進展;この世界の常識
ここは、アイテラガ国リーエレ町の北側にある食堂。そこには総助の姿があった。
「今日はこれで店じまいだな」
総助は「開店中」となっているプレートを「本日閉店」に変え、店に戻っていく。
「アガイさんも家に戻ったし、これで準備は整った」
そう怪しげに言うと厨房から3人の影が。
「角居、これからやるっていうのか情報交換を」
出てきたのは、須流真と、サリそれからラスレだった。相変わらずラスレは緑のマントを羽織って、顔を隠していた。
「私、今日かなり疲れたので話し合いは3人でやってください。おやすみなさい」
サリは眠たそうに眼をこすりながら、ケイヤの宿に戻っていった。
その後、扉がガチャっと空いた
「角居君、情報交換に来たよ。」
そう言って入ってきたのは、救代だった。
「いつ呼んだんだ、この女」
須流真は、救代をじっと睨んだ。
「昼間にちょっとだけ話してな、実は俺と、この救代ちゃんは別の世界から来たんだ」
「どういうことだい?」
とラスレは理解が追い付いていない様子だった。しかし
「だから何だ」
と須流真は言う。
「何って別の世界だぞ、俺たちが住んでいたところはオフィスビルっていうでかいのが立っててな....」
須流真はイライラしながら言った。
「俺も日本から来たんだッ、それくらい察せないのかお前は」
総助は驚いてしばらく固まってしまった。
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「気を取り直して、ラスレ、俺達三人にこの世界のこと教えてくれ」
三人がラスレの方を向くと、ラスレはフードを脱ぎ、気まずそうな顔をあらわにした。
「じゃあまずこの世界は西暦何年だ?」
そう総助が聞くとラスレは少しため息をついた後こう言った。
「本当に何も知らないんだね、別の世界とかは、まだわからないけど僕の知るこの世界のことをできるだけ説明してみるよ」
「今年は新聖暦998年で、呻の節10日目だね」
総助達はわかってない顔をした。
「その新聖暦ってのと、なんちゃらの節ってなんだ?」
「新聖暦っていうのは今からおよそ千年前、その頃の世界はまさしく乱世だったらしいんだ。でもそんな戦いを終わらせ、国を作った5大英雄たちが法王国とある契りを交わして、それから始まる新たな時代の幕開けとしての象徴が新聖暦だったんだ」
「1000年そんな膨大な...」
須流真は、少し小ばかにしていた態度を変えた。
「それと、君たちの世界でどうだったか知らないけどこの世界は1年12節なんだ。」
「それは私たちも同じだったわ」
ラスレは少し驚いた顔をしたが、変わらず話し続けた。
「一年の始まりの節、〈孳尾の節〉。あらゆる思いを結ぶ節、〈紐帯の節〉。春が迫ってくることを表す、〈螾の節〉。春の訪れの豊かさ感じる節、〈茂りの節〉。草木が成長するように自身の向上を願う節、〈振興の節〉。一旦の節目とその後に来る夏まで備える節、〈已下の節〉。夏の季節や植物の終わりを表す、〈忤の節〉。果実などの実りが出てくることや秋の到来を表す、〈昧旦の節〉。果実が熟すように一年の頑張りが報われることを願う節、〈呻の節〉。一年で最も豊かな節、〈緧の節〉。植物が枯果て秋の終わりを感じる節、〈滅色の節〉。植物が種を残すように来年に向けた最後の準備をする節、〈閡の節〉。っていう、12の節があるんだ。そして今は呻の節10日目」
「何となくはわかった、最後に一番聞きたかったことに答えてくれ」
総助は真剣な顔でそう言うと、ラスレは何となく聞きたいことがわかっていたのか、総助の言いたいことを先に口にした。
「モロクショのことでしょ、モロクショはね神の力を借りられる力なんだ」
ラスレは続ける
「この世界を創造した数多の神は人々を救うため、そしてより発展するために自分たちに力を貸したんだ。日の出ている間なら僕たち地上のものたちは、自身の技量に合った様々な力を使えるんだ。例えば水の神の力を使って水を出したり見たいなね、でも一つ注意がある太陽が沈みきり夜が来ると好きに使えなくなって、申請詠唱をしなくちゃならないんだ」
「しんせいえいしょう?」
そう救代が分からなそうにしていると、須流真が口を開いた。
