外伝ep ルル 『檻から出て…』
嫌だ…もう嫌だ…助けて
私は心の中で必死に助けを求めた。
この真っ暗な場所から出して欲しくて、ただひたすら
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私たちは坊ちゃまの家と、強いてはアイテラガ家と深い関わりがある有力貴族のそのお屋敷に向かった。
私たちはお屋敷に着いた途端、身が縮こまる感覚があった。
中に「失礼します」と入っていくと、私たちはぎょっとした。
血まみれの絵に、割れたガラス片、そしてこの家にこびりついた血の匂いに私たちは警戒した。
だが、このお屋敷に入った時点で既に仕掛けられていた。
私たちはその場に倒れこんだ、意識がもうろうとする中うっすらと足音が聞こえると私はそこで気を失った。
次に意識を取り戻したころには、私は白い部屋にただ一人でポツンと座っていた。
なぜだか分からないけど、すごく嫌な夢を見ていた気がした。その夢の中では私が狂ったように人を殺していて、私は自身の血肉をすすりながらただただあたりを破壊しつくす…そんな悪夢
それからというもの、時々意識がなくなることが増えた。
最初の頃は悪夢を見ていたけれど、それも途中から無くなって最近では意識が戻ると驚くほどに気分が晴れていた。
それはもう、お母さんのことや坊ちゃんのことなど軽く忘れてしまうほどに
それでも私は坊ちゃんのことを忘れないように、手紙を書いていた。
白い部屋の中心に手紙を置いておくといつの間にかなくなり、それからしばらくすると坊ちゃんからの返事が返ってくるそのやり取りがただただ楽しかった。
あれからどれだけ経ったか分からない…最初の頃は意識を取り戻した後はずっととびきり気分がよかったが、最近ではずっと気分が悪くていろんなことに苛立つことも増えた。
まいにちまいにちまいにちまいにちまいにち…
ずっと頭痛に悩まされ、眠れもしなかった。
坊ちゃんとはしばらくやり取りをしていなかった。最初の頃は楽しく毎日のように手紙を書いていたが、徐々に文字が出てこなくなり、今では文字なんて書けなくなってしまっていた。
ふと床を見ると抜けた髪や、文字になってない手紙、人の形を残していない絵が散らばっていた。
私は一体何を見ていたの?
そこでは私は意識を失った
次に目を覚ますと、私は気持ちの悪いほど鮮やかな桃色の部屋にいた。
音は反響し、頭にずっと響いている。
それでも今だけは心地よかった、それも数十分もすればすぐなくなり野生の動物のように騒いだ。
わたしはなんでこんなにくるしいの?
すべてに理解ができなくなっていった。
頭の、悪夢のはずなのに実際に在ったかのように人の死にざまがひたすら湧いた
きもちわるいなんでわたしがきもちわるいきもちわるいきもちわるいきもちわるいわたしはだれきもちわるいきもちわるいきもちわるいだれかたすけてきもちわるいきもちわるいきもちわるい
早く眠りたかった。だって夢の中の私は幸せで、笑顔が絶えることなんてないんだもの。そう思っていた。
まただ、あなたは誰?
夢の中で私は白いヒトガタのナニカに出会う、ナニカは私をずっと追いかけていつも私は逃げている。
でも今日は違った。
ナニカはただひたすらその場で動かず、その場で首を吊って死んでしまった。
「ははははははははははははははははははは!」
その状況が私はおかしくって仕方がなかった。
だって夢でずっと私を追いかけてくるような奴が、最後には自分で死んじゃうなんて滑稽だもの
夢から覚めると私は真っ暗な部屋にいた。
今度は真っ黒か…きもちわるい
それから繰り返しを繰り返し、永遠とも思える苦しい日々を過ごした。毎日毎日嘔ずいて、爪を噛んで、何も考えずただ生きた。
そんなある日私が真っ黒な部屋で寝ていると、何かが私の足に触れた
それはいつ書いたかもわからない、文字になってもいない自分の手紙だったことに気づいた。
まさかと思って周りをまさぐってみると、名前も思い出せない『坊ちゃま』という者からの手紙がたくさん出てきた。
しかし、その『坊ちゃま』の手紙の文字も回を重ねるごとに文字に見えなくなっていたことに気づくと私は我に帰った様に手紙を見た。
同じだったのだ。
私はその『坊ちゃま』と手紙のやり取りなんてしてなかった、もっと言うなら手紙なんて存在していなかった。
地面には血で文字が埋め尽くされており、どれもとても文字とは言えなかった。
その中には、わずかに「助けて」や「坊ちゃま」などが書きなぐられていた。
息を吞みながら自身の手を見ると、爪が剝がれに剝がれた血まみれの指があった。
理解ができなかった。ただひとつわかるのは、初めから私はこの檻にいたのだということ。
嫌だ…もう嫌だ…助けて
私は心の中で必死に助けを求めた。
この真っ暗な場所から出して欲しくて、ただひたすらに祈った。
頭上には何か煙を出す機構があったのを見ると、私は自身の耳の毛をいくつかむしって押さえつけた。
