戦いの風跡、暗雲の気配
「これでもう大丈夫だと思うけど…」
「サンキュー救代、一応恩人でもあるんだ」
スクヨはルドラスの腹に空いた傷を、たちまち治した。
オーリたちが逃げたすぐあと、スルマはクルメなどの自身の冒険者仲間を呼んだ。
スルマが呼んだ者達の中には、ソウスケ達も見たことがないものたちがいた。
「それが今の仕事仲間か?」
「今日までのな」
スルマの仕事は、30日目までの警備だった。
建国記念日を控えると国の警備は様々な要因で少し手薄になる、そこに冒険者や金で雇われたものが警備にあたるのだ。
31日当日は国の警備が一番強固なものになるときで、その日になってしまえばスルマたちの仕事は終わるのだ。
スルマは事情聴取を受け、辺りの法王国の兵もルドラスも共にモレウベリアに襲われたと説明した。
「モレウベリア…聞いたことねえな。そんなふざけた連中がここを荒したのか」
警備の冒険者達も『モレウベリア』の名を知らなかった。
「そもそも、法王国の者がなぜここに?」
誰もが先に出た疑問を、最初に口にしたのはクルメだった。
しかし誰も事情を知らず、一旦その場で解散となった。
ルドラスを一旦ソウスケの泊まっている宿の一室に運ぶと、ラスレは驚いた顔をした。
「どうしたんだ!いったい何が?」
しかし周囲の顔を見て、しまったと思い口を閉じた。
その後ソウスケ達五人は、食事に出かけた。その道中でクルメは興味深そうな顔をして、ソウスケにモレウベリアのことを聞いた。
すると後ろの方でラスレも、興味深そうに聞き耳をたてていた。
「一人はものすごく速かった、細長い剣を使ってて…いや剣っていうより刀に近かった。それで、なんだかよくわからないけど不思議な感じがしたんだ。あと、顔を覆い隠すほどの仮面をしてた」
「もう一人は、でたらめに強かった。風を飛ばしたり、馬鹿みたいにでかい武器を振るったり…正直なところ怖かった」
思い出すだけでも身の毛がよだつソウスケは、暗い表情をしていた。
「ソウスケがそこまで言うなんて、それに法王国の兵も無残に殺されて、モレウベリア聞いただけでも恐ろしいね」
ラスレも他人事では済まないと感じたのか、かなり真剣な表情で危惧した。
「付け加えるなら、モレウベリアはまだ仲間がいるはずだ」
スルマが横から話に入ると、
「飛行船を操ってたってやつか、あいつらの目的は一体何なんだ?」
「どうして…なんでルルを…」
ソウスケが悔しそうにそう言うと、前で顔を見せないで歩いていたスクヨの顔が少し落ちた。
一方その頃、アイテラガ公国にモレウベリアの話が入ってきていた。
「モレウベリア…モレウベを未だに名乗るとは執念深いやつだな」
窓から暗くなったアラカンの町を見下ろしながらそう呟いていたのは、ダリオン・テンハイト・アイテラガ。この国のトップ、アイテラガ公爵であった。
彼は少し大きすぎる腹と、もう髪が生えてくる気配のない頭を気品のある服でごまかしたような服装で『モレウベリア』の名を口にした。
「ダリオン様。法王国の司教や兵に関しましては…」
割とかっちりした服の従者がダリオンに尋ねようとしたが、ダリオンは話半分に遮り
「法王国の人間は好きにさせとけばよい、彼らにはあらゆる支援を受けている。彼らの行うことのすべてに私は目をつぶるさ」
ダリオンは軽く返すと、従者の方を向き
「アイムはどうしている?」
っと、悪い顔でそう言った。
「今頃は路頭で迷っているかと、よいのですか?このような時期に勘当など…」
いやみったらしく従者は言うと
「あいつはこれまでも、ずっと私の顔に泥を塗ってきた。それだけじゃない、『私が老いたら、僕がこの国を背負います』なんて宣った。あいつにこの国は渡さん、ここは私の国だ。来年に来たる千年祭に向けて、私が此処をアイテラガ王国にしてもいいな」
高笑いしながらそう言った。
