11話 魔法使いたちの夜宴④
「良かったな、ヒューガ!杖、作ってもらえて!」
キエンくんは目をキラキラとさせて、まるで新しいオモチャをもらった子犬のように杖を興味津々として見ている。
どうやらキエンくんとシンさんはセンスが似ているようです。
「うん……いいと思うぞ」
「……紅瞳竜を倒した功績が存分に伝わってくる……いい作品です……ね」
「ははは……」
苦笑いするしかありません。
こんなモノ……というのは頑張って作ってくれたシンさんに失礼ですが、持ち歩くのは少し気が引けます。この世界のメガネ事情も相まって余計におかしなヤツだと思われそうなので……。
「……さて、今日が生誕祭なわけだが……本当に俺らも篝火に参加していいのか?」
「そうだぞ!俺ら魔法使いじゃないんだぞ!」
「そこは話をつけてきました。ね?リロちゃん?」
「ええ、意外にすんなりいってびっくりしましたが……」
私は生誕祭の責任者のところへ赴き、花火の提案をした時のことを思い出した──
「我輩が!ピュート行政局副局長そして生誕祭統括責任者トシュ・クーケである!貴殿ら何用でここに来た?」
行政局の受付でかくかくしかじかの理由で責任者と面会をしたい旨を話すと、5分と経たずに、決して魔法使いとは思えない、まるで歴戦の軍人あるいは鬼教官のような筋骨隆々な男性が出てきた。髪はきっちりとセットされた七三分けで、ポマードのせいでてかてかとしている。
私はアポイントメントをとらずとも会えてしまうことに若干の驚きを持ちながら、
「生誕祭に関して、て、提案がありまして!」
「お、貴殿があのヒューガであるか!噂はかねがね聞いておる!為政者として礼を述べさせてもらおう!紅瞳竜の魔の手からピュートを救っていただき感謝する!」
クーケ氏は90度、腰を綺麗に深々と折り曲げてお辞儀をした。
なるほど。こんな偉い人に会えたのは紅瞳竜を倒したという実績があったからなのか。いや、そもそも紅瞳竜を倒していなかったらここにもいないわけで……。
「それで提案というのはなんだ!」
「王女様の20回目という節目のお祝いにいつもと違った派手な催しをしませんか!」
「具体的に言ってみるがいい!」
「それは──」
クーケ氏は私の花火についての説明を聞くと、背をのけぞらせ、天を仰ぐようにからからと笑い出し、
「面白い!許可するとも!ただし成功させることが条件だ!いいな?」
「もちろんです!ありがとうございます!つきましては……」
というわけでトウロさんとキエンくんは、花火を上げるためのスタッフとして特別に招待されることが決まった。
「でも、うまく行きますかね……」
「大丈夫です!」
口ではそういうものの、朧げな知識と初めての挑戦ということで不安があります。
花火なんて見たことは何度もあっても無論作ったことなどない。作ろうと思ったこともない。無意識的ではあるが、なんらかの法律に引っかかるということが分かっていたからなのだろう。
花火の知識と言っても、中学生の時にやった炎色反応と本で読んだちょっとした雑学程度だ。中学校の理科の先生は、理系でありながら珍しくも熱血な人で色んなことを語呂合わせで生徒たちに覚えさせようと画策していた。そのせいでまだ頭の片隅に炎色反応の語呂合わせが残ってしまっている。
うまく行くかな?と最初から疑問符をつけているようじゃダメですね。皆を楽しませるため、ひいては王女様に喜んでいただくため!
「屋台だー!」
私たちはいつもより早く起きて、街へ繰り出すと既に日常とは変わった風景が広がっていた。
昨日は全く屋台の気配などなかったのにも関わらず、大通りにあった露店がここまで侵略してきたかのように、まるで張られた水に1滴のインクを垂らしたように、そこら中に屋台が広がっていた。
人も今まで見たことのないくらいの数で、ギルドで見たことのある顔があれば、全く見たこともないような人もいて、この祭りは多くの人から親しまれていることが分かる。
屋台で使われているスパイスの匂い、タレが焦げている匂い、人々が密集していることによる醸し出される特有のなんとも言えない匂い……。
うーん!これでこそ祭りです!
「それでは夜になるまでまずは楽しみましょうか!」
「行くぞー!」
リロちゃんとキエンくんを先鋒に、私とトウロさんが殿をつとめるように歩を進めた。
「2人とも楽しそうだな」
この感じ、どこかデジャヴを感じる……。
というかこうしてトウロさんと2人で肩を並べて歩くというのは、何気に初めてではなかろうか。
「お祭りですからね」
トウロさんは忙しそうに屋台を巡り、代わる代わる何かを手にしている2人を見て、微笑んでいる。
「トウロさんって」
「なんだ?」
「リロちゃんのことどう思ってるんですか?」
「急だな……。どうって聞かれても……」
こういうことを聞けるのは今しかないと思いました!2人きり……というのは語弊がありますが、こんな状況は滅多にありませんからね。
恋のキューピッドになるつもりはありませんが、気になってしまうものは仕方がありません。野次馬根性と言いますか、恋愛や交友とは無縁の人生を送ってきたためか、知人や友人の恋愛には少し興味があるのです。
そういえば、弟に彼女ができたと言われた時、根掘り葉掘り聞いてしまって、姉ちゃんウザい、と言われたことがありましたっけ……。
「そうだな……昔からずっと一緒に暮らしてきて……いっぱい遊んで……色んな秘密も教えあって……」
おお!おお!ということは?!
「まあ妹みたいなものだな」
……聞かなかったことにしましょう。やはり人生には知らない方がいいこともあるようです。
うーん、もし私の弟が求愛してきたら正気に戻るまで殴り続けますが、妹というのはまた別物でしょう。妹と思われていても愛さえあれば関係ありませんよ!継続は力なり!ちりも積もればなんとやら!いつかは実を結ぶはずです!なので頑張ってください、リロちゃん!
「買っておきました。一緒に食べましょう?」
心の中で呼びかけたはずですが、もしかしたら無意識に口に出てしまっていたのかと思うほど急にリロちゃんが目の前に現れてびっくりしました。
そんな勝手に驚いている私にキョトンとしつつ、リロちゃんは串焼きを手渡してきた。
一方、キエンくんは先へ先へと進んでいて、既に串焼きはただの鋭い木の棒と化していた。
「あ、ありがとうございます」
トウロさんは串焼きにかぶりつきながら、
「これ全部同じ味か?」
「2人のはタレで私たちのは塩です」
「そっちも食べさせて」
トウロさんはリロちゃんの了承も得ず、塩の方にかぶりつく。
「うん、酒が欲しくなるな」
「今日は篝火があるので止めておきましょう」
リロちゃんは私の方を見て、首を傾げながらにこりと笑った。
こんなにカップルみたいなのに……実に歯痒い気持ちです。




