10話 魔法使いたちの夜宴③
王女様の生誕祭まであと1週間。杖は大体3日か4日でできるらしいので十分間に合いそうです。
ただ魔法使いとしてのドレスコード、ソレはクリアしたものの、肝心の''皆で参加する"という課題がまだ解決していない。何かいい方法は……。
祭り……と言えば夏なんですが、他には──
「花火ですよ!ファイヤワーク!」
日本における祭りのメインイベントたる花火を忘れていました!
「はなび?ふぁいやわーく?ソレはなんですか?」
「篝火を炊くのは王女様へのお祝いの気持ちなんですよね?」
私は突然の素晴らしい思いつきにより、リロちゃんに詰めかけるような姿勢になってしまった。
「え、ええ……」
「今回は20回目という節目!是非とも派手にやりましょう!……やりましょう!」
「は、はぁ……」
リロちゃんは出会ったばかりの時の私の新鮮な厨二病的行動を見るような、今となっては懐かしささえ覚えてしまう後退りをした。
「それで、はなびというのは?」
「説明しましょう──」
私は花火とはどういうモノなのかをリロちゃんにプレゼンした。
「なるほど。それで2人を特別来賓として招待という形で……確かにあそこまでの火力は固有スキルでないと出せませんが……」
「そうでしょう!そうでしょう!」
「でもトウロは……?」
「私たちのリーダーということで!」
別に他の役割が見つからないと言うわけではありません!
生誕祭前日。
「にしても遅いですね、杖」
「間に合うでしょうか……」
とその刹那。私たちの部屋の窓をこつんこつんと叩く音が聞こえた。
ここは2階ですよ?!なんですか?!モンスターですか?!それとも幽霊?!
「あ、もしかして」
リロちゃんが窓の方へとことこと歩いていき、カーテンを開くと眩しい陽光が入ってくると共に、逆光のせいで見えにくいものの、何かが羽ばたいているのが分かった。
「やっぱりシンさんのとこのクルッポーさんでしたか」
そこにいたのは白い鳩らしき鳥だった。
クルッポーなる鳥は窓が開けられると、まるで目的地として設定していたかのようにリロちゃんの肩へと止まり、クチバシに咥えた小さな紙切れを差し出してきた。
「どうもです、クルッポーさん……ふむふむ、どうやら杖が完成したみたいです」
「……まずクルッポーさんとは?」
「クルッポーさんは魔力の感知に優れている生物でして、その性質のおかげである特定の人に対してのみ連絡することができるんです」
「魔力の性質って人それぞれそんなに違うモノなんですか?」
リロちゃんはまるで摩天楼のそびえる大都会でカモシカを発見したような顔をして、
「当たり前です!こんなものは基礎中の基礎中の基礎なんですが……」
ソレは受付嬢にさえも教えてもらえない、本当にどこの誰でも知っているであろうという暗黙的な常識なのだろう。
「魔力の性質。属性と言い換えられることもあります。それは固有スキルとも密接に関連しています。キエンを例えにすると、キエンは炎の性質の魔力を持っています。そのために固有スキルはあんな感じなんです。しかし……なぜか炎系の基礎魔法でさえ習得できず……」
「うーんと、固有スキルよりも先に魔力の属性が身体に備わっているということですか?」
鶏が先か卵が先かというような問題です。
「明確に判っているわけではなく、あくまで強い繋がりがあるということだけです」
「それでは自分に備わっている属性に応じた魔法でないと使えないというわけですか?」
「それは違うんです。良い例にトウロがいますね。トウロは風属性なのですが、炎系の基礎魔法も使えます。つまり魔力の性質が魔法の系統と合っていれば得意、合っていなければ不得意、とそんなところです」
硬水は含有しているカルシウムのせいでお米が固くなってしまうために炊飯には向かないものの、別に使えないことはないのと同じような感じでしょう。
「私も属性とやらを知りたいです!」
「普通は生まれた時から自覚しているものなんですがね……まあいいでしょう。調べてあげますよ」
「ギルドの受付嬢に言えば分かりますか?」
「いえ、私が調べましょう」
するとリロちゃんは両掌を私の前に翳し、目を瞑ると、
「このように集中して魔力感知をすればその人の属性も分かるんです……見える、見える、見えてきました!ヒューガの属性は……」
「私の属性は……?」
「私と同じ大地……ですね」
これからは大地系の魔法を一生懸命覚えることとしましょうかね──
「いや、ちょっと待ってください!あれ?あれ?」
「どげんしたとですか?!」
「大地、風、炎、水……次々と移り変わっています!」
「なぜ?!」
リロちゃんのぴしっと前に突き出ていた両手はまるで太極拳をしているかのように位置が定まらなくなってしまっていた。
小声で「こんなことありえない」、「見たことないよぉ」などと言って、まさにオロオロといった擬音が似合うような姿になっていましたが、やがて冷静さを取り戻し、
「……規格外のヒューガですからね。そんなこともあるのでしょう」
魔力の性質が1つでないのは私のスキルのせいで間違いないでしょう。今まで色んな魔力をこの右腕に吸収してきたのですからね。
でも、ということは……。
「もしかしてこれって固有スキルに魔力の性質が引っ張られるという証左なのでは……?」
リロちゃんは数秒、間を空けた後ハッとした顔になり、
「……とりあえず、シンさんのところへ杖を受け取りに行きましょう」
この世界を揺るがしかねない、新たな常識が今ここに誕生するかもしれない。しかしそんな奥深い部分へ入っていってしまってもいいのか、と葛藤した結果なのだろう。
「来ましたよー」
私たちが入ると、今か今かと腕を組み、待ち構えていたシンさんがいた。
「来たか。遅くなってすまんな。でも最高傑作が出来たで」
そう言うと、興奮により強く踏み締めたためなのか老朽化が原因なのか、床をギシギシと言わせながら奥から背中に杖を隠して持ってきた。
「これや!今までで1番性能もデザインもこだわった逸品や!」
「「……」」
私たちは絶句した。
「これが私の……」
その杖の魔力が放出される部分は、竜が象られていて、眼はもちろんと言うべきか紅くなっている。そして地面につく部分までに螺旋状にとぐろが巻かれていて、精巧に彫刻されている鱗のせいもあって今にも動きそうです。こんな工芸品のようなモノを6日間で……。
紅瞳竜を模したのは良く分かります。分かるんですが、これじゃあ……。
厨二病みたいじゃないですか!
「ほれ!持ってけ持ってけ!」
杖が私の腕に押し付けられる。
リロちゃんは呆然としてその場に固まっている。
まあ折角作ってくれたモノですし、受け取らないのは無礼でしょうか……。
「……ありがとうございます」
「ええってええって!ソイツもヒューガみたいな強者に使ってもらえて喜んでると思うで?」
「そうでしょうか……?」
「そうともそうとも!」
感覚的にはドラゴン柄の裁縫セットのような感じです……。
厨二病という名の城の外堀は勝手かつ不本意ながらどんどん埋まっていってしまっている……。




