序章 これで成人男性ですと言われても
初小説になります。
文章を書く仕事をしていないのでお見苦しい点があるかもしれません。
巡査は悩んでいた。
ここは小さな派出所。
悩みの原因は目の前の人物のせいである。
「あの、オレ、こんな姿ですが、本当に成人男性なんです! 」
頬が膨らんでいる。
目はうるんでおり今にも目尻から涙がこぼれそうである。
巡査は思った。
説得力がない。無理がある。
自分の常識でいうならばその姿は癇癪を起こす寸前の子供である。
だがそれを否定している自分もいる。
あまりにも必死だ。演技とは思えない。感情がこもっている。
そして容姿。真紅の髪に黒のワンピース。
仕事柄変わった容姿をしたこと会うことは多い。
その色を維持するのは大変だろうという髪色の者と会うことは割とある。
だがこの髪の色は自然に感じるのだ。
根元までムラが一切ない。
手入れの余りされていないプリンのようになった金髪などとはまるで違う。
夜の街に出ればどこで着るのが正解なんだと
悩むデザインの服を着たものと会うこともある。
だが彼女の着ている服は自分の知らない異国の素材と
言われなけば納得が出来ないような光沢のあるものだった。
巡査は悩んだ。
近年こういう自分の意識がもつ普通という感覚とちょっと違った容姿を持つものを見ることがあるからだ。
普段はリアルでではない。テレビの映像やネットの動画。ダンジョン関係。
ダンジョン変異者。
下層と呼ばれる深いところで頑張った人たちの一部がなったとされている。
一時期、毎日のようにテレビで放映されていたエルフの女性や猫耳の男性は見目麗しかった。
少しの間ではあるが実際に会ったことが自慢である。
そして装備品。
ドロップ品と言われるダンジョン内より回収された装備は珍しいデザインの物が多かった。
職業柄一時的に預かったこともある。素人目にも見事な物だった。
黒神ダンジョン前でおきた蘇生者が大量に発見された事件。
ダンジョン内に入ったことが確認されており、
その後、行方不明になっていた者や死亡したとされていた者が複数名、
ダンジョンの入り口にて発見された事件である。
自分も関係した。
黒神に最寄りの派出所はここであり通報があったのだ。
「モンスターがダンジョンから出てきた」
このダンジョンからモンスターが溢れた事例はなかったはず。
緊張しながら慌ててかけつけたさいに見たのは今では蘇生者と呼ばれている人たちと
農家のおじさんがお茶をしてる姿だった。
「話してみたら人間だったわ」とはおじさんの弁である。
怒ってはいない。恨んでもいない。
「世界で初めてダンジョン変異者と話した人間はオレだ」と酒の席でネタにしている。
本当に最初に話したのは変異した時に組んでいたパーティーの人たちだろうし
地上で最初に話したのは通報者だがノーカンである。
黒神ダンジョンの入り口は小さい。
碑石のようなものが立っておりその真ん中に穴が開いている。
入り口のサイズは防空壕とさほど変わらない。
横から見れば碑石であるのに
正面から見れば穴が深く続いているようすは頭がおかしくなりそうだ。
正直に言えば普段はこの入り口からダンジョンに潜る人はいない。
田舎であり人口が少ない。
ダンジョン用の設備もない。
歩けば茶色の看板のコンビニやガソリンスタンドがあるだけだ。
入り口に比例して最初道も狭いためにダンジョンが出来ても発展することはなかった。
大きい入り口の高千穂ダンジョンの方にみんな行く。
あちらは発展した。正直羨ましい。
ダンジョン関連企業と地域がコラボした天孫降臨シリーズなんかはうまくやったものだと思う。
こちらも火の神シリーズとか月讀シリーズとかやってくれないものか。
思考が脇に逸れた。
今目の前の子供が名乗っている瀬上秋人は名が売れている。
この県に住んでいたという記録がある。
蘇った人の共通の知人である。
蘇生された場所が黒神ダンジョンだったのは
そこから入っていったからじゃないかという予想もされている。
名前をBingleで検索すれば
『ダンジョンの最下層に到達したと言われてる瀬上秋人ってどういう人物なの? 調べてみました! 』
などという妙なサイトが引っかかる程度には有名だ。
巡査は悩んだ。
黒神ダンジョン最寄りであるために今までにも
何度か瀬上秋人を名乗る者の悪戯があったのだ。
その中には瀬上氏の年齢からすればこれくらいだろうかと思えるものもあった。
ご家族に確認してもらったところ別人だったが。
それに比較してこれはなんだろうか。
年齢が違う。それ以上に性別が違う。
だが必死さも違うのだ。
悩んだ末に自分の感性に従うことにした。
「じゃあ、確認のためにご家族に連絡するから」
向けられた笑顔はこれを元男性と判断するのは間違いだったかなと
思えてしまうほど華やいだものだった。
なろうで商業化されづらいようなニッチなジャンルを読むのが好きなんです。
先日読んだダンジョンTS配信物が面白かったのですが
その後書きにて書かれていたことがありまして
意訳すると
「好きなジャンルだが供給が少ないために自分で書いた。
自分も見たいから面白く感じたら君も書いてくれ」
という内容だったんですよね。
やってみようと思います。