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異世界乱世  作者: Asuga
暗雲の章、緧の節。失った者達、失う者達
30/39

色落ちた雨上がり。~新たなる異世界のステージ~

 「ラスレ、無事だったか?」

 ソウスケはアイテラガ邸宅内でラスレを見つけると、スルマとクルメを呼び集めた。


 スルマはスクヨとあの剣を抱えており、ラスレは彼らの姿を見てよほどの激戦だったのだろうと気づいた。


 「みんなお疲れ様、僕は無事さ…でもこの町は。」

 

 この邸宅にいた誰もが、暗い顔をしていた。周りを見渡せば地面で苦しむ怪我人や、絶望の表情のまま止まってしまった人を見るたびに心も顔も沈むように暗くなっていく。


 そんな中、邸宅の一室から焦げ跡がついた白い帽子を身に着けた男が人をかき分けソウスケ達のもとへと寄った。


 「こんな空気の中悪いが、お前達には来てもらいたいところがある」


 「ルドラス…その怪我はもしかして!いや、それより来てもらいたい所ってのはなんだ?」

 ルドラスは若干の汗をかきながら、ソウスケの肩に寄りかかって説明した


 「ディジアー法王国だ。この事変の説明、それからこの町の援助を頼みに行く」


 スルマがルドラスと目を合わせ懐疑の目を向けると


 「ならばなぜ俺達が必要なんだ、お前ひとりが行けばいいだろう?」


 ルドラスはソウスケの方に顔を向けると


 「モレウベリア…奴らの出現は法王国としては看過できない問題だ。その説明のために必要なんだ、実際にモレウベリアと対峙し退けたお前たちが、な」

 「急げよ、今すぐ出発する。」


 クルメは驚いた表情をした

 「待ちたまえ、今すぐなんて急ぎすぎやしないかい?あなたや我々は怪我を負っている。ましてや救代君はまだ意識が戻らない、そんな状況で出発すると?」


 するとルドラスは


 「今日出るか、明朝で出るかで時間は変わる。その間の時間に人が死んだらどうする?ここにいる者たちは俺達を除いてすべて被害者だ、俺達は戦って退けたでも町を壊したんだ俺達は!俺達は被害者になりえない、俺達はむしろ」


 ラスレはルドラスの言葉を聞いても納得はできなかった。


 「この国がこんな状況だというのに…僕たちが居なくなったら、それでこそこの国の死者は増え続ける。僕達の存在はこの国にとって今必要なんだ!」


 ソウスケが少しうつむいて何か決心したように前を向くと、


 「分かった、俺だけでも行くよ。俺が必要なことは分かった、何もみんなで行く必要はないだろ?」


 スルマもそれに続いた


 「俺も行こう、この馬鹿が何かやらかさないか見ている立場は必要だしな。それに、モレウベリアのことは俺も知っているからな」


 「つまり私は、ここでラスレ君と救代君のお目付け役としてここにいればよいのかな?」

 クルメが少しだけ嬉しそうに言うと


 「ああ、頼むよクルメ。必ず戻るからさ」

 スクヨとラスレをクルメに預け、ソウスケとスルマはさっそうとこの町を出ていく準備をした。


 火の色も太陽の色も落ちた雨上がり、ソウスケとスルマそしてルドラスは法王国に向けて旅立った。この国で起きたこの事件は、ものすごい伝達速度で各国に知らされた。


 アフィニティ帝国、帝都ミズガルズ。その中心にあるミズガルズ城の王座の間、そこには第112代目帝王・ゼクスの姿があった。


 「ほう、ラクレスをアラカンで発見したと…ならば連れ戻せ。あいつは次なる王にふさわしい存在になってもらわなければならんからな、家出は程々にとラクレスに伝え連れ戻してこい!」


 従者らしき者達が「はッ!」と一礼しその場を去った。


 帝王ゼクスは凛々しい眉に、歴戦を予感させる老いた顔、何より失った右目が彼をまさしく帝王と呼ぶのにふさわしくしている。

 

 すると王座の間の扉がゆっくりと開き、せこせこと綺麗な水色の長い髪を持った少女がゼクスの前に現れた。


 「パパ、ラクレスが見つかったのは本当?」


 「ああ、不安かレイナ?大丈夫だ、あいつは私の息子でお前の弟だ。きっとまだ反抗したい年頃さ、だがこれからの世界であいつを残すわけにはいかん」

 ラクレスは身に着けていたマントをたなびかせ、モレイという名の少女のに背を向け王座の前から姿を消した。


 モレイは少し寂しいそうな顔をしながら、窓に顔を近づけた


 「早く戻ってきてほしいな、ラクレス」


 