それから私は少しずつ自分を思い出していった。
自分の名はルル。アイテラガ公国のアイテラガ公爵家に仕えていた…アイムに仕えていた従者であること、そして有力貴族の者達に嵌められたであろうことを
いろいろなことを思い出し、自身をどうにか保とうとしていると遠くの方から二人の男の話声が聞こえた。
「いやぁ、ついに999年を迎えるのですね~あまり実感なんて湧きませんよ」
「まあそうでしょうね、あなたには七年間苦労を掛けました。まあ、そのおかげで意図的に獣人を暴走させることのできる例の聖水が完成したんですからお手柄者です」
彼らが何を言っているのか理解はできなかったが、よくないことであることは言うまでもなかった。
さらには
「さすがに最初は困りましたよ、法王国のあなた達と私達帝国の誼で許しますがね」
「誼とやらで、彼らを薬漬けにするのはなかなかだと思いますけどね。アイテラガ公爵に関してはうまくごまかせたようで何より」
「あのハゲはプライドだけしか残っていないゴミだ、騙すのなんぞ容易い。それよりもあのアイムとかいうガキは危ういな、もしかすると何か気づいとるかもしれん」
「そうなれば、公爵に何かと吹き込んで勘当でもなんでもさせましょう!すでに公爵の周りは我々の手駒で埋まっています。何かやらせるなら簡単だと思いますよ」
二人の男は気持ちの悪い笑いをした。その笑い声は屋敷全体に響くほどで、私の頭の中でそれが反響した。
許せなかった。それでも私はぐっと抑え、冷静にここから出る方法を探した。
するとすぐそばにカギを見つけ、さっさとそれを回収しその場から出た。
今までの私では気づきもしなかったことを恐ろしく感じながらも奥に行くと、私と同じくとらわれていた5人がいた。
その中でも四人はもう手遅れだった、しかし母だけは真っすぐとこちらを見て「助けて」と言わんばかりにカギを指さした。
鍵を開けると、母は耳元で「早く逃げてしまいましょう」とだけ言って四人を後にし、その場を去った。
案外すぐに窓が見つかり、外に出ることができた。
しかし、彼らはそんな私たちを逃がすほど甘くはなかった。
出口付近にはいつの間にか大量の衛兵がいた。
「親子共々薬から解放され屋敷を脱出…物語なら素晴らしいですがこれは現実です。それは叶いません」
にっこりと現れたのは黒い服を着た怖い男だった。
「ラク!!これらを捕まえてくれぇ」
その後ろにはにやついた顔の貴族がいた。
その状況と声から、先ほどの声の主が二人であることに私は気づいた。
私が不安で震えていると、もっと震えていた母が私ににこっと笑って衛兵の中に飛び込んで
「行きなさいルル!私は此処で終わりです、セツにありがとうとだけよろしくね」
どこか強く、そしてどこか優しい声だった。
突然のことでラクたちは動揺し、ラクは手元にあった弓でルルを狙い打った。
「お前もこいつももう一度うまく使ってやるからな、覚悟しろぉお」
矢はおなかに命中したけれど、私は泣きながらとにかく走った。
走って、走って、走った。
そして私は路地で痛みに耐えながら、ひたすら時が過ぎるのを待った。
待って、待って、待った。
だが路地の入口で人の足跡が聞こえると、私はもうだめだと力が抜けその場で気を失ってしまった。
「君は...」
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あの時ソウスケに助けられていなかったら私はあの場で死んでいただろうと思うと、本当に彼らは私の二番目の英雄だ。
一番は・・・私にとって一番の英雄は、きっと彼だ。彼は私のことを覚えているだろうか?
実は一度、彼の屋敷の前を通って見たりした。でも彼の家には新たな従者がいて私がいらなかったかもしれないと考えると、少し気分が落ち込んだりした。
そんなことをのほほん考えていると、黒いぴっちりとした服を着た大柄の男にばったり会った。
「え…っと、あの。」
私がなんと言おうか悩んでいると
「なんだ、起きてたのかよ。だったら外に来いよ、飯を用意してある」
そう言われて手を引かれて連れていかれた。
鉄の檻のような場所から外に連れ出されると、そこは孤島だった。
そして私の目の前には焚火があり、紺色の髪をした人が待ちくたびれた顔をして
「オーリ遅いよ~。人に作らせておいて待たせるとか、ないんじゃない?」
「黙ってろウゲツ、あいつはどうしたよ?あいつが居なきゃ飯は始まらねえぞ?」
私はこの状況に理解ができず、二人の会話に割って入った。
「あなたたちは一体誰なんですか?なんで私を…」
すると鉄の檻だと思っていた、乗り物らしきものの裏から見覚えのある姿が出てきた。
「俺たちは、モレウベリア。安心してほしい、君の仲間だ」
あの日と変わらず優しい声で、彼はそう言った。
「あなたは・・・セツ?」
この再会がこれからの私を大きく変えるきっかけだったのを、この時の私はまだ知らない




