはせいぜい600mか700mほどだと甘く見ていましたが、登頂まで1時間半近くかかってしまいました。三平方の定理という存在を考えれば、理解はできますが……もうちょっと居たいと駄々をこね、屋台にしがみつくリロちゃんとキエンくんの2人をトウロさんと無理やり引きはがして、早めに切り上げてきて良かった……。

 山頂は柵で覆われていて1ヵ所からしか出入りができなくなっている。

 祭りの時だけこうなっているのか分かりませんが、ここら辺で1番高い山だけあって富士山のように神聖視され、信仰されていたりしそうなので通常時もこうなっていたとしても別に驚きはありません。

 出入口の前には門番らしき人がいて、


「止まれ!貴様ら、魔法使いか?」


 槍を門の前に突き出してそう言った。

 まさか話がここまで届いていないんじゃないかと一瞬疑いましたが、仕事ができそうなクーケ氏に限ってそんなことはないでしょう、と思い直した。


「ヒューガ・チカと言います。統括責任者のクーケ氏に……」


「おっと、これは失礼いたしました。ヒューガ様御一行でしたか。話は聞いております」


 魔法使いと呼ばれるに至る魔力を感知できなかったため、飛び入りでやってきた頭のおかしな集団だと思われたのだろうか。この世界では名前がどれだけ知られようとも、スマホがなければカメラもなく、顔が広がる術は指名手配犯になって似顔絵を描かれるくらいしかないので仕方がない。


「こちらへどうぞ。準備もしてあります」


 案内されて中に入ると、老若男女、様々な人が入り乱れていた。何か準備運動のように体を動かしている人もいれば、座り込んで目を瞑っている人もいる、かと思えば楽しそうに談笑している人たちもいる。十人十色である。


「あれ?リロたちじゃないか!」


 その声は──


「ゲッカさん?!なぜ?!」


「なんか身体のデカい人にスカウトされてさー?」


 クーケ氏のことでしょう。確かにゲッカさんもリロちゃんと同じように魔力総量が多いそうなので、ここに呼ばれるのは不思議ではありません。


「いつもゲッカ姐は参加してたんですか?」


「いーや?初めてだよ」


 20回という節目なのでより多くの”魔法使い”を集めたというわけでしょうか。というか魔法使いを集めて何をするのだろう。篝火の周りで踊るとかでしょうか。みんな初参加なので何も分かりませんが……楽しいお祭りになるといいですね。


「てか、2人とも魔法使い?じゃないよね」


 ゲッカさんはピースサインを地面と平行にし、トウロさんとキエンくんを指した。


「俺たちは特別来賓として招待された」


「特別?!なにそれ!なんかすんの?」


「ふふふ……見てからのお楽しみですよ!」


 こういうのは知らなければ知らないほど驚きと感動があるのですから!



「魔法使い諸君!この度は集まってもらったこと感謝する!我輩がピュート行政局副局長兼生誕祭統括責任者、トシュ・クーケであーる!」


 周りがクーケ氏の言葉に、大きな声で「わー!」とか「やー!」だとか応答しているので私もそれに倣う。


「今回!篝火を炊く前に20回目という節目にふさわしい催しをさせてほしいと提案があった!ヒューガ・チカ!」


 いきなり私の名前が呼ばれて驚いた。

 周りがザワザワし始める。それもそのはずで、私はこの街でちょっとした有名人なのでした!


「はい!」


 群衆の中から杖を高く翳すと、自然とクーケ氏のもとへと道ができた。

 そして人々の前に出て、振り返り、


「どうも!私がヒューガ・チカです!」


 ザワザワが大きくなった。あ、あれ?私なんかヘンなこと言いました?


「噂は本当だったんだな……」


「あんな小娘が親子(ファミリー)紅瞳竜殺し(ドラゴンスレイヤー)と……」


「まあ天才ほど変人って言うし……」


「たまに右腕が疼くらしいぞ……」


 そんな声が聞こえてきた。

 祭りの熱気のせいでぼんやりとしてしまっていて失念していた。そうだ、この杖も……。


「かっかっか!それがヒューガのよそ行き用の杖であるか?」


「ええ、まあ……」


 神様!なぜ私を厨二病だと思わせたいんですか!そんなモノは私にとってこの上なく縁遠いのに!



