動き出す刻、止まった人々
緧の節21日目の朝、今日も今日とで俺達は働く。
あれから一月ほど経ったけれど、サリの情報はおろか他の情報さえ入ってこなかった。
理由はこの建国記念日にある。
十日後に行われるこの建国記念日は、ここアイテラガ公国だけの建国記念日ではなく、その他の1000年前に五大英雄たちが建国したすべての国の建国記念日であるため、あちらこちらで祝い事の準備で手いっぱいだったんだろう。外からの情報は、全くと言っていいほどに入ってこなかった。
「そこ手伝ってくれるか?」
「りょうかーい」
俺は塗料を救代に渡し、その他の荷物を運んで、そんなことを繰り返した。
「おつかれー」
スクヨはソウスケに水を渡しながら現れた。
「救代ちゃん力強くなったな、いつの間にか塗料を両手で運べるようになってるし」
そう言うとスクヨは少し首を傾げた
「私も驚いたんだよね、角居君の方がすごくなっちゃったけどね」
スクヨはたははと笑った。
俺たちはこの世界に来てから、日に日に強くなっているように感じる。今では大きい木材を人の手で借りることなく運べるようになったし、人一人運んで移動することくらい造作もないくらいになった。
この力があれば俺の望みが叶うかもしれないと思うと、俺は少しだけ嬉しくなった。きっとこれもパレードの準備のために馬鹿みたいに重いものを持ち続けたおかげだと思うと、案外俺のためになる一か月だったのかもしれない。
「よし、続きをやるか」
腰を上げ仕事場に戻ろうとしたとき、路地の裏で小さく声を頑張って押し殺したような声が聞こえた。
俺たちは息をのみ、少しづつうごめく影に近づいた。するとその影は動くこともなく立ち止まった。
「君は... 」
覗き込むとそこには、腹部からかなりの出血をした子供の獣人の姿があった。
ソウスケは体をゆすってみるが反応がない、ソウスケはスクヨに頼みその獣人をスクヨの力で治した。
その後ソウスケとスクヨはその獣人を抱え、スクヨの部屋に連れて行った。
それから30十分経った頃
「???」
獣人は分が今どこにいるか分からず困惑していた。
「起きた?大丈夫怪我は治したから」
スクヨは優しく言うと、獣人は困惑の表情のままベッドでうずくまった。
スクヨは少し大人ぶった表情をして近ずくと、毛布越しに獣人を撫でた。獣人にとっては案外悪い気がしなかったのか、少しづつ顔を出した。
「おねーちゃん、なんで助けてくれたの?」
毛布から出てきたのは、何ともかわいらしい顔をした子供だった。
「私は怪我をしていたから助けただけ。私、救代っていうの。あなたは?」
「あたしはルル。助けてくれてありがと」
ルルは軽い感謝を伝えた後、何か思い出したかのようにスクヨの方を向いた。
「ねえ、あいつ見なかった?怖い男、あたしを殺そうとしたやつ」
ルルの表情は恐怖に満ちていた。
「誰かにやられたの?」
「うん。黒色の服を着た怪しい男、そいつにママみたいに使うとか言ってきて...」
ルルは再び黙り込んだ泣き出した、すると声を聞きつけたソウスケが部屋に入ってきた。
「大丈夫か!」
ソウスケはスクヨを心配し部屋に、飛び込んできた。
「誰?」
ルルは警戒し、再び毛布にもぐった。
「大丈夫、彼は私よりずっと優しいから」
そんなことをスクヨは言うと、毛布からひょっこりと顔を出した
「あたしルル」
「俺はソウスケだ、よろしくなルル」
ソウスケとルルはそこでお互いに握手をすると、ソウスケはルルに何があったのか事細かに聞くことにした。
どうやらルルはこの町の有力貴族の一人に仕える奴隷だったそうだ、ある日母親とそこから逃げ出した時に母と別れてしまったらしい。
だが、先ほどのルルが言っていた言葉が本当なら母親はもう...スクヨはそんなことを思いながらはルルの方を見た。
「スクヨ、ルルを匿おう。そして追っ手を追い払ってそれから..」
何か言いかけたが、ソウスケはぐっと堪えその後は言葉を濁した。
その日から救代と俺の間だけの秘密ができた。俺はなんだかその事実が少しうれしかった。
緧の節24日目の昼、ソウスケとスクヨはこっそり宿に戻ってルルと三人でご飯を食べていた。
「やっぱりなんだけど、こっちのパンってちょっと硬すぎないか?これじゃあ食べにくくって仕方ない」
この世界のパンがすべて硬いわけではない、ただ時間が経って硬くなっただけなのだ。因みにこれを「パンの老化」と呼ぶ。
