08 今日は、潜入工作か~
俺こと敏腕エージェントは、今、潜入工作中だった。
仕事の内容は、こうだ。
『敏腕エージェント、緊急依頼だ。大臣の〈めがね〉を盗んでくれ。大臣は、戦争強硬派だ。今日、議題に出すだろう。そこで、重度の老眼である大臣の〈めがね〉だ。大臣は、特注品の〈めがね〉がなければ、文字が読めず、今日の会議を欠席するだろう。頼む。明日には、戦争ができないように根回しが終わるだろうから、今日だけ時間を稼いでくれ』
ふう……。母国の足を引っ張る依頼か。
気が引ける。
しかし、なんで戦争なんかしたいのかな~。
敵国もそうだったけど、俺には理解できないよ。
愚痴っていても、時間の無駄だ。
俺は、大臣宅へ潜入した。
(大臣は、出勤前に朝風呂に入るのは確認済。狙うのであれば、大臣が風呂に入っている時間帯だ)
俺は、屋根裏を進んだ。
――シャー
シャワーの音がする。ここだな。
隙間から、大臣を確認するが、湯気で見えない。
だが、今回の任務は覗きじゃないんだ。
それに、デブの大臣の裸を見て喜ぶ趣味を、俺は持ち合わせていない。
若い女性なら、喜んで覗くのだが……。
俺は、隣の部屋の屋根裏に移動した。
隙間から、覗くとバスローブ姿の大臣がいた?
(誰が、風呂に入っていたのだ?)
そう思っていると、誰かが部屋に入って来た。
(エージェント鳥!? ハニートラップか?)
「むふふふふ。君は優秀な上に、その美貌だ。秘書として申し分ない。いや、君以上の秘書などいないよ」
「まあ、お大臣様。行き場をなくした私を引き取ってくれたのは、貴方様じゃないですか。なんでもしますわよ」
おいおい……。おっ始めやがった。
これから会議じゃないのか?
とても短い一回戦後、再び風呂に二人して入り出した。二回戦なのか、体を洗っているのかは、確認しない。
それよりも、大臣の〈めがね〉の位置を確認した。
だが、今動くと鳥に察知されてしまうだろう。彼女が、味方か敵かが分からない……。
組織も、事前に教えておけよと言いたい。
その後、身支度を整えて、大臣と鳥が出発した。
〈めがね〉を忘れて……。
俺は、〈めがね〉を回収して、撤退した。
◇
会議では、大臣が失態を犯した。まず、〈めがね〉を忘れて文字が読めなかったのだ。それと……、とても疲れており質疑応答に精彩を欠いた。
こうして、戦争の回避がなった。
いいんだよな、これで?
つうか、俺はなにもしなかったことになるんだけど……。
エージェント鳥の考えが分からない。わざと大臣に失敗を侵させたのか……。
それとも、本当に大臣の愛人になっているのか……。
そうだ、組織に問い合わせてみよう。
通信を送ったら、すぐに返事が返って来た。
『敏腕エージェント、助かった。礼を言う。それと、エージェント鳥だが、組織が処分しようとしたところを大臣が拾ったのだ。今は、大臣の愛人と考えた方がいいだろう。だが……、もしかしたら助けてくれたのかもしれない。今後も、彼女の動向に注意を向けてくれ』
生きていたのも驚きだけど、政敵の懐に潜り込んでいたのか……。
組織もなにしてんのかな~。
もし、俺の居場所が割れたら、殺しに来るじゃん?
「ふう~。また引越しかな~。敵国の方が安全かもしれない」
「あら? もう、王族の一員なのですから、移動制限がかかりますよ?」
俺の独り言に、妻が反応した。
もうね、王様からも皇太子様からも、無茶な依頼が来るのよ。
毎日、緊張の連続で胃が痛いのよ。
平穏な日常を送りたいものだ。
◇
こうして、今日もこの国の平和が護られた。
敏腕エージェントの活躍は、終わらない。後日、女エージェント数人に命を狙われたのは、別な話だ。
終わりが見えない戦いは、今後も続いて行く――かもしれない。