序章3 幼女の帰宅
「お兄ちゃん! 」
目の前の中年女性が寄ってきて手を握ろうとしてくる。
知らない人だ。
いや知ってるかもしれない。
くたびれた雰囲気になっているから理解が遅れたがマチちゃんだ、妹の友達の。
多分そう。
「マチちゃんだよね? 」
念のために確認したら固まった後返答してくる。
「私のことまで調べてた?
この子供、天才か」
引きつったような半笑いでこちらをみつめてくる。
なるほど、この子にも疑われてたのか。
悪戯の多さに泣けてくる。
なんと返答しようか迷っていると警察官さんが応援してくれる。
「多分、本物だと思う」
「マジで!? 」
脇に隠れていた女性が飛び出してきた。
瀬上初音。
俺の記憶より少し大人っぽくなっているが本物の妹だった。
その後は家族にしか分からないような質問をいくつもされた。
しかし「私の左足にある火傷には聞くも涙。語るも涙な理由が……」ってなんだよ。
テレビを見ながらストーブの上のやかんからラーメンにお湯を注ごうとして
こぼしただけじゃないか。当時は確かに焦ったけど。
ダンジョン変異者と呼ばれている人たちはこの方法で確認をされてるらしい。
確かに容姿が元からすると結構変わる。
僕の場合はダンジョン変異ではないのだが。
家族との記憶を確認するという方法の穴という意味で
記憶をコピーするブレインイーターという魔物の存在を教えたらすごい顔をされた。
逆さになったイソギンチャクみたいなのが脳みそを啜ってコピーすると言ったら
更にすごい顔になった。
姿と記憶をコピーするドッペルゲンガーという魔物がいるよと追加で解説したら
「お兄ちゃんをコピーしてたら幼女になるわけないじゃん」
と笑われた。
確かにそうなんだけど。
ちなみに警察官さんの顔はどっちの話を聞いてもすごいひきつってた。
ダンジョンから出てきたらどうしようとでも思ったのだろうか。
近所の人が偽物かもしれないと考えたらホラー映画のようだものね。
本人確認が終わり帰ることになったので警察官にお世話になった
お礼を言ったら敬礼をされた。
「瀬上秋人さんご帰還おめでとうございます! 」
感じがいい人だったし尋ねて名前を教えてもらった。
村山さんありがとうございました。
帰る時に3人で歩きながら
マチちゃんになんで初音と比べてくたびれた感じになっているのか
聞いたらゲンコツを食らった。
「色々と苦労があったのもあるけど10年の体の年齢の差は大きいのよ。
この年になったら分かるからね」
なるほど、微妙な話題でした。
俺が悪かったです。ごめんなさい。
帰りのフェリーは乗船時間が短いので
急いで食べたけれども本当に久しぶりに食べたうどんは美味しかった。
それはもう涙で前が見えなくなるほどに。
下船後にマチちゃんに車で送ってもらい着いた家で
久しぶりに見た地上の夕日は忘れることはないと思う。
「お兄ちゃん、生き返らせてくれてありがとう」
妹が夕日を見ながら言う。
「任せろ、お兄ちゃんだからな! 」
勢いよく答えた。
ああ、ダメだ。
忘れないと思った夕日がまたよく見えない。
序章はこれで終わりです。
先が気になっていただけたら幸いです。