「ではリロちゃん、この玉を紅瞳竜の卵回収の時みたいに空中に浮かせてください。できるだけ高めでお願いします」


「分かりました!」


「その玉はなんだい?」


 ゲッカさんが指差す。玉ねぎの皮のような色をしていて、私の顔3つ分ぐらいの大きさがあるソレは、ずばり花火玉である。行政局に赴いたとき、クーケ氏にお願いした。

 この街を運営している人から突然として見たこともない触ったこともない未知のモノを作れ、と命じられた火薬師はさぞ戦慄したでしょう。心中お察しします。


「見ればわかりますって」


「ところで俺は何をすればいいんだ?」


「トウロさんは……今はないので、またお願いします」


「……分かった」


「それではショータイムです!」


 私の合図でリロちゃんは玉を浮遊させた。


「こ、ここが限界です!」


 玉が枝豆1粒くらいの大きさになった。このくらいの高さがあれば火種が地につく前に燃え尽きるでしょうし、なにより……王女様に見てもらえることができるでしょう。


「充分です!キエンくん!」


「おうよ!『龍爆焔(ドラゴニック・バーン)』!!」


 龍の形を為した炎がゆるりゆるりと浮いている玉に向かっていき──


どどどーん


 とぶつかった途端に爆裂し、耳を(つんざ)くような音が響いた。

 皆、突然のその音に驚き、一斉に肩をすくめ、音のした方に振り向くと、


「な、なんじゃあれ!」


「すごい綺麗だぞ……」


「ヒューガ……おもしれー女」


 怖がりつつも、次々と感嘆の声を漏らしていた。一方、私のパーティーメンバーはというと……。


「何してるんですか……」


 リロちゃんとキエンくんは地面に伏せて花火も見ずにうずくまっていて、トウロさんは私を盾にするように後ろでしがみついていた。


「安全ですよ!折角なんだから見てくださいよ!」


 私が空を仰ぐことを促すと、3人は恐る恐るといった様子で、


「す、すげえ!あれ、俺がやったんだよな?!」

 

「爆発するとは聞いていましたが、ここまでとは思わず、恥ずかしいです……空に花が咲いているようでとても美しいですね……」


「すごい迫力だな……」


 夜空はコスモスのような淡いピンクに包まれている。

 そういえば花火なんて真下から見たことなかったな……。

 貴重な体験ができました。花火大会では何万発も連続で打つように、本当はもっと打ちたかったのですが、初めての試みかつ私が新参者で信頼されていないということもあり……。

 王女様も楽しんでいただけたのでしょうか。

 するとどこからともなくゲッカさんが駆け寄ってきて、


「ねえねえ!アレがヒューガの提案したってやつ?」


 私は誇らしげに、


「そうです!私の故郷の祭りの鉄板でして!」


「大きな音が鳴ってびっくりしたけどすごかったよ。あんなもの見たことがなかった!」


「来年もやるんだろう?」


「来年……そうですね!」


「次はもっといっぱいやってほしいよ」


 私の影に大きな影が重なったと思うと、まもなくして肩がガツンと叩かれた。


「ふぁっ?!」


「かっかっか!ヒューガの考えていたモノと同じであったか?」


 後ろからそう問いかけるのはクーケ氏だった。


「え、ええ!ええ!もちろん!まったく同じでしたよ!私の拙い説明であんなに再現できるなんて!」


「それはよかった。あれを作った火薬師もさぞ喜んでいるであろうな!」


 空を見上げて笑顔であったクーケ氏は現実に戻るように仕事用の顔になると、その場の空気が一瞬にして変わったように感じた。


「それではこれより篝火を始める!用意!」


 その号令により、クーケ氏の部下であろう人たちがえっちらおっちら角材を運んできた。篝火用でしょう。


「『風の手(ウィンド・ハンド)』!!」


 クーケ氏がそう唱えると、その角材たちは軍隊の集団行動のように規則正しく次々と組み上げられていった。


「ヒューガ、貴殿の仲間の炎系の固有スキルを持つ者に要請するのだ。あの木材に火をつけろ、と」


 断る理由もないので、


「キエンくん、あれに火をつけちゃってください」


「え?いいの?」


「クーケ氏からの要請です」


「わ、わかった。『龍爆焔(ドラゴニック・バーン)』!!」


 すると木材はたちまち、燃え上がり、天へと昇っていった。異常なほどの勢いの火柱からただの木材ではないことがうかがえます。


「それでは諸君!」


 魔法使いたちはぞろぞろと篝火を囲むように集まっていった。一体何が始まるというんでしょうか……。


「開始!」


 すると皆、篝火に向けて両手を翳し始めた。何か悪魔召喚や黒魔術などのおかしな儀式でも起こりそうな風体ですが……。


「な、なんだ?」


 私たちは何がどうなっているのか分からず、ただ呆然と案山子(かかし)のごとく突っ立っている。

 あ、篝火に魔力が募っていくのが分かります……。


「なにを突っ立っておるのだ!貴殿らも参加せよ」


「我々、初参加でして……」


「あの篝火に魔力を込める、ただそれだけである」


 曰く、この篝火を明日の日の出頃まで燃やし続けるため、薪ではなく、魔力を使うらしい。なるほど。篝火が始まるとなった時に空気が変わったのは、このためでしょうか。これからたくさんの魔力を消費させられるわけですからね。

