第54話 魔剣祭28
夜飯を堪能し翌日に備え少し早めに就寝する。
と、その前に現状の整理をしておこう。
現在行われている魔剣祭で俺は優勝しなければならない。
理由は大きく分けて2つ。
1つ目は学園長との約束。
学園長の無駄なプライドで俺は動いている。
正直、こちらは約束を反故にしても構わないと思っている。
2つ目はセレアとの約束。
魔剣祭の開催地であるアルシナ帝国と貴族が通うアルディア学園、この2つの勢力がこの魔剣祭の勝敗で互いの大切なものを賭けているらしい。
そんな大事な賭けに俺は巻き込まれている。
こちらは学園長との約束と違い反故にしたら後々面倒なことになりそうだ。
よって、俺は魔剣祭で優勝する予定だ。
学生同士の戦いに俺というイレギュラーが入るのは申し訳ないが、巻き込んだのは運営側であるセレアだ。
だから俺は罪悪感を感じる必要はない。
明日はグループC、Dの選手が戦う。
そこでセレアが言っていた2代目世界最強の剣士の実力を把握しておこう。
万が一にも俺が負けることはないだろうが念のためだ。
それに、俺を唯一ライバル視していた世界最強の剣士の2代目に興味が湧かない分けがない。
こんな感じで一通り現状の整理を終え俺も就寝する。
「起きろー」
俺の朝は早い。
ロンドの声で目を覚まし、重い瞼を魔力でこじ開けつつ、レインが用意してくれた朝食を皆で食べる。
現在時刻、午前4時。
いや、早すぎるだろ!!
最近、これがルーティンになってきているがいくら何でも早起きが過ぎる。
俺は特別朝に弱いわけではない。
ただ、強くもない。
レインとロンドが異常なまでに朝に強すぎる。
「今日はノアも魔剣祭の観戦に行くよね?」
「ああ、昨日休んだおかげで風邪は完治した」
俺は大袈裟に体を使い元気アピールをする。
「それにしても、俺たちの学院のカリス・エリックってやつ強かったよな?」
ロンドの発言に思わず飲んでいたコーヒーを吹き出しそうになった。
なんせ、カリス・エリックというのは学園長が用意した架空の人物。
その人物は俺であり、俺ではない。
「ノアも見たらきっと驚くよ」
残念なことに俺が観客席にいるという事はカリス・エリックは試合に出ない。
逆にカリス・エリックが試合に出ているという事は俺が観客席に居ない。
つまり、俺がカリス・エリックの試合を見ることは不可能という事だ。
「ああ、楽しみだ。」
何が楽しみなのか自分でも分からないが[会話を合わせる]というのはこの魔法学院に入学して習得したことの一つ。
これは友達付き合いに大切な技術だ。
「今日はグループC、Dだったよね」
「そうだな、魔法学院からはレナってやつが出場するらしいぞ」
「あー、あの人か。確か校内選の決勝を棄権した人」
「ノアはそいつの事知ってるか?」
「少し話したことある程度だ」
「何か、ノアってSクラスの知り合い多くない?」
「確かに、普通Sクラスに知り合いがいるって珍しいからな」
「偶然だ。それに、多いといってもシエラとレナくらいだ。それに、レナに至っては知り合いと呼んでいいかもわからない」
それから俺たちは朝食を食べ終え、そのまま着替えて魔剣祭の会場へ向かう。
「やあ、ロンドにレインそしてノア」
魔剣祭会場には会いたくなかった人物が俺たちを待っていたかのように門の前で佇んでいた。
「「が、学園長!」」
ロンドとレインは少し権力に弱い節があり、学園長を前にして硬直している。
「そんなに緊張しなくていいよ。それよりも、君たち今日も魔剣祭の観戦に来たんだろ?」
「は、はい!」
いまだに2人は緊張が解けていないようだ。
その様子を学園長はニヤニヤと見ている。
なんて性格の悪い人間なんだ。
「じゃあ、今日は3人をVIP席に招待しよう」
「本当ですか?」
「勿論、大事な生徒だしね。強者の戦いを見てしっかり学んでくれよ」
「「ありがとうございます」」
VIP席には他の出場校の学長や貴族がいる。
そんな中、平民であるレインとロンドは雰囲気に飲まれ、ダイヤモンドの様にガチガチに固まっている。
「おはよう」
その声の先にはシエラが居た。
どうやらシエラも学園長に招待されたようだ。
俺はシエラの隣の椅子に腰を下ろし、昨日の試合について語る。
「昨日の試合、俺が言ったことを思い出したようだな」
「そうね、あれを思い出してなかったら負けていたわ。」
実際、シエラの戦った相手は相当の手練れだった。
「とはいえ、明日はノアと戦うと思うと胃が痛いわ。」
「安心しろ、すぐに終わらせるから」
少し悪戯っぽく言ったが、シエラは笑って流してくれた。
「いくらノアが強くても[魔力で見る]を習得した私をそう簡単に倒せると思えないのだけれど」
「一応言っておくが、[魔力で見る]にはさらに上がある。俺はそれも習得している」
「え、聞いてないんだけど!!」
周囲にも聞こえそうなリアクションをするシエラを俺は慌てて制止させる。
「まあ、教えてないからな」
「教えてくれないの?」
本人は無自覚だろうが上目遣いでお願いされたため不覚にも少しドキッとしてしまった。
「そうだな、明日の試合で俺相手に10秒耐えることが出来たらおしえてやるよ」
実際に俺相手に10秒も耐えられないようじゃ[魔量で見る]のさらに上の段階を習得するのは難しい。
才能が無ければ無駄な努力で終わってしまう。
俺はそんな人間は数百とみてきた。
シエラに才能がないとは一ミリも思わないが、もしもを考えてしまって教える決心がつかなかった。
ただ、本人が望んでいるとなると話は別だ。
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