夢のような、夢ではないところであなたと再び…
ガキン!と軽い音が低く響いた。
スルマとサリは火の中に飛び込みながら戦うと、サリは屋根の上へと逃げた。
上に逃げたか…おそらく火を嫌ったのだろうが、あいつをほっとくわけにもいかない。
ならば・・・
「炎の玉!」
サリに攻撃は当たったものの、元の火力が低かったせいでダメージはゼロに等しかった。そもそもこの攻撃手段は、このひと月で身につけた簡易的モロクショに過ぎず、うまくいったとしてもダメージにはあまりならなかったであろう。
だが、それでいい。俺は動かず、ここでモロクショを打ち続ければいい。
サリはダメージにならない攻撃に、少しずつ警戒を解いていった。やがて攻撃を避けるではなく、反撃に討って出ようと考えをシフトしていった。サリはタイミングを窺い、モロクショとモロクショを使うその間そのタイミングで素早く近づいてくると、
サリにとって意外なことが起こった。
火の玉はワンテンポ遅く出され、サリには避けられない距離になっていた。しかし、サリにとって火の玉はもう特段警戒する必要のないものへとなっていた。
「グッ、グワァアアアアア!」
火の玉に当たったサリは痛みに叫んだ、当然だろう。
本来の俺が使うモロクショなら、サリにダメージを与えることなどできない。ならば、モロクショを使うタイミングで共に俺の武器を投げてしまえばいい。だからこその事前にモロクショをばらまいて警戒を少しでも解く必要があった。
火の玉から現れた剣によって、サリは左肩に大きな剣が突き立った。
しかし、俺の見立ても少し甘すぎた。サリは痛みで狼狽えることなく、真っ直ぐと俺の腹を狙った。
本来のサリのスピードなら、俺の腹を貫くことができただろう。だが、あれも生き物だ。痛いものは痛いらしい、サリのスピードはそれなりに落ちていた。
俺は体をねじり、避けることができた。
「腹部の服は少し持っていかれた…か」
避けられたところで、剣を突き立てたところで以前劣勢。勝機もあまりない、同じ手はおそらく通らないだろう。先ほどの攻撃だって、サリからすれば猫だましにしかならない。
サリは少しづつスピードを取り戻しながら、屋根を使って攪乱していく。少しづつ、目で追えなくなっていくサリの姿に段々と不安を覚えてくるとき、その時はサリの姿がはっきりと映った。
「これでもくらっちゃってー!破軍!」
スクヨは自身で知覚せず技を使っており、その攻撃はサリの不意を突き地面にたたきつけることに成功した。
今ならばと剣を槍に持ち替え、サリを拘束するためサリの上から覆いかぶさると救代も「えいッ」とサリに覆いかぶさりサリの体は動きたくても動かせないでいた。
このまま殺してしまおうとは考えなかった。それはきっと総助が許さないであろうと…
その時俺の頭には、かつての…俺がまだすべてにおいて幼かったあの時の記憶が少しだけ蘇った。
中学までは何でも一番をとることにしていた、俺が正しいと証明するかのように。
幸い俺は何でもうまくいった、なんでも人よりうまくできた。
俺は自分を信じ切っていた。
中三の夏、あるスポーツジムのランニングマシーンで俺は自身の力を打ち砕かれた。
ランニングマシーンのタッチパネルには10000メートルを29分で走り切ったと、角居という名前が映っていた。
「この角居と書かれたやつ、俺が35分かかるこの距離をたったの29分で!?」
そのスポーツジムのあらゆる機械のランキングには、必ずと言っていいほど角居と書かれた文字が一番を刺していた。
いいんだ、俺はスポーツジムで一番になり来たんじゃないっとそこで俺は初めて諦めたのだ。
一度物事を諦めると、その他の事でも諦めるが多くなっていった。
いつの間にか俺は、自身が目指していたところにはいなかった。
それでも小さなころテレビの前で魅せられた、このダンスだけは一番であり続けようと半ば執念のようなものでそれにすがってた。
子供の時は何でもできた、だが周りがどんどん大きくなるにあたって自然と周りから人は消えてった。