 そして魔法使いが招集されたのは普通の人より魔力の多い私たちを人柱とするため……。

 篝火に集まっていく強大な魔力で右腕が……。


「うずっ、疼きます!」


 周りの視線が私に集まる。イタい娘を見るような、そんな目で私を見るな。


「やっぱりそういう……」


「ああ、ヒューガは……」


 抑えきれない衝動。右腕の魔力を握っている杖に集中させる。

 そして私は杖を空に突き上げ、解放した。


「王女様あああああ、たたたたた誕生日おめでとうございまあああああす!」


 空中で魔力の塊が炸裂した。ソレは八方に散らばり、まるで流星群のように流れていった。

 我ながらすごい威力です。最初期、つまり紅瞳竜の時を思い出させるようなものです。

 ふと3人の顔を見ると、


「ヤバい威力だ!」


「やっぱりヒューガの魔法はすごいですね」


「ヒューガのおかげで……俺たちはここまで来れたんだ」


 願いを込めるような、感慨に浸っているような顔をしてそう言っていた。

 この世界に来てからずいぶん経った。といってもソレは日本にいた時間の10分の1にも満たない。しかしなぜなのだろうか、私はたまに今までずっとこの世界で生きていたんじゃないか、と思ってしまうことがある。それほどに充実し、愉快で濃密な時間を過ごしてきたということの表れなのだろう。それもこれもヘンテコなスキル、珍妙な世界、そしてここにいる仲間たちのおかげだ。

 日本にいた頃は、義務に縛られて生きていた。長女なのだから我慢しなければならない、生きていくために働かなければならない、会社がブラックでも辞めてはならない、そして私が働かなければ家族を養えない、というように。

 そんな枷が外れて私は……。


「ヒューガ」


 トウロさんの声で3人は私の方に向き直した。


「は、はい!」


「これからもよろしく頼む」


「私もヒューガを全力でサポートします!」


「頼りにしてるぞ。ヒューガ!」


 異世界に飛ばされ、家族のことを考えるのも少なくなった。

 毎日のように会っていたあの嫌いな上司の顔でさえ、今はモヤがかかっているようによく思い出せません。私は不埒な女だ。

 それでも……これからもこの異世界で生きていくのだろう。



「はぁ、はぁ」


 まだかろうじて立つことができているのは私含め5人ほど。それ以外は……地に伏せて息を荒げていたり、泥のように眠っていたりする。

 キエンくんは何回も固有魔法を使って魔力切れに、リロちゃんはずっと魔力を送っていたため疲労困憊、魔法使いでないトウロさんも限界まで魔力を絞り出し、眠ってしまっている。ゲッカさんはただ単に眠いからという理由で1番最初に寝てしまっていた。


「ヒューガ!なかなかやるではないか!」


 立っていた1人、クーケ氏は私の方にやってきた。この人は休憩もせず、ずっと仁王立ちで魔力を送り続けていた。こんな見た目でもしっかり魔法使いということが分かって驚いた。


「はは……」


 なぜ体力のない私が立っていることができるのかというと、吸い取った魔力をそのまま小出しに放出していたためで、まるで風情も何もない鹿威しのようなモノです。

 まあ流石に立ち続けるのは疲れましたが……。


「よし、今回も大成功と言えるだろう!」


 クーケ氏は二日酔いの覚束(おぼつか)ない足取りのようにゆらゆらとなっている、小さくなってしまった火を見て言った。


「来年も必ず成功させる。ヒューガ、貴殿の提案素晴らしかった。これからはアレもこの街の伝統となるだろう」


「それは……嬉しい限りです」


 クーケ氏は私に大きな背中を見せながら、


「来年もよろしく頼もう」


 来年……。私はいつまでこの世界にいるのだろう。後の人生をもここで過ごすのだろうか。リロちゃんの言う通り、どこか長閑な場所に隠居して4人で農業でもしたり……それもいいかもしれません。

 とりあえず今を楽しもう。あの頃捨ててしまった青春というモノを1つ1つ拾い上げるように、今できることを全力で。

 家族の事も仕事の事も色々気になることはあるけれど、ここじゃ何も干渉はできませんから。

 それにこれが夢ならばいつか覚める時が来るだろうから……またその時に考えよう。

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