ソウスケは老化したパンに悪態をつきながらも食べた。しかし、スクヨの反応は少し違っていた。
「もしかしたら私たちの力でどうにかできるんじゃない?」
ソウスケが首をかしげていると、スクヨはパンに〈光〉をかざした。
するとパンはたちまちホクホクになり、それはまるで出来立てのパンの様だった。
「俺たちの力って、意外と何でもできるのな」
ソウスケがそう感心していると、廊下からラスレがソウスケ達を呼んだ。
「ソウスケ、スクヨ午後の仕事始まるってさ」
ソウスケ達は慌てて部屋の外に出ると、そこにいたのはラスレだけではなかった。
「やあ二人とも、日のあるうちに会うのは久しいね」
「お前たちがこそこそやっていると聞いてな、まったく今度はどんな面倒なことに手を出した?」
意気揚々とするクルメに、半ば呆れが混ざったような顔をしたスルマの姿がそこにはあった。
ソウスケはしまったと顔にして、事の顛末を三人に話した。
「またか...今度はお前の命がないぞ」
「今回に関しては源須流真君と同感だ、角居総助君、君は死にたいのかい?」
「僕も今回はやめた方がいいと思う。」
三人の意見は一律して反対だった。
「でもさ、奴隷なんてそんなことが許されていいわけないだろ。俺はあの子を助ける、絶対に」
ソウスケはルルのいる部屋をじっと見て言った。
「でも君の話から察するに彼女の親はもうとっくに…」
クルメがそう言いかけると、ソウスケはクルメの口を押さえ宿の外へと連れて行った。
「あのなあ、もうちょっと場所を考えろって、ルルが聞いたらどんな顔すると思ってるんだ」
クルメは少し反省してそうな顔で、ごめんと口にし自身の仕事場に戻っていった。
スルマはソウスケの耳元で何かをささやき、その後スルマもクルメの後に続いた
ソウスケは疑惑の顔をして空を眺めるのだった。
その日は少しだけ風が強かった。
ソウスケは店の飾りつけの手伝いをしていた。するとそこに
「こんにちは!」
元気よく声を張り上げた声の元の方へ向くと、どこかで見た格好の男がいた。
「こんにちは!スミイソウスケさん。覚えていますか?ラクです」
そこに立っていたのは、あの時よりかは顔色のいいラクの姿があった。
「あんたラクか!?リーエレの人達は元気か?」
ソウスケは久しぶりあの町の名を口にした。彼にとってそれだけあの日のことは忘れられないのだろう。
「ええ、皆さん相変わらずやってますよ」
ラクが笑顔で答えると、ソウスケはほっとした顔をした。
「何か用事があったのか?」
ソウスケがラクに聞くと、どうやらギルド同士の人材交換で来たそうだ。
「最近この町で暴れている獣人を見た、という情報がありましたが大事無いですか?」
ソウスケはあの町の誼と思いこの町で起こったことや、けがをしていた獣人のこと、そして黒い靄のことを話した。するとラクは少し考えこみ、何か決めたようにソウスケの方を見た。
「少し上に掛け合って、獣人のことを調べてみようと思います。貴重なお話、ありがとうございます」
丁寧にラクは言うと、そそくさと店から出て言った。
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アラカンの町を一望できるほどに高い監視塔に、怪しい影が二つあった。
「ようやくだ、999年目を迎える各国と、欺瞞に満ちた公国、そのすべてを佳境に突き落とすことができる」
白銀の長い髪をたなびかせた男はそう呟く。
「公国もまさかこんな嘘がまかり通っちまうなんて、あの頃考えてもなかったと思うぜ」
がたいのいい男は、監視塔の見張りの首を掴みながら現れた。
「過去の罪をすべてエルマベにかぶせるだけでなく、自らを英雄の子孫だと偽る奴ら。愚かだと、そうは思わないかオーリ」
白銀の髪の男がそう言うと、オーリと呼ばれた男は掴んだ人の首を放し気絶させ、町を一望した。
「変わらねえな人も、あの日から何も学んじゃいねえ。だから俺達みたいのが現れる」
オーリはポケットから仮面を取り出しつけると、監視塔を下りて行った。
「そうだ、お前たち人は300年前から変わってなどいない。モレウベを我々は忘れない、我々モレウベリアが絶対に」
男も仮面をつけて、監視塔を下りて行った。
今日の風は彼らを巻き込むように吹いているのか、彼らが姿を隠すとぴたりとやんでしまうのだった。




