第4話 領地の発展と隣国の蠢動
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この地に封ぜられてから2年が経過した。領地も更に発展している。温泉を目当てに来るものも増えた。最初は少数の傷病兵を受け入れる保養所のであったが、大変よく効く温泉で、兵士たちは元気になって帰っていった。その話を聞きつけたアラワダの町から人が訪れるようになった。
アラワダというのはイマガ王国に対する防衛線として気づかれたアラワダ要塞の周辺に商人達が集まって町ができた、その町の名前である。
軍人が多く駐屯しており、それ目当ての商売が盛んにおこなわれていた。
アタミの地はそこから近く、温泉もあるため、軍人たちの休養場所として多くの軍人が訪れるようになった。
拙者は、アタミの特産品である海の物や山の物を提供する宿屋兼食堂を作った。
すると、遊び女達もやってきた。かの者たちは、集団で移動しながら、祭りや時には戦場にも現れ、商売をしていた。
拙者はアタミにやってきた集団の頭と面会することとなった。
頭の名はリンダと言った。
「あんたがこの土地の領主かい。ずいぶん幼いね。てっきり商売させるから相手をしろとでも言われるかと思ったよ」と笑ってからかってきた。
「すまない、私には妻がいるのでね。不貞はできないよ」と言って笑って返した。
「おや、そっちの用じゃなきゃ、なんでわざわざ私のような女と会おうと思ったんだい」
「実はあなたたちに宿屋兼食堂を任せたいと思ってね。男は何人か雇ったのだけど、人手、特に女手が不足していてね。当然今までの商売をしてもいいけれど、宿の管理や料理の仕事ができる者がいればぜひお願いしたいのだが」
するとリンダはポカーンとした顔をして、「まさか、私たちにまっとうな仕事をさせてくれるのかい?」
「まっとうかどうかはわからないが、宿の清掃、洗濯や部屋の維持管理、食事の用意と配膳、後片付けなどやることは多岐にわたっている。もしできるなら、あなたに女将を任せたい。」
いきなり拝むように土下座をされた。
「ぜひやらせてくれ。いえ、ください」
「ちょっと、座ってください。いきなりどうしたんです」拙者は驚いて聞いた。
「私たちは、みな親の借金や戦争の乱取りで身を落とした女なんだよ。それでも若いうちは、客もついて、それなりに暮らしていけたんだけど、年を取ってお茶を引くようなって店を追い出されたんだ。でも遊び女に落ちた私たちをまともに雇ってくれるところなんかありゃしない。やむなく流浪の身になっちまったんだよ」リンダは涙をこぼしながら続けた。
「それで祭りとか時には戦場まで行って、春をひさいできたのさ。でも一人だと危険だからね。汚らしいものは村に入るなと追い払われたり、祭りでもそこを島にしている連中に袋叩きにされたり。だから同じような境遇の者が集まって一緒に行動しているのさ。でも、飢えに苦しみ、寒さに震えながらの生活だ。病気になったり、大けがしたらそれで終わり。後のない人生をあきらめていた私たちに住む場所と仕事をくれるってこんな機会今回逃したら絶対にない。是非ともやらせてほしい。一生懸命働くよ」
「分かった。それじゃお願いするよ。詳しい条件を詰めよう」
そのあと二人で話をした。リンダが女将となって、女たちや雇っている男たちを差配する。
各々の分担はリンダに任せる。住み込みで、給金は世間並みで領主側が負担するが、利益はすべて領主のものとする。ただし、利益の額によっては、一時金を出す。
以上の条件で、リンダたちを雇用することとなった。男たちはどこから雇ったって?
