アドミネ大洞窟 その二と勝利の遺跡
日がちょうど落ちかけた頃、ソウスケ達は続々と目を覚ましていく傭兵たちを横目に軽い雑談をマチアスたちと繰り広げていた。
「じゃあ、スーデリクの王様ってまだ若いのか…てっきり白ひげを生やしていたりする厳格な人みたいな感じに思ってたよ」
ソウスケがそう言うと、マチアスは昼間に血を流しあった者とは思えないような気のいい顔で
「そこまでじゃねえよ、あいつは学園時代から俺みたいなやつにも積極的に手を取って歩いてたような甘ちゃんだぜ」
へへと、マチアスが自分事のように誇らしく語っているところを見て、ソウスケ達は先ほどまでの底知れなさとは逆にこの国に住まう者達に対して親近感さえ覚えていた。
ようやくかとソウスケ達がアドルフが向かってくるところを見ると、
「皆さん大変お待たせしてしまいましたね、こちらの四人はもうしばらくこの場で様子を見させていただきます。なので、今度こそ彼ら『グランド・アルメ傭兵団』にアドミネの地を案内願いたい。いいですかな、マチアス殿」
「任せておけ、俺も仲間も柔じゃねえ。必ずやお客人をアレクサンドル王の御前まで引っ張っていくぜ!」
マチアスとリュカは今出ようと急に言い出すと、当然ソウスケやアガイから疑問と驚きが現れた。
「ちょっと待ちな、今出るって言ったのか?もうこれから夜だというのに?」
アガイのこれまでの人生経験から、夜に移動するというのはあまりにも危険だと判断した。
それも無理はない
基本的に夜に移動するということは、ほぼ自殺を意味する。何故ならば暗い世界に取り残されると、人は判断が曖昧になったり夜に慣れた盗賊や魔獣たちの格好の餌食になったりするからである。
しかし、ここスーデリクは夜に移動するということに大きな意味を持っている。
「夜だからだ、夜になるとドローンは眠るんだ。8年前に大量発生したドローンは、この国にかなり大きな損害をもたらした。でも、奴らにも弱点があったんだ。それが夜に行動ができないっていう習性だ」
〈ドローン〉かつては大きくても鞄サイズだったが、八年前の〈大地の神の怒り〉の後に大量発生した〈ドローン〉は今までの比にならないほどの大きさで、さらには人や家畜自分たち以外の魔獣さえ襲うほどだった。
「なるほどな、だから夜か。よし、分かった行こう。どこまで行けるかなんてわからないけどさ」
ソウスケは明るくそういうと、夕暮れのアドミネ大洞窟を歩む…と思いきやアドルフが出発前のソウスケを引き留めた。
「行く前に一つだけ、陛下に会ったらこれを見せてください。色々と面倒が無くなりますから」
そう言ってアドルフはソウスケに、白金色の鞘に納まった短剣を渡した。
その短剣の鞘は、生い茂った木々やそこから成る果実を金で施しており。ソウスケも見て惚れ惚れするような、美しい剣だった。
ソウスケはその短剣を受け取ると、今度こそと傭兵団6人と共にアドミネ大洞窟の出口へと足を進めた。
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スーデリク王国のクラージュズ王城の向かい側にある、〈ネザックの勝利の遺跡〉。
そこにはまるで巨大な龍のような風貌の石が遺跡の周りに巻き付いた状態で、それはまるで生きたまま固まった様にすら見える。
その遺跡の中央は広場の様だが特にこれといって何もなく、しかしその周りにはなぜか階段状の椅子が据えられていて、それはさながら演劇の舞台の様であった。。
その遺跡の中央で、一人の男が何かを調べていた。
「やっぱり、これがネザック本人…いやそのものだったのか」
フードで顔まではよく見えないが、その男の片手にはその男が誰であるかを断定できるものがあった。
それは…
「おい、そこのお前」
