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冴えない僕がモテているわけ

作者: ふじきど



  初めに断っておくと、僕はどこにでもいる様な太っちょ眼鏡である。

 学校の制服は少しキツくなっているし、ベルトは最大まで緩めても若干苦しい。

 こうして最初に断っておいたのだから、

 容姿について文句を言うのは止めてもらいたい。


 そんな僕はいつものように学校に向かい、席に着く。


 教室の一番後ろの窓際の席、

 マンガやアニメだったら主人公が座る席なのだろうが

 ここは席替えでたまたまなってしまったのだから仕方ない。


 いつもと変わらない授業を受けて、

 いつもと変わらない午前中を過ごす。


 ──そして、〝彼ら〟はいつも通りにやって来た。



  「よォ、芋澤くぅ~ん?今日も立派な腹してんなァ~?」

  「あッははは、言えてる~!そのお腹の中何が詰まってるの~?」



 席に近づいてきたのは学校でも名の知れた2人組、

 残念ながら悪い意味で名の知れている2人組だった。


 そしてさらに質が悪いのは、2人の親がそれぞれこの町の

 有力者だということだ。

 教師は2人の素行を当然知っているが、見て見ぬふりをしている。

 クラスメイト達も彼らの悪行を知ってはいるが、

 誰1人として咎める者はいなかった。



  「今日の放課後さぁ、また家庭科室に来てくんない?

   3人でさぁ~、お勉強しようじゃねぇかよ~」

  「それマジウケる~、アタシも混ぜてくんない~?」



 こちらに枝垂れかかるように話しかけてくる2人に、

 僕はいつも通りに頷くしかない。


 周囲は巻き込まれないようにと遠巻きに眺めるだけで、

 誰もこちらと目を合わせようとはしなかった。



  「よっしゃ、そんじゃあ放課後な~!待ってるからよォ~!」

  「楽しみにしてっからね~!」



 2人が去っていくと、教室にホッとした空気が流れる。

 僕はいつも通りの光景にため息をついていると、

 1人のクラスメイトが近寄ってくるのが見えた。



  「芋澤君、大丈夫だった?

   ごめんね、私も遠巻きにしか見てられなくって……」

  「いいよ、別に」



 あっさりとした返答をして、ぶっきらぼうすぎたかなと相手の顔を見ると

 彼女は目を潤ませてこちらを見ていた。



  「……うん、芋澤君がそういうなら。

   何かあったら教えてね、力になれるかわかんないけど……」



 そう言って、クラスメイトは自分の席へと戻っていく。

 僕はその後もいつも通りの午後を過ごして、放課後に家庭科室に向かった。



  「よォ、約束通り来てくれたなぁ」

  「んじゃあ〝いつもの奴〟、始めるしかないっしょ~!」



 2人は僕に向かって手を差し出してくる。

 僕は差し出された2人の手に──




 エプロンとバンダナを渡した。



  「いよっしゃぁ!マジで今日はよ、お前の舌満足させる

   最高のとんかつ用意してやるからなぁ!!!」

  「アタシは超美味いストロベリーサンデー用意してんだかんね!!

   美味いもの詰め込んでるそのお腹、今日こそペコちゃんにしてやんよ!!」

  「そういう事は実際に美味しいものを作ってから言ってくれないかな?

   もう焦げや生焼けのトンカツは食べたくないし、脂っこいだけの

   サンデーもどきは見るのも嫌なんだからさ」

  『そ、そんな昔のこと言うんじゃねぇし!!』



 2人との関係が始まったのは、入学してから半年した時の

 合同家庭科実習の時からだ。

 

 その日、2人は珍しく登校しこれまた珍しく授業に出ていた。

 自信満々で2人が用意したのはトンカツとストロベリーサンデー、

 素人目で見ても良質なお肉と新鮮なイチゴが揃っていたにもかかわらず、

 出来たのは揚げすぎて黒焦げになった何かと

 脂肪分が分離するほど投入されたアイスの見た目をした、

 イチゴでも相殺できない油の塊だった。


 そして僕は、それらを食べてただ一言こういうしかなかった。


 

  「こんな出来損ない、食べられないよ」



 当然突っ掛かられたので2人の口にも料理の名を関した毒をぶち込むと、

 顔を青くして黙り込んだ。

 

 その様子を見て折角の合同家庭科実習が悪い思い出で終わるのも

 可哀そうだと思い、まだ時間も材料も残っていたのですべてひったくって

 トンカツとサンデーを用意した。


 一口食べた2人の顔は、今でも忘れられない。

 生まれて初めてご馳走を口にした子供のように、

 僕の作ったトンカツもサンデーもペロリと平らげてしまった。


 以来、負けじ魂に火を点けてしまったのか。

 こうして放課後に家庭科室に集まっては最高に美味しいトンカツと

 至高のストロベリーサンデーを食べようと、

 禁止されているはずの食材持ち込みまでして

 僕に作り方を習っている最中、というわけである。


 人に教えるからには生半可なものは作れないし、

 最高の物をお出ししなければと調べ物をしていたら眼鏡が必要になり、

 試作品を食べていたらすっかりたるみ切った体になってしまった。


 しかしその分納得のいくものを作れるように、そして教えられるようになった。

 だから僕は、努力の結晶であるこの体形に文句をつけるつもりはない。



  「これでも上手くなってきたんだぜぇ?

   親父は『警察署長を継げば将来一生安泰だ』なんて言ってくるけどよ、

   こうやって極めてくると客に出してみてぇんだよ!!

   そんで誰もがここのトンカツは最高だって言える店を

   出してみてぇんだよ!!」

  「それシンパ感じるわ~!アタシも将来はサンデーとかパフェとか

   こだわりまくった、アタシだけのカフェを出したいんだよね~!

   芋澤ちゃん、コーヒーにもこだわれば絶対客は入るって言ってくれたし!」

  「ここ最近のお店の傾向を見ていると、

   一点に特化したお店が流行っているみたいだしね。

   今のままじゃまだお客さんに出せるレベルじゃないけど、

   このまま極めていったら日本一のお店になる可能性は

   十二分にあるよ」

  『マジでか~!?』



 2人は手を取り合いながらはしゃいでいる。


 ──本当のことを言うと、そこらのチェーン店相手なら

   確実に勝てるほどに、2人の料理の腕は上がっている。

   

 でも今も言った通り、日本一の店を目指すならまだ足りない。

 でもそれだけのポテンシャルは確実に2人にはあるのだ。



  「それにしてもよォ~、こんな良い奴なのによ?

   なんで芋澤の周りには人が居ねぇんだ?」

  「それマジで謎だよね~、いつも石鹸の香りがしてるし?

   ただ美味いもの詰めこんだお腹してるってだけじゃん」

  「2人がそういう本性を周りに見せないからだと思うよ?」

 


 話してみたら人懐っこい性格だというのに、

 2人が誤解されたままクラスにそういう奴らだと認識されていることを

 どうにかしようと話してみたこともあるが、

 「芋澤君、無理しなくていいよ?あいつらのこと持ち上げる必要無いって」

 と言い返されてそれきりだった。


 

  「アタシだったら今の芋澤と付き合えって言われたら、

   普通にうんっていうけれどね~?料理上手い男とか最高じゃん!」

  「だよなぁ~?太っちょの作る料理に不味いものがあるわけないんだよな~」

  「誉め言葉として受け取るけど、それ他の人に言ったらだめだよ?」



 なんでだろうな~と首を傾げる2人を見ながら、

 冴えない僕が2人にモテているわけは何かな、なんて

 柄にもないことを考えながら、僕もエプロンを付けたのだった。






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