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異世界乱世  作者: Asuga
暗雲の章、緧の節。失った者達、失う者達
22/39

外伝ep ルル 『檻の中』

 「ここは?」

 どこか錆びれたベッドで、私は目覚めた。


 鉄でできた冷たい地面をペタペタと歩いていくと、一つの部屋に出た。そこには様々な書物が並べており、中には数多の武器まで置いてあった。


 どうして私は此処に?


 私は此処に来るまでの記憶がなかった。それでもはっきり覚えていたのは、怖い白い服を着たおじさんにナイフを体に刺された記憶だけだ。


 ソウスケとスクヨも居ない、私は死んじゃったのかな?


 周りをぐるりと見渡しても人影が見えないこの場所に、私は少し怯えていた。


 それでも、ソウスケやスクヨを思い出しながら勇気を振り絞ってこの場所を探索した。


 この不思議な場所は鉄で囲まれていてまるで檻の様な場所で、辛い記憶がふっとよみがえった。


 それはまだ母と一緒にいた頃の…そしてあの人との記憶(思い出)


 ________________________________________________


 ガタゴトと臭い檻の中で馬車に運ばれていたのはルルとその母、ミーシャだった。


 「まぁま、おなか減った」

 まだ幼く、物心も付いていない純粋無垢な表情でルルは母親のミーシャにご飯をねだった。

 この時のルルの年齢はわずか四歳、四歳にして奴隷になったのである。


 「ごめんね、私が不甲斐無いばっかりに。あなたをこんなにつらい環境に…」

 ミーシャは声を殺しながらすすり泣いてルルを抱きしめた


 檻の中は人が二十人は入れる広々としたスペースに、ルルとミーシャを含めた十五人ほどが雑に入れられていた。


 周りの獣人はみんな大人で、男は三人それ以外はすべて女だった。


 ルルは檻の中で一番若く、周りから憐みの目を向けられていたのが幼心にも理解していた。


 (わたしはなんで…みんなは何でこんな目に合わないといけないの?)

 その時がルルが物心ついたその時だった。


 それから三か月ほど、ルルにとってもそれ以外の者たちにとってもつらい日々が続いた。


 毎日碌なご飯も食べさせてもらえず、飢えに飢えていた獣人がやがて自身や周りの獣人を喰うのにひと月はかからなかった。


 理性を保てない者たちも、理性を失えなかったものたちも毎日のように心の中で助けを求めた。ただただ心の中で自分たちを救ってくれる『英雄』を、彼らは欲した。


 人が良く通る道を、辺境の村を、少し大きな町を、国の首都を通った。それでも誰も助けてはくれなかった。


 新聖暦989年

 アイテラガ公国アラカンの町


 その路地の奴隷商に奴隷として、わたしたちは売り出された。


 わたしたちの入っていた檻に残っていたのはたったの6人


 誰も生きているようには見えなかった。


 (ここは、どこだろう?もういいよ、わたしたちはどうして…)


 おかあさんの目は死んだように光がなく、不安そうにわたしを優しく赤い肉が見えた手でずっと抱きしめていた。


 「こいつらを買わねえか?今ならなんと六人で25000ラトだ!」


 奴隷商の会長は気前よく言った、でも誰も私たちを買おうとはしなかった。


 それから半年たった頃、檻の中は4人にまで減った


 みんなの腕や足は噛み痕でボロボロで、私たちは売り物にすらならないとこの時、全てをあきらめていた。

 そんな寒い滅色の節の終わり頃、わたしたちを買おうとする人が現れた。


 「この子たちを買いたいのだが、いくら必要だ?」


 その人は雪よりきれいな銀色の髪をしていて、顔を隠すように仮面をつけていた。


 「こいつらは24000ラトだ」

 この商会長は運営のセンスはあまりなく、ここまでボロボロになったわたしたちを値下げしようとは考えていなかった。


 その結果誰も買い付けず、ここまで残ってしまった。


 銀色の男の声をミーシャが聞きつけると、すがるような声で助けを求めた。


 「セツさん?あなたがどうして?セツさん…お願い娘を、ルルを助けてあげて」


 おかあさんの声を聴くと、銀髪の男は優しい声で


 「ようやく会えたな、ミーシャ。待ってろ、今仲間と一緒にここに戻ってくる」


 「会長、今の俺では金が足りん。予約したい、三時間後に再びここに戻ってくる」

 

 すると商会長は売れしそうに、「待っております」とだけ言った。


 銀髪の男が急いでその場を離れると、商会長はウキウキしながら

 

 「ようやくお前らのご主人様が見つかったな、よかったじゃないか?」

 そう言った。


 おかあさんは息を吹き返したかのように目に輝きを取り戻して、わたしを抱きしめた。


 「私たちようやく解放されるのね」


 わたしにはその言葉の意味も、銀髪の男の存在も知らなかった。


 そんな時だった。


 奴隷商にまったくもって似つかない、坊ちゃんが入ってきた。


 坊ちゃんはわたしたちがいる檻を見つけると、目を丸くして傍に駆け寄った。


 「君かわいいな!そこのおじさん、僕がこの人たちを買ってやる」

 

 商会長は少し困った顔をして、「買い手が見つかったから売れないと」だけ言った


 「金を積めばいいだろ、そうだな…50000出そう」

 

 そう言うと商会長の目は完全に金の目になり、あっさりとその坊ちゃんに買い取られた。


 おかあさんは不安そうな顔をしていて、それにつられてわたしたちもとっても暗い表情をした。


 でも、わたしたちはその後呆気にとられた。


 なぜならわたしたち六人はその坊ちゃんの指示で、奴隷になるよりも前の生活よりはるかにいい待遇をうけた。


 わたしたちはそれぞれ従者としての役割を与えられ大変に感じることもあったが、それでも今までと比べれればはるかにいい生活を送れていた。


 それから二年ほど立った頃、私はあの頃の坊ちゃんの専属の従者となっていた。


  「坊ちゃんにあの場所で買われてから、もう二年近く経ちましたね」

 

 と私が大人ぶって言うと、坊ちゃんはきょとんとして


 「そうだっけ?もう遥か昔のことだと思ってたよ」


 坊ちゃんはあの日会ったことも、私たちが奴隷だったことも、もうさほど覚えてはいなかった。普通ならひどいと思ったりするのだろうけれど、私をあの時の奴隷と思われるより彼の従者である私と思ってくれたのがうれしかった。


 私と坊ちゃんはあれからとっても仲良くなった。私と四歳しか離れてないけれど、坊ちゃんは将来のためと言ってあらゆる勉学に励んでいた。


 991年の忤の節、夏の終わりと共に私たちの日常は終わってしまった。


 それは991年に起こった大災害『大地の神の怒り』がきっかけだった。


 その地震でお屋敷は崩れ去り、お国もメチャクチャになってしまった。


 お屋敷の持ち主、つまり坊ちゃんのお父様は大変お怒りになって、あろうことかこの地震が起きたのは私たちエルマベの血を引く獣人だといい始めた。


 もしそのまま行っていれば私たちは、処刑か再び奴隷商に売り渡されてしまっていたでしょう。


 しかし、坊ちゃまはその時本当にお怒りになってお父様に直談判したらしい。


 そして坊ちゃまが抗議した結果、私たちは坊ちゃまの家と深く関わりのある家に行くことになった。


 その家は現在従者も誰もいない旧帝国側の家で、地震の復興もできないと人材を欲しているんだとか


 坊ちゃまと離れるのは悲しかったけれども、死んだりまたあの日々が蘇る思うとそんなことも言ってはいられなかった。


 でも、そこから始まった私たちの地獄は…

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