閉話1 アントワネットの人生とトムとの結婚
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私は、アントワネット、ウエスキ侯爵家に生まれました。
上級貴族の家らしく、両親や兄弟と関わることはあまりなく、召使たちや家庭教師に囲まれながら幼少期を過ごしていました。
私はマナーやダンスのレッスンよりも、統治や産業の振興など治世に関するものに関心がありました。
そのことを両親や家庭教師に言っても、「女はそのようなことを学ぶものではありません」といって、学ばしてくれませんでした。
なので、父の図書館にこっそり入り込み、その分野の本を読んで勉強していました。
12歳の時、社交界にデビューしました。母に王が主催するパーティに出席することを告げられた時は、それまで家の中だけの狭い世界から外に出られることに喜び、あまりの嬉しさに夜も寝ることができませんでした。
これが私の地獄の始まりと知らずに。
初めて出たパーティで、私は当時の王に見初められ、愛妾となるよう求められました。
父は大喜びで、私を王に差し出しました。
私は12歳で愛人となりました。当時王は60歳を過ぎておりましたが、エチゴ王国から来られた正室様とウエスキ公爵家から嫁がれた側室様3人のほか、多くの愛妾を抱えておりました。
愛妾たちは私のような貴族から町娘まで出身身分は多様でした。王は目に留まるととりあえず自分のものにし、貴族には身分や地位、特権を与え、平民には支度金という名で金を与えていました。
そして、飽きると実家に帰していました。
父は、内務大臣の地位といくつかの経済的な特権を与えられる代わりに私を差し出したようです。
私の初めては只々恐怖と痛みを感じただけでした。
王は私を気に入ったらしく、何回も寵愛されました。愛妾たちは妊娠しないよう避妊魔法が掛けられており、私は王の子を身ごもることはありませんでした。皇位継承問題を起こさないための措置だったのでしょう。
4年間、私は王に使えました。時には私だけでなく、複数の愛妾たちを同時に愛されるなど、精力が旺盛な方でした。
そのうえ、精力増進のためと称して、怪しげな薬も服用しておりました。
王にお仕えしている間、唯一の慰めは王家の図書館に出入りできることでした。
本に触れている時間だけが、私の慰めでした。
王にお仕えして4年目のある日、王は私の上で突然息絶えました。
重く苦しいのと、恐怖で助けを呼びました。召使いたちに助け出され、なんとか助かりましたが、とても恐ろしかったです。
王の息子である皇太子が即位し、愛妾たちは実家に帰されました。
父は、私をすぐに某伯爵に嫁がせました。王のお手付きとなった娘をいつまでも家に置いておくわけにはいかなかったのでしょう。
嫁いですぐ、私は服を剥がされ、首輪をつけられ窓のない部屋に監禁されることとなりました。そこに伯爵が通ってきて、とても口では言えないようなことを強いられました。思い出すだけでも震えと吐き気が襲ってきます。
それでも伯爵家の女たちの中では私はましな方だったようです。
複数の女を伯爵は飼っており、その方たちには、私の立場が天国だと思われるようなことをしていたようで、屋敷から女の叫び声と悲鳴、嗚咽が絶えることがありませんでした。
その屋敷に来て3年目の時、伯爵が私に対してとても口に出して言えない人としての尊厳を破壊する行為をしていた時、突然倒れました。
彼はそのまま息を引き取りました。
死亡した時、国から監察官が派遣され、その悪逆非道ぶりが露見し、伯爵家は取り潰されました。
伯爵家の財産のうち半分は国庫に納められ、残り半分はウエスキ侯爵家のものとなりました。
私は再び家に帰されました。2度も夫と死に別れたこと、死の瞬間、私がそばにいたことから不吉な女と言われるようになり、世間のみならず家族からも忌み嫌われるようになりました。
父は、再婚相手を必死に探したようで、70歳過ぎの子爵の後添いとして嫁ぐことになりました。
私のような悪評のついた女を娶るほど、女好きなうえ品行下劣な方でした。
私をおもちゃにして、いろいろなことをされました。前夫の伯爵とは違う方向で、私の人格を貶めました。
顔を合わせるたびに「侯爵家の娘だからって、俺を馬鹿にしているのだろう」「人の精気を吸って生きる淫魔め」といって罵倒してきます。
更に嫌がる私を無理やりパーティに連れて行き、首に「私は淫魔です。男の精気を吸って生きています」と書いた札を掲げさせ連れ歩きました。
そのうえ本来ならスカートは足がすっぽり隠れるものが普通なのに、私にはひざを出したスカートをはかせるという、貴族としては裸に近い格好で、みなのさらし者にしました。
しかし、2年後私を罵倒して興奮していたためでしょうか、ぱたりと倒れて動かなくなりました。
三度私は実家に帰されました。実家に帰った私を待っていたのは、さらなるひどい仕打ちでした。
本宅に入ることは許されず、郊外にある別宅に住むよう命令されました。
数人の使用人がつけられましたが、彼女たちと一切会話することは禁じられ、また彼女たちも私のことをひどく嫌っていて、必要最小限のことしか対応しません。
