おそるべし☆異世界人の馴染みスキル
華は小さな丸いロウテーブルを囲む2人に無言の圧を送る。2人はどうしたものかと困惑の表情を浮かべていたが、やがて聖女リーサが口を開いた。
「華さまに私の力が効かないとなると、本当の事をお話するしかありません」
「どうぞ」
「私達は……ロザリア王国にあると伝えられているルダスリクを求めて約1年旅をしてまいりました。ロザリア王国の再建にはルダスリクが必須だからです」
「………」
「この男は私と共に旅をしていた王宮付きの騎士ケントです。ケントはナルタタンの使い手です。彼なくしてルダスリクのペイヤーは発動しません」
「………」
「話が少し逸れてしまいましたが、とにかく私達は旅の果てに遂にルダスリクを発見したのです。ところがルダスリクを守るザイナンがペイヤーの発動を邪魔してきたのです」
「………」
「ザイナンとの戦いの中、ザイナンの波動に私が呑み込まれそうになったところを、このケントが護ってくれました。その時にケントがルダスリクのペイヤーを発動したのですよね?」
リーサがケントに確認すると、彼は小さく頷いて話をバトンタッチした。
「リーサ様と共にザイナンの波動に吹き飛ばされてルダスリクに激突するところでしたので、これ幸いとペイヤーを発動させました。その結果、ここにたどり着きました」
「私はロザリア王国の聖女リーサ。華さまと出会った直後に記憶を操作する洗脳の力を使わせていただきました。私達の存在を受け入れてもらうために」
「………」
「ところが、華さまには何故か私の力が効かないようです。もしや私がサンダーヤしたのかと思ったのですが…」
「だあああああああああああ!!!」
静かに話を聞いていた華が突然絶叫してリーサの話を遮った。
「何言ってるのか全っ然分かんない!」
「え?!もしや私達の言語が伝わって…」
「違あああああああう!」
何が分からないのか解らないと言った風な顔でリーサとケントは顔を見合わせた。
「言葉は伝わってる!そうじゃなくて、ロザリア王国?…ルダ…?ペイヤー発動…何の話をしているのか全く解りません!!厨二病がすぎる!!」
華は頭を抱えてそのまま仰向けに倒れ込んだ。
(どうしよう…この人達、きっと嘘はついてないんだ。自分達が聖女と騎士だって信じ込んでるんだ。とにかく出て行ってもらうしかない)
ノロノロと起き上がると、華は2人に向き合った。
「話は解りました」
華の言葉に2人の表情はパッと明るくなる。
「良かった」
リーサに至っては涙ぐんでいる。それを見て華は分かっているからと大きく頷いてみせた。
「じゃあ、これから私、晩御飯なので帰ってもらえます?」
「え?」
「あ、おにぎり良かったら持って帰ってください。ラップに包みますね」
華がいそいそとおにぎりを包む用意を始めると、ケントが戸惑ったような口調で話しかけてきた。
「しかし、サユキちゃんが未だ来ていないので部屋に入れません」
華はケントの口から出た名前に驚いて勢いよく彼を振り返った。
「サユキちゃん…?え?ママの事?」
「はい。鍵を持ってくるからココで待てと言われました」
「ん?どういう……」
「お待たせーーー♪」
突然、玄関のドアが勢いよく開かれて華の母、サユキがご機嫌で現れた。
「お布団とか今晩必要な物を必要最低限運び込んでたから時間掛かっちゃった。ケントくん、はい、これ」
何が起きたのか理解出来ずに固まる華を尻目に、サユキは見覚えのあるタイプの鍵をケントの大きな手のひらに乗せた。
「そんな事まで!感謝します」
「いいのよぅ!細々とした物は、明日、華と買いに行くと良いわ。はい!こっちはリーサちゃんの部屋の鍵」
「ありがとうございます。サユキさま」
「もう!リーサちゃん!サユキちゃんで良いっていってるのに。律儀な娘さんね」
サユキに頬を優しく突かれてリーサは嬉しそうに照れ笑いしている。
「あの、ママ?」
「なによ」
「この人達、知り合いなの?」
華の質問にサユキは目を見開いて驚いた。
「まあー!何言ってんの、この子は!2人はルダスリクでペイヤーしたんでしょうが」
「え?何言ってんの?」
「お、ちゃんとおにぎり握ってるじゃない。これ、おかずね。タッパーは洗って持ってきてよ」
サユキは紙袋をテーブルに置くと立ち上がった。
「じゃあ、今後とも宜しくね!」
「ちよっと待って、ママ?!」
華の制止を振り切ってサユキは部屋を出ていってしまった。
しばらく閉じられた玄関のドアを呆然と眺めて思考を巡らせていた華だったが、意を決して恐る恐る後ろにいる2人を振り返った。
「……その鍵って、このアパートのだよね?」
2人はニッコリ笑って頷く。
「部屋が2つ空いていたので、サユキさまの記憶操作をさせて頂いて、住まわせてもらえるようになりました」
「何?催眠術か何か?」
「心配なさらないでください。記憶操作をされたからと言って、精神・身体共に害を及ぼす事はありません」
ただの厨二病だと確信していた華だったが、母親の様子を目の当たりにして、2人への印象が変わってしまった。
「さあ、華さまも一緒に食べましょう。サユキちゃんの手料理の説明をお願いします」
「良い匂いがします」
華は、無邪気な笑顔で嬉しそうに自分を呼ぶケント達に若干の恐怖を覚えた。どういうカラクリかは分からないが、洗脳が出来ると言う彼らの言葉は本当のようだ。実際、華自身も彼らを何の疑問もなく受け入れていた瞬間があった。
「……そうだね。食べよっか」
「あら?この木の棒は何ですか?」
「ああ、お箸だよ。使いにくければフォークもあるから」
「この岩のような物は食べれるのですか?美味しそうな匂いがします」
「唐揚げね。もちろん食べ物だよ」
ワイワイ賑やかな楽しい食卓風景のはずが、華の頭の中は混乱と恐怖で満ちていた。
(もしかして、私の頭がおかしくなっているんじゃあ…)
初めて3人で囲んだ食卓は、何の味もしないまま過ぎていった。
ラブ要素が全く無くてスミマセン。お話が進むにつれてラブ要素が濃くなる予定です。