 一方その頃、アイテラガ公国よりさらに北にある雪国


 スーデリク王国では・・・


 「王よ、南のアイテラガのアラカンが崩落されました」

 兵士の一人が王にそう言うと、王は驚きの顔をし緊張を走らせた。


 「まさか、こんな日に限ってあるはずないと考えてしまった。俺の見立てが甘かったすまない」

 スーデリクの国王は王と呼ぶにはまだ幼く、20代前半といった風貌だった。


 報告した兵士が変な声で驚くと、スーデリクの王の耳元でささやいた。


 「だめですよ、殿下・・・じゃなかった陛下。こんなところで僕に頭なんか下げられても、みんな見ていますからどうかお顔を上げてください」

 

 「だがロバート、俺達は学園で共に過ごした仲間だろう?そこに陛下なんて壁を作らないでほしいと、俺は思うんだ」

 その二人に割り込んだのは、その中で最も年を食った男であった。


 「駄目ですよ陛下、あなたはこの国の王として民を導く側になったのです。いつまでも学生気分を引きずったままでは、この国は到底支えられません。もしこの国のことではなく自身とその周りの友人のことしか考えられないような人であるというなら、あなたにこの国の王は務まりません」


 その男は青いマントに、白髪が混ざった赤い髪を誌後ろで結んだ40代ほどの男性でなんと自身の国の王に対して叱責した。


 「すまない、アドルフ。俺はまだ父上の様にはいかないな、早速法王国に使者を送りアラカンの調査に出よう」


 「いえこちらこそ出過ぎた真似をいたしました、それと私のことはアドルフではなくドミニカ辺境伯とお呼びください。ここは公の場ですので、」

 アドルフは片膝をついて詫びを入れた。


 王国はばたばたとし、皆がついに帝国が動き出したと緊張が国中に走った。


 そんな中、国王アレクサンドル・ロゴクス・クラージュズは王城の渡り廊下で恐ろしい形相をしながらつぶやいた。


 「ようやくだ、帝国共の尻尾が掴めたんだ…絶対に放すものか、ゼクス・フォン・アルダー」

 先ほどまでとは違い、アレクサンドルは何かに取り憑かれた様に帝王の名を呼んだ


 

 アラカンで起こった事変は海を通り、 ロスキプ諸侯同盟では・・・


 「アラカンが崩落ねぇ、まあ罰が当たったんじゃねえかよ」

 一番偉いであろう獣人は、ぼさぼさな毛を伸ばしたままであくびをしながらアラカンの有事を耳にした。


 「でもさでもさ、これって結構やばくない?帝国がおれたち殺しに来るかも!そしたら大変だよ」

 従者とは思えないほど小さな獣人が、に軽い口調で話しかける。


 「まあ何とかなるだろ、俺は知らん」

 そうしてふて寝に転んで、聞こえないふりをした。


 そうしてアラカン有事は、ついに海を越えた共和国にまで伝わることとなる。


 「どうしましょう?ただでさえ今、国家の首席が空白だというのに」

 一人の不安交じりな声が、会議室で行ったり来たり反響すると

 

 「これはもう、我らの神に聞いてみるしかない。いこう翠玉様(スイギョクサマ)の知恵を分けていただくために」

 会議室からそそくさと十人ほどの人が出て行った。


 一方その頃、この事態の引き金を最初に引いた者達は空からわかるほどの世界の混乱に満足しているように眺めた。


 「世界中パニックだろうぜ、今日中に法王国にも伝わるが…どうするよ、やっちまうか?」


 オーリはにやついた顔でセツに聞くと、セツからは意外な返答が返ってきた。


 「いや、いい。むしろ俺たちの存在に気づけば、奴は必ず出てくる。俺たちが居た世界を奪い、異なる世界に変えてしまった奴らを我々モレウベリアが壊す」


 モレウベリアは飛行船から再び混乱した世界を眺めた。誰の目も笑ってはいなかった、どうすれば彼らをここまでさせてしまうのだろうか・・・この世界は新たなるステージへと一歩駒を進めるのであった。



~~~



 雨の気配がまだ残った寒空にソウスケは、一人何とも言えない気持ちの悪い感覚を覚えた。


 それは争いを仕掛けた帝国に対する怒りなのか、それとも自分が救えなかったものたちの憂いなのか、どちらにせよソウスケは今日のことを生涯忘れることはないだろう。


 そしてソウスケは遠くに見えるアラカンの町を眺め、法王国へと旅立つのであった。


 この世界は今も動き続ける、不確かで不明慮な未来に彼らは()()なんてものを見出しているのであろうか?

 

 時間だけが過ぎて、何もできない無力な人々はただ終わりを迎えていく。


 それでもソウスケは足を止めない。自らが歩む道の果てに、そんな不確かで不明慮な()()というものがあると信じて・・・

暗雲の章 ー完ー

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