フードをかぶった男に大きな声で話しかけたのは、モレウベリアのオーリであった。
フードの男はオーリを無視したかのように引き続き地面に刻印されている模様を、まるで文字のように読んでいた。
「お前、聞こえてんのか?そこのフードのてめぇだよ!!」
オーリが呆れ交じりに声を荒げると
「お前に興味はない、ぼ…俺は知るためにここにいるだけだ。邪魔をしないでくれ」
フードの男がオーリを一蹴し、再び地面を片手に持っているナニかでパシャリパシャリと音を立てた。
オーリは怠く、気が滅入るこの状況にさっさとケリをつけようとフード男に向かって自身の大型の剣を投げつけた。
オーリは心の中で「退かなかったお前が悪いんだぜ」と呟き、少しだけ気が晴れた様な表情でゆっくりと遺跡の中央へと向かった。
オーリは油断していた。
先ほどの攻撃で、フードの男はすでに死んでいると思っていた。
だがしかし、オーリが遺跡に徐々近づくにあたって自分の剣もフードの男の亡骸もないことに気づき始めた。
その時には既に、オーリの背後にフードの男が迫っていた。
グサリと、肉に鋭い何かが突き刺さった音がした。
幸いにも、オーリに外傷はなく。突き刺さった音を立てていたのは、ウゲツの脇差によって脇の辺りを貫かれていたフードの男の肉からだった。
「大丈夫かい、オーリ?」
「俺は刺されちゃいねえよ、ルルは?」
「あんたの提案通り、王都で好きにさせてますよ」
脇差で貫かれた男は脇を抑え逃げ出そうというのか、一目散に遺跡の方へ駆けて行った。
「逃がすかよッ!」
オーリが足で思いきりに、青黒い謎の力を放つとフードの男に直撃し男は地面に転がった。
フードの男は四角い角ばったものを落とすと、「しまったッ」と声を漏らした。
オーリはその落ちたものを見て、ぎょっとした。
何故ならばそれはこの世界で所持している人物が限られるもので、それを持つ者をオーリは知っていたからだ。
「電子機器、それもスマホ?とかいうやつを持ってるとはな、一体誰だ。まさか、デクリプス・プレテリムワールドの生き残りか?それとも…」
オーリの中で数多の可能性が過ったが、そのすべてがありえないものばかりだった。
だが一つだけ、その中で一つだけありえそうで、そしてオーリにとってあまり喜ばしくない可能性が思い浮かんだ。
その瞬間、オーリはどこかホッとしてしながら
「お前…この世界で生まれてまだそんなに経ってねえだろ?どこでスマホを拾った。答えな」
するとフードの男は、
「偶然さ、でもこれはある意味必然だったのかもしれない。この世界を解き明かす手がかりを、俺は手に入れたのだからな」
フードから覗いた顔で、ようやくオーリはその男の正体に気が付いた。
「やはりお前が…いや、確かにカゲトの報告から国から出たとは聞いていたが、まさかお前があいつのスマホを手にしていたとはな。どうりでこの世界のことを多く知っているはずだ」
「なあ、そうだろ?アイム・フォン・アイテラガ」
「アイテラガも、フォンの意義さえも俺にはもうない。だからこそ、この世界の全てを知る意味ができたんだ。お前らの邪魔は受け付けないッ」
フード姿のアイムはスマホを落としたまま、遺跡の奥に広がる山肌に身を投げた。
「ウゲツ!追うぞッ」
しかし、オーリ達が遺跡の奥へ向かうとそこにはもう、一面に広がる雪景色の山肌しかなかった。
「追うかい?」
ウゲツはスマホを拾い上げると、オーリに投げ渡しそう聞いた。
「いや、いい。思ったよりかは脅威にはならねえ、まあ厄介なのは変わらねえがな」
その遺跡からアイムの姿が消えた…
しかし、ウゲツは少しだけ違和感を感じている様だった。
「もしかして…」
ウゲツはオーリと共に、その場を後にしたのだった。
「アドミネ洞窟その二」なのにちょっと洞窟パート短かったかも…




