序章2 科学の進歩ってすげー!
俺は焦っていた。
ダンジョン最深部で願いを叶えてもらった後はすぐ帰還をするつもりだったのが
失敗をしてしまって地上に戻るのに6年以上かかったのだ。
先程までは自分がダンジョンに入ってからどれくらい経ったのか分からなかった。
カレンダーを見て泣きそうになった。
行きが10年。帰りが6年。
体感した時間と比しては微々たるものだがそれでも16年の年月は重い。
目の前の警察官さんが少し信じてくれた風なのが奇跡だと思う。
「フェリーで来られるそうだからテレビでも見て待っててね」
と言われたので奥にあるテレビに近寄る。
正直興味があった。
ダンジョンが出来た頃に地デジが始まったのは知ってる。
液晶テレビも見たことがある。家にあったのはブラウン管だったけど。
記憶が薄くなる程の昔に見た液晶テレビはこんなに薄くなかった。
「WeTubeとかMamazonPrimeも見れるからそっちでもいいからね」
と言われてびっくりした。
WeTubeは最下層で聞いたから知識としては持っている。
ダンジョンをさまよっている間に出来た動画サイトとかいうやつだ。
回線速度と容量から考えると1動画を見るのにすごく時間がかかりそうだと思う。
そしてテレビでインターネットが出来るようになってるなんて思わなかった。
「テレホの時間じゃないけど大丈夫ですか?ADSLです?」
聞いたところなんとも言えない微笑で返された。
今は光ファイバーで常時接続が普通なんだそうだ。
科学の進歩ってすげー!
WeTubeを見てみる。操作に迷ったけど直感的にいける設計で助かった。
いくつも動画が出てくるがそのうちの一つが目を引いた。
というか一瞬思考がフリーズした。
「瀬上秋人です。ダンジョンの真実をお話します。」
馬のマスクをかぶった男が動画タイトルの通りの言葉で語り始めた動画は
俺がダンジョンで見たものとは全く違う出鱈目な物であった。
「ねー! なんですか、これ!! なんで俺の偽物がいるんですか!?
ていうか俺一般人なんですけど!? 」
半泣きで叫んだ俺の頭を撫でながら警察官さんが話してくれた
蘇生事件の話はまた違った意味でショックだったけど納得のいくものだった。
だから疑われていたのね。いや容姿のせいか? 分かんない。
自分の名前を入れて検索したら色んな動画が出てきた。
見るか迷ってると警察官さんがペットボトルのお茶を渡しながら教えてくれる。
「エゴサはね、精神と身体に余裕がある時にした方がいいよ」
エゴサって何です?って聞いたらまた頭を撫でられた。
動画を見る気がしなくなって座ってたら警察官さんが『本当はダメなんだけどね』
と言いながら私物のゲーム機を貸してくれた。
携帯機とは思えない大きい画面になっていたそれに入っていた知っているタイトルは
後ろについた数字が6つとか8つとか増えていた。
「お迎えきたよ」
言われるまで夢中で遊んでいた自分が顔を上げて見上げた人物は……
家族ではなかった。
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