「うんざりなんだよ、俺達もそこまでマジじゃねえって」
中学三年の頃、ダンスチームに所属して俺はそう突き放された。
その時の俺は趣味であるダンスに全力で取り組んだ、そう全力で取り組みすぎていた。
「そこ!ステップが遅いぞ、俺に合わせろ。その曲を使うのなら、もっと緩急をつけろ!俺を真似しろ。俺の、俺を…」
俺はいつの間にか、自身ができることを全ての人に勝手に望んで勝手に絶望していたんだ。
「何故できない?何故分からない?何故俺の言うことを聞かないッ!」
だが、仲間はそんな妄執に取りつかれた俺をあっさりと見捨てた。そいつらは必ず別れ際になって言うんだ…「お前は変わったよ」っと
今思えば初めての挫折は、あの時に知覚せず既に味わっていたんだ。だからと言って俺は、総助を別に恨んだりなどはしなかった。
むしろこっちで初めて話したあいつは、俺が思っている何倍も強くそして優しかった。
だからこそ俺は総助のため、サリを止めてあいつに合わせなくちゃならない。俺を変えてくれるきっかけをくれたあいつに、俺に諦めを教えたあいつに、俺はまだあきらめてなどいないとそう伝えてやるために。
「はぁあああああああ!……はぁああああああ!!!!」
体重をかけて拘束するほどにサリは暴れて俺や、救代を殴った。だが俺達はどかなかった、俺はどくわけにはいかなかった。
だが、思いは心に灯せば灯すほど儚く、あっさりと崩れていく。そこに現れたのは、今アラカンの町を襲う脅威の一つ〈魔獣〉その中でも最も大きい個体であった。
〈魔獣〉はスルマたちを突き飛ばした。壁にたたきつけられたスクヨは、頭から血を流してその場で気を失った。スルマも同様に気を失った。
失うはずだった。
突如としてスルマの体が光りだすと、スルマの周りにはたくさんの見たことのない文字が並べられた円でスルマを囲っていた。
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知らない空間にいたスルマは、あたりを見渡した。
「ここは?」
その場所には、古くてそれでいて懐かしい雰囲気のある木の家があった。
「ここは私の生まれた場所。」
そう言ってスルマの後ろから現れたのは、やけに童顔で、その上体のラインが全く見えないほどの大きい茶色いフードを身に着けている優しい顔をした人だった。
「ここは…どこだ?」
「ここは夢の世界、正確に言えば違いますが、まあ夢のような場所と思っていればいいと思います。まず、単刀直入に言いましょう。スルマ君、君に私の力を貸したいのです」
「まて、貴様は誰だ?何のために貴様の力なぞに頼るか!」
「このままではあなたが死ぬからよ。私はキナ、あなたの味方よ」
スルマにとってこの怪しげな、キナと名乗った者から力など借りたくはなかった。それはある意味での彼に再び負けることになると考えたからである。
だが、死にたくもなかった。
「お前の目的はなんだ?俺に何をして欲しい、それ次第だ」
スルマは目的を聞いた。何をしたいかそれで人のすべてを図れるわけではないが、少なくとも今はこれが一番確かだとそう思ったのだ。
「私は元の体を取り戻したい。取り戻して墓参りに行きたいの」
キナは今にも悲しそうな顔をしていて、瞼が雨を予感させた。
「墓参りか…お前の体とやらはどこにある?」
「おそらくクレイ半島という場所に」
「おそらく?どういうことだ?」
「私は体と離れてしまった、いわば思念体のようなもの。体との交信なんて、もう300年は行っていないのです。」
「・・・分かった、お前の望み俺が叶えてやる」
俺は、なぜだかこいつの望みを叶えてやりたくなった。どこかで同じような姿を見たからなのか…
「スルマ君、君に英雄エルマベ様の加護があらんことを…」
俺がその夢のような場所からはじき出されたかと思うと、俺はあの場所へと戻ってきていた。
相変わらず目の前には大きい化け物と、サリがたたずんでいた。