「つまり物語などである、魔法のようなものだろう。日の光がないと詠唱をしなければならないという点が引っかかるが」
「申請詠唱は、特定の神に力を使ってもいいか聞くことだからね。日がないと神様も見ていないのさ」
「無視をして、夜に力を使うとどうなるんだ?」
須流真は何か試しているかのように、ラスレに聞いた。
「夜に力を勝手に使ったものは、使うたびに魔物に近づくらしいよ。実際魔人になった人だっていたらしいし、だから法王国は安全のため約1000年前の新聖暦誕生の際、夜に無詠唱でモロクショを使うことを禁じたんだ」
「聞きたいことはこれで全部かな?自分の中の常識を説明するなんて、中々変な気分だよ」
「ありがとうラスレまた明日な」
様々な情報が手に入ったが、つまるところ魔法がある世界に俺たちは転移させられたってことだ。
別の世界ってどう帰ったらいいんだ。
そう考えながら須流真たちと別れケイヤさんの宿に戻った。
宿の扉を開けると、そこにはケイヤではなくスウリクルメがいた。
「やあ!角居総助君元気そうで良かったよ」
スウリクルメは、明るくそう言った。
「クルメ、今までどこ行ってたんだ心配したぞ」
「そろそろ忠告が必要かなって」
スウリクルメは、怪しげな顔をした。
「忠告?どういうことだ?」
「ズバリ、サリという獣人との関係はそろそろ断つべきだと思うけど...」
「何言ってんだ、サリと明日もデメテールで働いて日銭を稼ぐ。いわば仕事仲間だぞ、関係なんて断てるわけないだろ」
そう明るく総助が言うと、スウリクルメは首を傾げた。
「もしかして君は、あの獣人の弟の行方を知らないのかい?」
「クルメは知ってるのか!」
「彼は死んだ。」
その言葉を聞いた瞬間、総助の顔は固まった。
「憶えてないかい?君がこの世界で初めて戦った敵、犬っぽかっただろ」
「まさか」
「そのまさかさ、君が彼女の弟斃した」
「そんな...そんなわけないだろ?」
「それじゃあ、君が彼女と出会ったとき、彼女は君を弟と勘違いした。おそらくだが浴びた血が濃かったのだろう、彼女鼻が利くようだからね」
改めて考えてみるとつながってしまう、直前でケイヤさんの奥さんが言った「魔物」っていう発言、犬のような見た目。
「そこまで落ち込むことじゃないと思うけどね、事実君は人を助けたんだ後ろめたいものなんてないと思うけど」
そうスウリクルメは淡々という。
謝らなきゃ、今すぐにでもサリに...
総助は焦り宿の中を探そうとした、するとそこでケイヤに会った。
「どうしたソウスケ?」
「ケイヤさんサリの部屋ってどこですか?」
「サリなら帰ってないぞ、あいつ確かに今日は遅いな」
総助は宿を飛び出し、あたりを探し回った。
「居ない...ここは」
総助は無意識に、サリの弟を屠ったギルド付近の広場に来ていた。
「遅かったな、スミイ」
陰から現れたのは、ホームレスの少年だった。
「君はあの時の...なあ大きい帽子をかぶってる女の子は見なかったか」
総助がそう聞くと、少年はあざ笑うような顔をして総助に言った。
「そこにいるよ、お前を殺すために」
総助が瞬時に気配を感じ、サリの攻撃をかわした。
「サリ、聞いてくれ俺が...実は俺が君の弟を...」
「わかってる、知ってる、なんで?」
サリの声は掠れていた。
「知って...いたのか?」
「俺が教えたんだ」
少年は総助を睨んだ
「嘘だったんだ。何も知らないって、全部。私を騙すために」
月明かりが差し込み、ようやく彼女の顔見た。ひどいくらいぐちゃぐちゃな顔をしていた。
「俺は...」
「絶対に許さないッ」
サリは総助に自身の爪を突き刺そうと走る。
普段の総助ならよけられたであろうスピードも、今の総助には早すぎるくらいだった。
これが人を殺した天罰ってやつか...そんな風にあきらめかけていたその時だった。
「お前というやつはつくづく甘いな。だが、ここで自ら死など選んでどうするつもりだ?」
間に割って入り総助を剣で守ったのは、須流真だった。
「退け、そいつは私の獲物だッ」
サリは恐ろしい表情でそう言った。
「獣はどこまで行っても獣か、来るがいい」
俺は、どうするべきなんだ?
こうして、戦いが幕を開ける。誰のためでもない戦いが...