実は父のコネで、負傷兵のうち、もう戦えない者を紹介してもらっていた。
貴族の将校やそれなりに蓄えがある者は、実家に養ってもらったり、故郷で農地を買ったりして農民として生活できるが、それ以外の兵士や下士官はわずかな退職金で放り出されて、スラムで物乞いをすることになるケースがほとんどだった。
そういう者たちをこちらで引き取って、いろいろ働いてもらっていた。
みな、喜んで働いていた。こちらも労働力の確保ということで、大変助かっていた。
こんな僻地に好き好んで来るものはいないからな。
リンダたちの話を聞いた流れの遊び女たちが領地に集まってきた。
正直人手不足なので、助かった。宿屋や食堂も一件では足りなくなってきたので、そういう者たちに働いてもらった。
まあ、普通に遊び女を続けるものもおり、それはそれで観光の目玉になっていた。
一方で、負傷兵と所帯を持つ者もあらわれ、領地の人口は増えていった。
拙者は更に商品になるものがないか山を探索していた。わが領土は山側に深く伸びており、かなり奥まであった。
何といっても家族を養うために稼がねばならぬ。実はアンが子供を産んだ。男の子だ。
12歳で、一児の父になるとは思わなかったが、家の跡継ぎができたことはとても喜ばしい。拙者も仕事に身が入るというものよ。
まだまだ子を産んでもらい、拙者の家を繁栄させたいという欲望が生まれた。
そのためにも、更なる領地の発展を進めていかねばならぬ。
そういうわけで、山のあちこちを探索していたところ、魔石を見つけることができた。
この世界では、魔石というものがいろいろなところで使われていた。
火をおこしたり、明かりをともしたり、肥料になったりと、その用途は多様であった。
その魔石がわが領内で発見されたのだ。
この魔石を使えば、塩の精算の際、薪を使用しなくても高い火力が得られるし、魔石をそのまま売ってもいい。
早速採掘のため、現地までの道づくりを行った。
拙者の魔法で、木をウインドカッターでなぎ倒し、ゴーレムにより木材を運び、木の根を抜いて行った。
負傷兵たちに整地をさせ、道を作った。
また、鉱夫として負傷兵を雇用した。彼らの世話役として、元遊び女たちを当てた。
我が領地は更に発展することとなるだろう。
人が集まり、物が生産されると商人たちもあらわれた。それら商人たちといろいろ取引をした。中には、領地内に出店を構える者もあらわれた。
それら商人たちから情報を得た。特に隣国のイマガ王国、そして国境を接するホリーコ独立伯の情報を求めた。
独立伯とは、王に形式的に臣従しているが、独立しており、上納金が免除され、軍役にも応ずる必要のない地位である。ただ、王は独立伯に任意に軍の派出を依頼することができるが、強制ではなく、さらに報酬を支払う必要があった。
ちなみに、わが領も上納金免除、軍役免除を得ており、いわば独立男爵というところである。まあ、ホリーコは力が強く服属させるのに妥協した結果なのだが、拙者の方は、貧しく税がほとんどとれない、人もいない土地であったためと、疫病神のように嫌われていたアンの流刑地と考えられていたため、一切この土地や我々と関わり合いになりたくないとして免除されていた。
実際、王都には行くことを我々は禁じられていて、許可されているのは手紙でやり取りするぐらいだった。
その商人たちから嫌なうわさを聞いた。ホリーコは先代がイマガ王国と戦闘や交渉の結果として、独立伯の地位を得たのだが、その息子が我が領地に侵攻しようと考えているそうだ。
先代は、武勇に優れ、交渉力もあり、現ホリーコ領であるイズー半島とその周辺を自らの領土とした英傑であったが、息子の現ホリーコ伯は女や遊芸にうつつを抜かし、取り巻きも追従者ばかりを侍らせ、心ある侍たちから見放されているそうだ。
また、領民たちを高い年貢を取られ、度々無駄な賦役を課せられ、塗炭の苦しみを味わっているとのことだ。
それでも足らず、商人からの借財もたまる一方で、それを平気で踏み倒しているそうだ。
ついには、貸してくれるところもなく、金に困り、繁栄するわが領に目を付けたようだ。
我が領地を侵されてたまるものか、拙者は頭を巡らせた。
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