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異世界乱世  作者: Asuga
暗雲の章、緧の節。失った者達、失う者達
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喪失を悼む橙色の涙

 〈ヴァルスグラディウス〉が光り輝き、それを通じてソウスケとスルマの眼の奥の〈光〉も共鳴する。魔獣が溜めていたエネルギーをはるかに上回り風や地面も揺れ、黒い雲も二人の一点だけは日の光が差し込んだ。


 「「イグニスネクサス!!」」


 鋼鉄のような魔獣の胸は静かに切られた。ソウスケはその胸に手を伸ばすと、目の前が真っ白になってスルマと共に飲み込まれた。


 「角居、何処だここは?」


 絵具をこぼした様にぼやけたその世界は、ただ小さな二人の子供の為だけの世界だった。


 なんてことのない一本の木の周りで、二人の子供は楽しそうに遊んでいる。彼らはなんて事のないこの日々を過ごすことをただ願っていた。


 「ここはきっと、あいつ(アビア)の望んだ世界。こんなにぼやけてるなんて、少しだけあいつに同情するよ」

 ソウスケの目にはその子供たちが本当に幸せそうな顔をするたびに、心というものに針が刺されたような思いでその光景をただただ見つめた。


 すると一人の子供がソウスケのもとに駆け寄ると、穏やかでどことなく大人びて


 「ごめんなさい、僕が…悪かった。だから僕はこれから、行くべきところに行くんだ。()()としてね」


 スルマはその景色にどこか悔しそうな顔をして、子供に言った。


 「そうか、お前はそれを選んだんだな」


 「うん、僕はここで終わりたかったんだ。だから・・・ありがとう。いつかきっと君たちがこの世界を真の意味で救う英雄になることを願って」

 すると、その奥からもう一人の子供がアビアを手を引いた。


 「うん。今一緒に行くよ、ニマ。」


 そう言った途端その世界は閉じ、ソウスケとスルマの目の前には真っ二つにされた魔獣の姿があった。


 それは少しづつ雲が晴れ、魔獣を…彼らを映すように日の光が差した。


 ソウスケは剣から手を引き抜き彼らの顔を拝み、ただ申し訳なさそうに空を見た。


 ソウスケが手放した、〈ヴァルスグラディウス〉はたちまち機械が剣を覆い隠し、〈メカニックブレイブ改〉に戻った。

 

 オレンジ色の光がアラカンの町を包み込む、今日という日の終わりの予感とただ続くこれからを町中に見せるように。


 魔獣の死体の前でソウスケは合掌すると、隣で物憂げな表情をするスルマに話しかけた。


 「俺は助けられなかった。どれだけ意気込んでも、死のうとしているやつを助けることも理解してやることもできない。俺は本当の意味での命ってものを知らないのかもしれない、だから俺はそれも探そうと思う」


 「助けられなかったんじゃない、あいつは助けられたんだ。その上であいつは終わることを望んだ、それもある意味では奴自身が望んだ先だったということだろう」


 「確かにそうかもしれない、俺自身死のうって考えたとこもあったしな。でもさ、俺あの日のこと後悔してんだ。それに後悔がないって自信を持って言えるかなんて、きっとそんな余裕はないしそんなことは後回しにしちまうのかもしれない」

 「大切な人を思い出して、すべきことを見て、逃げ出したくなる気持ちもきっとある。でも、どっかに生きたいって気持ちもあったはずなんだ。だって、どれだけかすんでいてもまだ色が残っていたんだから」


 ソウスケは夕日が落ちていくその姿を見て、「さようなら」と心の声でつぶやいた。


 そのソウスケの言葉にに返事をするかの如く、空からは夕立が降った。日が見えているのにも関わらず、雨が降っているその光景はソウスケにとって強く印象に残った。


 それはまるで、その光景に誰かを重ねるようだった。


 その背中をじっとカゲトは見ていた。小さなため息をついて路地へと歩いていくと、そこには息を切らしたウゲツの姿があった。


 「ウゲツ、久しぶりだな。さあ、帰ろうぜ」


 「はあ、心配したよ。君が生きているなら、当初の計画はうまくいったようだね」


 「まあ…な、それなりに大変だったがいいものを見れた。あの小僧たちはかっこいいな」


 そう呟き、ウゲツはぽかんとしながらそのまま路地の影に二人は姿を消した。


 

~~~



 アイテラガ邸宅前、アイムとラスレはお互いに気まずそうにしているとそこに怪我人を運ぶ人影があった。


 「そこの二人助けちゃくれねえか?俺自身怪我人なもんで、あちこち痛いのよ」

 ボロボロになって人を運んだのは、宿で体を休めていたルドラスであった。


 アイムとラスレは運ばれた怪我人を運ぶと、ルドラスも運び込んだ。ルドラスは最初は抵抗していたが、自身の体のことは理解していたためあっさりと抵抗しなくなった。


 夕立が未だ降る外で、夕日を眺めていたアイムの背中をラスレは濡れながらアイムに傍に近づいた。


 「これからどうするんだい?アイム。君はたくさんのことを知ってしまった。もしこの先の道へ足を踏み込むなら、君はきっと後戻りできなくなる。それでも先を…この世界の全てを探すのかい?」


 「父上は、見栄っ張りでそれでいて凄く意地っ張りだった。あの人がしようとしていたことは、この国の…いやあの国への侮辱でしかない。だから僕…いや俺はあの人を許すつもりはない」


 「そうか」

 ラスレはいろいろなことを考えながら、アイムに何か言葉をかけようとした。


 しかしアイムは言葉をつづけた。


 「でも、なんでだろう。あの人を失ったと考えると、どうしようもなく辛いんだよ。行き場のない怒りがこみあげて、あの人の影が、姿が今でもないものかと追いかけてしまうんだ」


 冬の冷たい雨はこの町と失った者達、そして失う者達を濡らした。


 アイムはラスレに顔を見せないよう背を見せた。


 「今日の雨はなんだか熱いな、それでいて凄く疲れた。くやしいよ」


 アイムは声を震わせ、そのまま歩きだしていく。


 「行くんだね、アイム。」


 「ああ、この国には申し訳ないと思ってる。でも勘当されたし、今のぼ・・・俺には探し物もあるからな。また、どこかで」


 ラスレはその背中をその姿が見えなくなるまで見続けた。「これも彼が選んだ一つの道」と思いながら。


 「僕は、いつ変われるのかな…」

 その呟きは雨によって押しつぶされ消えてしまった。

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