従者もその横で、口を隠しながら小さく笑った。
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ここはアイテラガ公国の外れ、その場ににつかない気品のある服装をした男がふらふらと歩いていた。
ここはどこだ?そう遠くも来ていないか…
まだお屋敷がうっすら見える。僕はどうしたらいいんだ。
そんなことを心の中でつぶやいていると、一人の男とぶつかった。
「前見ろや…あ!すみません。アイム様とは思ってもいなくて、どうかお許しをアイム様」
男はアイムの服装を見るや否や、血相を変えて謝った。
「いいとも、それにこの身はアイテラガを勘当されたものだからな…」
元気なくそう言うと、男は急に頭をあげほっとした顔をしながら
「ならこんなに深く謝る必要もなかったじゃねえか、アイム様…いやお嬢さんが、お前は一人じゃ生きてけねえよ。これは忠告だ感謝しな」
「忠告感謝する」
男は舌打ちしてその場から去ると、その言葉に凍頃を少し痛めてその場に座った。
一人じゃ生きていけない…か、そうかもしれない。
僕はどうしたらいいんだ、暗い表情でいると遠くから何かが光ったように見えた。
「なんだ?」
光の方へ歩いていくと、そこには血まみれの死体が重なっていた。
臭いな、それにこの死体は西方の法王国のものじゃないか!
一体ここで何が?
目線を下に向けると、光輝いた板があった。
これはなんだ?板?
おそらくこの男の持ち物だろうか?
偶然アイムが手にしたのは、ラクが持っていたソウスケのスマートフォンだった。
画面に何か映っている?
『総助、18歳の誕生日おめでとう。このビデオを見てる頃には私たちはいないかもね…』
そんなものが続いた。
ソウスケ誰だろう?それにしてもこの女の人かわいいな
そんなことを思いながら、スマートフォンのフォルダをひたすら見た。
そこでアイムは一つの結論を出した。
「そう言うことか…今すぐソウスケ君に会いに行かなくちゃ!」
アイムはそう呟いて、町に駆けて行った。
~~~
ここはモレウベリアの乗る飛行船の中、オーリは担ぎ上げたルルを下ろして遠くに声をかけた。
「ウーゲーツ!このガキンチョ治せ」
すると遠くから
「今操縦やってんのにそんなこと言うなよ、後にしてくれ」
「死ぬかの瀬戸際だ、早くしないと逝っちまうぜ。自動操縦にすればいいだろうが」
疲れた声でオーリは言うと
「自動は揺れやすいんだ、わかるだろ?僕は嫌だね」
離れたところで言い合っていると、コツコツとセツが操縦室に向かった。
「ウゲツ、俺が操縦するよ。お前は彼女を頼む」
「はあ、うまく操縦してよ?」
ウゲツの背を優しい声でセツは送った。
「まったく僕の力を求めるとは、オーリも随分素直になったものだねぇ~」
そう言って現れたのは、青いかっちりした服に黒いボトムを着た紺色の短髪の男だった。
「早くしろってんだ」
「はいはい」
ウゲツはそうつまらなそうに返事して、ルルの体を癒した。
「相変わらず、すげえ治癒力なもんだ」
オーリがそう褒めると、ウゲツは少し調子に乗りながら
「これでも、モレウベでは一番の治癒の使い手だったんだよ。そういえば、例の仕込みはできたのかい?」
「まあな、明日にはいい知らせが届くさ」
すると『まもなくクレイ半島だ、着陸準備をする』っと機内全体にセツの声が響いた。
「思ったより早かったな」
「クレイ半島…例の英雄の遺産が残ってるかもしれない幻の島。この飛行船がなければなかなか行ける所じゃないね」
オーリとウゲツは操縦席に向かうと、闇に隠れながらもわずかに見えるクレイ半島を見下ろした。
「さっさと回収してミッションコンプリートと行こうぜ!」
オーリはテンションを上げながら騒いだ、ウゲツはクワっと口をとがらせ嫌な顔をした。
「クレイ半島…300年ぶりか。」
セツは小さくそう呟いた。