着るものは姉妹たちの古着が与えられ、食べ物は本宅の残り物が運ばれました。
冷めきったスープに固くなったパンが私の食事です。
それさえもない時がありました。
しばらくそんな生活をしていると、父から結婚するよう指示が来ました。
思わず、笑ってしまいました。こんな私を娶ろうという男がまだいるのかと。
見合いの日、馬車に乗せられ、本宅で、着替えをさせられ次の結婚相手と会いました。
まだ10歳の少年でした。名前はトムと言い、とてもかわいらしい美少年で、それていて話すと大人のようにしっかりとした印象を受けました。
聞くと準男爵家の3男で、この結婚で実家が利益を得られるらしいです。
私の悪評も知っていました。この子も実家の犠牲となるのか、思わず私は怖くないのか聞いてしまいました。
「まったく」彼は即答しました。
「どうして?」思わず私は聞いてしまいました。
「私は戦う者で、死を恐れないからです」と返ってきました。
「あなたは戦士なのですか」こんなかわいい子が戦士なんてと思い、微笑みながら聞いてしまいました。
「はい、私は12歳になったら家を出て、冒険者になるつもりでした。戦いの中で、わが身を鍛え、いずれは領地を手に入れたいと考えておりました」とトム様は答えました。
「トム様はいずれ、領主になりたいとお考えだったのですね」私は考えました。王都にいてもひどい悪評で、私の居場所がない。ならば、この子と一緒に王都を離れるのが、私にとって良い選択かもしれない。話してみて人格的にも悪くないし、なんといっても可愛い少年と二人で暮らせるのだ。そのぐらい父が私にした仕打ちを考えれば、かなえることも可能でしょう。
「それならば、私が少しお役に立てるかもしれません。父にトム様に土地と爵位与えるよう頼んでみます」と言いました。
「アントワネット様、よろしいのでしょうか。私は大変嬉しいのですが、アントワネット様のお立場が悪くなることはありませんでしょうか」と慌てたように言ってきた。
私は微笑んで、「いいのです。私の悪評は貴族どころか平民の方々さえ知っていることです。どこへ行ってもこそこそと噂ばかり。王都から離れて、平和に暮らしたいですわ」と言った。
「あなたを大切にします」トム様は私にそう言ってくれた。そんなことを言ってくれた方は初めてだ。とても感動した。
「よろしくお願いします。トム様」と私が答えたら、「はい」と力強く答えた。
結婚式はとてもとても簡素に行われた。貴族として最低以下のレベルだった。
それでもトム様は「きれいです。アントワネット様」と言ってくれた。
そんなことを言ってくれた方は初めてだ。「ありがとうございます」と小さな声で、返事をした。
「これから私はあなたの妻となります。アンとお呼びください」と私が行ったら、「分かった、アン。これからよろしく」そう言って、トム様は微笑んだ。その顔はまさしく天使のほほえみで、あまりの美しさにびっくりした。
私はすっかり彼に夢中になってしまった。
結婚式の後、私は父に言った。「トム様が治める領地をください。そこで彼と二人静かに暮らしたいと思います」
「領地が欲しいだと!」父はじろりとにらむと、少し考えを巡らしているようだった。
「まあいい。貴様の夫には、領地と男爵位をくれてやる」と言い放つと、さっさと去っていった。
仮の新居は前に住んでいた別宅だった。さすがに食事は多少ましになったが、扱いはあまり変わらなかった。でもトム様との初夜は今までとは違い充実したものだった。
ある時、トム様は父の書庫への立ち入りを特別に許してほしいと父に願い出た。私からも口添えし、父はしぶしぶ1回限りという条件で認めた。
トム様は喜んで本宅に行った。
帰ってくると、一冊の本を取り出して読み始めた。
本を借りてきたのかと聞いたら、「すべて写本を作って、アイテムボックスに入れてある」という。私はびっくりして、「トム様は魔法使いなのですか」と聞くと、「まあ、中級位の力しかないですけどね」と答えた。いや、中級レベルあれば、どこに行っても魔導士として引っ張りだこだし、さらに聞くと、いくつもの属性が使えるとのこと。
そうなると、国の専属魔導士として、強制的に徴兵されることになるはずだ。
話を聞いていくと、どうも剣の腕は騎士団で練習していて、かなりのレベルだったそうだが、3男ということで、身を引かされたらしい。魔法は使う機会がなかったとのこと。
まあ、この魔法の力が国に知られたら、間違いなく徴兵され、前線送りでいいことないだろうから、黙っているようにトム様に言ったら、素直にうなずいた。
本当にトム様はとてもかわいい。素直で、性格もよく、そして私のことを愛してくれる。
私は、トム様が大好きだ。
国境近くの僻地に領土をもらい、直ぐに現地に送られた。本当に何もないところだった。
でもトム様もいるし、ここまでは私の噂を知っている者はいない。
村人たちはとても親切にしてくれる。私はやっと幸せを見つけることができた。
トム様が侯爵家の本をすべて写してくれたので、その本を読んで勉強しながらトム様の統治のお手伝いをした。私の知識が少しでもトム様、いえ旦那様の役に立てるといいのですが。
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